※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

都内を中心とした築古物件をリノベーションし、クリエイティブなオフィスを運営している株式会社リアルゲイト。2021年にサイバーエージェントの傘下に入り、2023年に東京証券取引所グロース市場に上場を果たした。

2度の転職で培った不動産の知識と建築技術を武器に立ち上げた同社の設立秘話と、別業界であるサイバーエージェントへのグループ入りについて、代表取締役の岩本裕氏に理由を聞いた。

スモールオフィス・シェアオフィスという新たなビジネスを見出した瞬間

ーー中小規模事業者向けに築古ビルを再生してレンタルしていますが、中小規模事業者に特化したビジネスを考案したきっかけは何でしょう?

岩本裕:
会社員時代に分譲マンションの販売をしていたのですが、今から20年ほど前から「部屋の1室で事業をさせてもらえないか」という問い合わせが増えていました。

当時はシェアオフィスという概念はなく、中小規模事業者の働く場所はSOHO(SOHOは「Small Office Home Office」の略語)可のマンションか雑居ビルの2択でした。今後会社を興す人が増えてくることを見越して、スモールオフィスやシェアオフィスというビジネスに着目したのが起業のはじまりです。

2回の転職で実力を身に付け、確固たる自信を獲得

ーー当初から起業家を目指していたのでしょうか?

岩本裕:
私は普通のサラリーマン家庭で育ち、起業を目指していたわけではありません。高校生の頃から絵を描くのが好きで、建築家を目指すべく大学は建築の学校を選びましたが、アメリカンフットボール部に入部し、勉強よりもスポーツに明け暮れる日々を過ごしました。

アメフト部のある五洋建設株式会社というゼネコンに新卒で入社し、日中は現場監督、夜や週末には練習をしていました。しかし、スポーツも社会人としての責任も中途半端になってしまい、理想とする社会人像を描くことができなくなった26歳の頃、転職をしました。

ーー転職先はどのように選んだのですか?

岩本裕:
転職期間中に一級建築士と宅建を取得し、株式会社大京という大手マンションデベロッパーに入社しました。マンション施工の現場管理を任されており、現場説明会で多くのお客様の前で建築の構造を説明する機会があったのですが、そこで「営業をやった方が良いよ」と当時の支店長に声をかけられました。そこで思い切って営業職に切り替えたところ、性に合っていたのか営業成績はうなぎ上りでした。

ーーその後再度転職をしていますが、営業成績が伸びている中で転職を考えたきっかけは何でしょうか?

岩本裕:
30歳になる頃には営業にもかなりの自信が付き、「自分で土地の仕入れからマンションの企画販売まで一貫して任せてもらえる仕事がしたい」と強く思い、再度転職を考えます。

大手不動産会社にも内定をもらっていましたが、「大手の看板に頼った仕事ではなく自分に一任してくれる企業で働きたい」と思い、株式会社プロパストという新興不動産ディベロッパー会社を選びました。

プロパストでは土地の仕入れをした人がマンションの企画販売までできたため、休みも返上して土地を見て回り、寝る間も惜しんで働きました。短期間で成果を収め、入社後3年で執行役員になりました。

ーー仕事も好調な中、2008年にリーマンショックが起きましたね。

岩本裕:
リーマンショックによりプロパストが民事再生手続きの開始を申請し、退社することとなりました(2011年2月に再生手続きの終結が決定、現在はスタンダード市場)。

このときの私の心境としては、「こんな状況でも最後まで諦めずに自分の仕事に取り組んできたという自負があった。これからは会社から解放され、自分の好きなことに打ち込める」とワクワクした感情が湧き出てきたのです。

社員2名から始まったリアルゲイトの幕開け

ーーそこから独立を考えたのですね。

岩本裕:
当時プロパストで私が担当していたお台場の「theSOHO」という全室360室超の世界最大級のSOHOマンションが完成間際で、施工を担った建設会社が担当する予定でしたが、依頼主と建設会社から「君にしかできない仕事だ。このまま運営を任せたい」と話をいただき、社員2名、2年契約の「theSOHO」の運営委託から会社を興すことにしました。それがリアルゲイトの幕開けです。

ーー会社設立後はどのような業務をおこなっていたのですか?

岩本裕:
「theSOHO」が無事完成し、運営を開始して1年が過ぎた頃から、他のスモールオフィス・シェアオフィスの依頼もいただくようになり、青山の「PEGASUS AOYAMA」や中目黒の「THE WORKS」など、より立地の良い場所にスモールオフィスやシェアオフィスを展開していきました。

上場のために選んだサイバーエージェントという強力な助っ人

ーーその後も活躍を続ける中、2021年にサイバーエージェントの傘下に入っています。こちらの経緯を教えてください。

岩本裕:
当時の親会社は飲食店を営んでおり、非上場企業の完全子会社としてリアルゲイトは順調な業績を積み上げていました。しかし、リアルゲイトが成長していくためには資金の調達や人員の確保といった点でどうしても限界がありました。

そこで親会社と協議の上、非上場企業を親会社とした子会社上場を目指すべくIPO計画をスタートしましたが、新型コロナウイルス感染拡大によって飲食業を主体とする親会社が大きく影響を受け、上場審査がストップ。親会社を変更してIPOに向けて再チャレンジをすることとなりました。

親会社を変える決意をし、どこの傘下に入るかと考えたとき、面識のあった株式会社サイバーエージェントの藤田社長の顔が思い浮かびました。本人に話を持ちかけたところ即決していただき、前親会社の所有する全株式の譲渡が決まりました。

この方のもとで第2の人生をスタートできると思うとワクワクが止まりませんでした。その後約1年半で東京証券取引所グロース市場への上場を果たしました。

ーー上場を達成した際の心境は?

岩本裕:
上場したことで本当のスタートラインに立ったのだと感じています。藤田社長に上場を報告した際も、「数十億円で終わるような会社にはならないでください。世の中に必要なことをしている会社は時価総額も付いてくるから、これからも頑張ってください」と激励されました。

達成感よりもここからさらに飛躍しなければならないと腹をくくりました。今や社員もおよそ100人集まり、彼らに対して安定的で半永久的に残る会社をつくっていかなければなりません。それがお客様にとっても良いサービスにつながっていくことでしょう。

技術力と運営力を強みに顧客のニーズに応えていく

ーー多くの物件を手がけ、上場も果たしましたが、他社の信頼を得てきた貴社の1番の強みは何でしょうか?

岩本裕:
まずは古いビルを抜本的に改良する「技術力」です。弊社では一級建設士の資格所有者など、優秀な人材をそろえ、一級建築士事務所としての登録や特定建設業許可の取得もしています。見た目のクリエイティブさのみならず、耐震補強や増築など、建物の素地に対して抜本的な改良を施すことでバリューアップを可能としています。

また、ユーザー目線の「運営力」が最大の強みです。価格帯や機能などについても実際に使用する人の目線を大切にしてきました。弊社は企画・デザイン、設計・建設、リーシング、運営までワンストップで運営しており、そこで得たノウハウを他の案件に活かすことができます。

時代の流れによって働く人の価値は変化し続けます。最近ではコロナ禍によって人々の働き方は大きく変わりました。こうした変化を1番にキャッチできるのは直接お客様との接点がある運営です。「大きくつくって長く貸す」という不動産の鉄則の概念はすでに崩れています。変化を敏感に捉えて、ニーズに合わせた提案をできるところが他社との違いです。

ーー今後の課題は何ですか?

岩本裕:
多くの不動産企業では売れ筋のデザインを確立し、シリーズ化していきますが、弊社の場合はそうではありません。物件の特性に応じて企画を立案しますので、企画から運営までマネジメントできるプロジェクトリーダーの育成が必要です。たまたま私は1つの役割には収まらず、設計・運営・現場監督などを転々としていたので広い知識と経験がありますが、そうした幅広い能力のある人材を社内でどう増やしていくのかが今後の課題です。

編集後記

ユーザーの目線に立って最新のニーズを考えながら仕事をしてきた岩本社長。「不動産は一つとして同じものがない。だからこそ、目の前にある物件に対して、みんなでパズルのように事業を考えるのが非常に面白いのです」と目を輝かせた。

アメフトで培った頭の回転の速さと、あくなき好奇心が社長の人生を彩ってきたのだろう。個性的な建築物を循環させ、日本の企業を今後も支え続けてくれるに違いない。

岩本裕(いわもと・ゆたか)/1973年東京都生まれ。一級建築士。新卒で入社した大手ゼネコンでは、主にマンション工事の現場監督とアメフト選手として活動。その後、マンションデベロッパーにて用地仕入れから企画販売までを一貫して経験。2009年8月にお台場「theSOHO」の立ち上げを機にリアルゲイトを設立、代表取締役に就任。2021年7月、サイバーエージェントグループに参画。2023年6月、東証グロース市場に上場。現在に至る。