※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

兵庫県を中心にホームセンター業からスタートし、60余年の歴史を持つアグログループ。グループ全体の戦略を決定するべく、2019年にはアグロホールディングス株式会社を設立した。同社の代表取締役社長である安黒千能氏に、設立までの流れや現在注力しているワークウェア事業の手応え、今後の展開についてうかがった。

設立の背景――地域特化型ホームセンターからの進化

ーー貴社の事業についてご解説ください。

安黒千能:
主軸は、兵庫県を中心に展開している「ホームセンターアグロ」という会社です。小売業の集団として、ワークウェアに特化した「アグロワークス」、不用品買取の「アグロエコリユースファクトリー」、園芸・農業専門の「アグロガーデン」なども手がけています。

創業者は「地域に特化し、兵庫県外には出ない」と謳っていましたが、物販業以外のジャンルにも進出することでホールディングス化に至りました。地域の各専門分野により深く入っていくという意味で、ホームセンター業から軸足を移したというのが設立の背景です。

ーー「アグロワークス」がホールディングス化の転機となったのでしょうか?

安黒千能:
当初はアグロワークスもホームセンター業の一環で、2009年に「キーポイント」1号店(兵庫県伊丹市)を出店したのが始まりです。5000坪級の超大型店を出すのがホームセンター業界で流行していた頃で、弊社は同質化を避けるべく成長分野を探していました。

ガーデンセンターやペットショップ、インテリアショップなど、ホームセンターの商材から切り出して専門業をやる流れに乗り、その一つがワークウェア業だったのです。ホームセンターと異なり1日50人程度しか来店しない店を運営する上で焦りはありましたが、仕事のユニフォームということで春夏と秋冬の年2回は、定期購入の需要が発生します。

3店舗目までは小売店の形態でしたが、受注型にシフトし、ストック型ビジネスとして顧客管理や商談管理を始めました。1号店が軌道に乗ったのは5年目のことです。

成功への視点――ユニフォーム小売業のニッチ産業を探る

ーービジネスチャンスを感じたエピソードはございますか?

安黒千能:
ワークウェア業の拠点とした兵庫県神戸市は重工業地帯で、職人さんが多いエリアです。職人さんを見ているうちに、僕は「なぜみんな水色やグレーの作業着を着ているのだろう」と疑問を抱きました。スーツのように好みで選べる作業服ショップが、ほとんどない時代だったのです。

ヨーロッパではアウトドア、スポーツ、ワークのウェアがほぼ同列に扱われる一方で、日本はワークウェアの地位が低いのだと感じました。毎日着て汚れたら捨てる消耗頻度の高いジャンルなので「安いものしか売れない」と言われがちで、目立つ企業も1社程度しか思い当たらないニッチなマーケットです。

ですから、好きな服を選べる店づくりをすれば、レッドオーシャンであるホームセンター業よりもビジネスチャンスがあると確信しました。その後、「かっこいいと仕事が楽しい。」というキャッチフレーズを作り、おしゃれな作業着を集めたセレクトショップへ転換したのです。

ーー異業種へ参入後、どのようなポジションを目指されたのでしょうか。

安黒千能:
スポーツショップは競技ごとに区別しているのに、ワークウェアはプロ向けアイテムであっても分類されていません。ワークウェアを職種別にして拡大する試みはとても面白く、業界全体のマーケットも伸びていくのではと考えました。

「作業着の消耗度が低い」「服に機能性やデザインを求める層がいる」といった点から、最初にターゲットとしたのは水道業者や電気工事業者の方々です。ターゲットが非常に狭いワーク業界で、さらにニッチ産業を追求しました。

小売業のマーチャンダイジングを生かした事業戦略

ーー店づくりにおける工夫も特別だと感じます。

安黒千能:
アグロワークスは一見アパレル小売のようですが、実はストック型のBtoB事業です。客数は少ないけれど客単価は高くなっています。「分類」の開発から始めることに大きな伸びしろがあると思い、店づくりにはホームセンター業で培ったMD(マーチャンダイジング)を生かしました。

お客様との近さもこのビジネスの魅力で、欲しいものを直接聞くことで「あるべき形」が見えてきたと言えます。お仕事帰りに来られる方が多いので、コーヒーやおしぼりのサービスも実施し、細かやかなサービスの提供を目指しております。ポイントカードによって来店頻度も明確化し、スタッフはお客様の喜びや再訪をモチベーションにできています。

すべてのワーカーのために――フランチャイズ化を目指して

ーー今後の展開をお聞かせください。

安黒千能:
全国展開を目指し、2027年の新規上場(IPO)を目指しつつ、アグロワークスのフランチャイズ化(FC)を進めています。

既存店舗と同様にFC店舗も女性の社員と店長で編成する方針ですので、女性が活躍できる企業であり続けます。また、働いている方のお休みに合わせるため、毎週土日の定休日に加えて、お盆・GW・正月休みもしっかりとれるホワイトFCとなります。

職人さんへのリサーチから生まれた自社ブランド「FIVES(ファイブス)」も拡大中です。弊社が最終的なゴールとするのは、企業だけでなくワーカーのブランディング・地位向上です。職種ごとに最高のパフォーマンスを発揮できるユニフォームを確立して、業界を元気にしていければ「事業化してよかった」と思えるでしょう。

編集後記

2019年に設立されたアグロホールディングス株式会社は、グループの多角的な事業をより効率化するとともに、維持・発展につなげる母艦だ。企業のDNAである「地域活性化」にも通ずる「人々の暮らしを良くしたい」という思いが伝わるインタビューとなった。

安黒千能(あぐろ・かずよし)/1968年、兵庫県宍粟市生まれ。1990年3月、桃山学院大学卒業。1991年12月、生活協同組合コープこうべに入組。1995年1月、株式会社ホームセンターアグロへ入社。2001年に常務取締役、2020年に株式会社ホームセンターアグロ代表取締役へ就任(株式会社アグロワークス代表取締役と兼務)。2022年、アグロホールディングス株式会社代表取締役社長に就任。地元密着企業として地域活性化に取り組んでいる。