※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

超高齢化社会を迎える日本にとって、介護の仕事は重要な役割を担っている。人手不足や賃金の安さなど問題が叫ばれているが、介護保険や高齢者向け施設の充実により、海外に比べると優れている点も多い。

そんな日本の介護を母国である中国に広めたいと、高齢者向け施設の運営をおこなっているのが株式会社M.Y.Yだ。創設者である毛遠鷹社長に、事業を始めるに至った経緯や今後の展望をうかがった。

日本の素晴らしい介護サービスを、中国へ広めたい

ーー現在の事業を始められたきっかけを教えてください。

毛遠鷹:
きっかけは中国に住む私の祖母が脳梗塞で倒れ、介護が必要になったことでした。中国の高齢者向け施設は日本のように制度や技術が整っておらず、思うようなサービスを祖母に受けさせることができなかったのです。

日本では高齢者向けの施設を利用する際、ほとんどの方は9割程度国が費用を負担しますが、中国では全て自己負担です。介護の分野は他国からも特に遅れをとっており、「介護職」という職種自体がありません。当然介護福祉士という国家資格もないため、職員の知識も乏しいのが現状です。祖母は寝たきりの状態から誤嚥性肺炎を引き起こして1週間も経たずに他界しました。小さい頃から仕事で忙しい親の代わりに面倒を見てくれていた祖母を、こうした環境で亡くしたことにとてもショックを受けました。

その後日本に来て、あたたかく素晴らしい日本の医療・介護サービスを目の当たりにしたとき、「ぜひ母国に持ち帰り、私と同じような思いをした方の手助けがしたい」と切望しました。中国も高齢化社会に入り、私の親も近い将来施設に入る年齢です。その前に私が日本のサービスを中国に浸透させ、開設した施設に自分の親を住まわせることが私の夢の1つとなりました。

そこでまずは日本の介護事情を学ぶべく、2018年に日本で介護事業を手掛けるM.Y.Yを立ち上げました。

ーー介護の仕事の前には他業種をご経験されてきたとお聞きしました。起業までのご経歴を教えていただけますか。

毛遠鷹:
2004年に来日し、東京の日本語学校に2年間通った後、大阪の大学に入学しました。在学中に社会勉強をしたいと思い、アパレル関係の事業を立ち上げました。中国の市場から仕入れたものを、関西の商店街にあるブティックなどの店舗に、飛び込み営業で委託販売の提案をすること約2年。徐々に人脈を広げる中で、総合アパレルブランドの「WORLD」と出会い、OEMの下請け生産をさせていただくことになりました。「COUP DE CHANCE」「INDIVI」「SOUP」などの女性向けブランドの商品仕入れを約10年間おこなってきたところで東日本大震災に見舞われ、アパレル事業を縮小することになります。

その後は中国の百貨店を中心に「Japajapa」というブランドで100円ショップを展開しました。2021年に日本の「Watts(ワッツ)」という100円ショップが中国展開している子会社を買収し、現在も事業を続けています。

患者と向き合い見出した「その人らしさをサポートする」という信念

ーー起業する上で大切にされてきた信条はありますか?

毛遠鷹:
創業当時から「その人らしく生きる、をサポートする」を信念にしてきました。そのきっかけというのが、患者さんの看取りという大切な場面に心を打たれたからでした。

弊社の施設に、男性のがん患者が余命3ヶ月と予想される状態で入居されました。ヘビースモーカーだった彼は、医師の反対を受けながらも「最後の一服がしたい」と懇願していたため、職員が安全を考慮した上で願いを叶えることにしたのです。つらい闘病に耐えていた彼の幸せに満ちた顔を見ると、胸が熱くなり涙が出てきました。

今の話はほんの一例ですが、患者さんが何を求めているのかをくみ取り、その人らしさをサポートしていくことで、本人はもちろんご遺族の方の心も救われるのではないかと思います。ご家族の方からの「最後まで幸せに過ごすことができました、ここに入居できて良かった」という感謝の手紙を拝読することが、私たちの喜びややりがいにもつながっています。

ーー今後日本でどのような展開をされていくのですか?

毛遠鷹:
2018年の創業から5年余りで6棟の介護施設を立ち上げてきました。今後も関東・関西を中心に施設を展開していきたいと考えています。

また3年後にはIPOへのチャレンジも視野に入れています。利用者様にとってより良いサービスを提供すると共に、社員にとっても日本一働きやすい職場環境をつくりたいと思っています。今の時代は人材が全てです。会社の成長を支えるのは社長の能力の高さではなく、社員1人1人の成長です。ですから、社員が安心して働けるよう、上場して会社の制度を整える必要があると考えています。

ーー新たにチャレンジする事業などはありますか?

毛遠鷹:
海外の方向けに、日本の医療を提供する「メディカルホテル」の創設を構想しています。主に中国の富裕層の方から「日本のがんセンターの治療を受けたい」「人間ドックや血液の透析検査を日本でやりたい」というお声を多くいただいてきました。しかし、日本の保険証がない場合は全額自己負担になりますし、予約や診察時に言葉が通じないと入院もままなりません。

そこで「メディカルホテル」を創設し、中国人スタッフが24時間常駐して予約の手配や診察時の通訳、薬の管理などをおこない日本の医療を海外の方向けに提供していきます。

また、中国では医師ではなく機能訓練指導員が提供する「リハビリ強化型デイサービス」のニーズが高まっていることから、今後はフランチャイズで展開していきます。現在中国では60歳以上の人口が2億6千万人を超え、介護認定を受けていても患者が多すぎて十分な治療を受けられないことが社会問題になっています。少しでも多くの方の力になれるよう、弊社は「リハビリ強化型デイサービス」と称し、施設内でデイサービスの一環として無償でリハビリを提供しています。

ーー社員の人材育成についてお考えを教えてください。

毛遠鷹:
弊社は管理職の育成を今後強化していき、教育制度の充実を図ります。現場のリーダーや主任など、経験がある者を積極的に昇進させ、それぞれが得意な分野を活かした配置をしていきます。

また質の高いスタッフを確保するべく、2年前から中国人留学生の受け入れを始めました。介護業界では「サービスの標準化」がしづらいという特徴があります。特に転職されてきた方は、前の職場の常識が染みついているため、弊社のサービス基準に合わせていただかないと事故やトラブルが起きかねません。社会に出る前段階で一定ラインのサービスを研修しておくことが最も「サービスの標準化」の実現に近づくと考え、こうした若年層の方への教育にも力を入れていきます。

ーー若い世代の方に向けてメッセージをいただけますか。

毛遠鷹:
弊社の会議でもよく伝えているのが、「頑張る人が幸せになる」という言葉です。介護業界は地道な作業が多いのですが、患者さんの幸せのために働けるとてもやりがいのある仕事です。作業量に対して給与の低さが社会問題となっていますが、私たちが充実したサービスを提供することで企業の収益を上げ、介護職員の給与を公務員レベルに底上げすることを実現していきたいと考えています。若い世代の方や、介護業界に興味を持ってくださっている方の頑張りを無駄にしないよう、弊社が率先して業界の改革に挑んでいきます。

編集後記

母国の介護の現状を改善すべく、日本で事業を展開している毛社長。現在の施設でも中国人のスタッフを増やし、中国と日本の架け橋になれるよう奮闘している。創業から5年という速さで決意した上場は、必ずや達成することだろう。株式会社M.Y.Yの挑戦はまだ始まったばかりだ。

毛 遠鷹(もう・えんよう)/2004年に来日し、摂南大学を卒業。卒業後起業し、アパレル商社を長年経営していたが、その後雑貨小売りなどに注力。2018年介護福祉事業を開始し、現在老人ホームを運営している。