※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

「新しい服が欲しい」と思った時、ショッピングセンターやデパートのショップをふらりと見て回ることが多いのではないだろうか。このように客は目移りが激しく、流行は移ろいやすく、ファッション業界の企業は簡単に赤字に転落する。

株式会社コックスのV字回復をけん引する代表取締役社長の三宅英木氏は、アパレルメーカー大手のサンエー・インターナショナルを皮切りに、オンワード樫山、イトキンなど名だたる大手企業の担当事業を黒字化させてきた。

その経緯と現在の戦略について、三宅社長にうかがった。

大手3社でのスピード再生実績

ーー貴社に入社されるまで、3社の役員をされています。遍歴を教えてください。

三宅英木:
ファッション業界に興味があり、大学卒業後は丸紅に入社しました。その後、東証一部上場企業だった株式会社キャビンに2年間出向し、ファッションの現場で仕事をした時、会社が傾いていくのを目の当たりにしショックを受けました。

これをきっかけに、業界の変革を志し、経営者を目指してMBAに挑戦するためコロンビア大学に留学しました。コロンビア大学では、ファイナンスを専攻する大学院生が多いのですが、私はあえてマーケティングを専攻しました。

丸紅退社後、ファッション業界変革の最初のステージとして、2010年にサンエー・インターナショナルに入社し、執行役員経営戦略部長として全社の舵取りを行いました。
その業務の一環として、2011年フリーズインターナショナルの取締役に就任し、赤字子会社の再生を行いましたが、これが再生請負人としてのスタートとなりました。

オンワード樫山には、当時社長に就任した馬場さんが若く、経営の参謀を探していたことから、ご縁があり2014年に転職しました。

ーー各社でどのような業績をあげられましたか?

三宅英木:
サンエー・インターナショナルでは、全社の舵取り役として、入社3年目での赤字からの脱却に貢献するとともに、東京スタイル社との経営統合を実現するなど業界再編にも注力しました。

オンワード樫山では、事業責任者、事業開発担当、海外担当を兼務しました。そして、事業責任者として、国内最大の赤字事業を短期間で立て直した経験が、その後の企業再生ノウハウの基本を形成することとなります。

イトキンの副社長に就任したきっかけは、ヘッドハンティングでした。与えられた課題は10年以上にわたって続く赤字を黒字化するということでした。入社後、全社のプロモーション改革などにより、1年での黒字化を果たし、20億円以上の利益改善をしましたが、既存店売上が前年比で90%を下回っていたところから、110%を超えるまで一気に改善し、会社の雰囲気が大きく変えられたことがスピード再生の最大の要因です。

売れる物をつくり、売れる人を育てる

ーー貴社の最初の印象はどのようなものでしたか?

三宅英木:
弊社に2021年に入社した当初は、これまで3社を経験してきた中で「この会社は大変だ、これまでで最も厳しい」という印象でした。

業績が悪化しても、社員自身が危機感を感じて何らかの行動を起こす文化がなく、そこが最も厳しいと感じたところです。

しかし、入社して直ぐに実施した雑誌タイアッププロモーション効果で業績が回復してくると、社員の意識も変わってきました。赤字だった弊社の営業利益率はたった2年で2023年上期実績で11.5%まで高めることができています。これは上場しているファッション企業の中ではハニーズさん、ファーストリテイリングさんに次いで3位です。

ーー貴社ではどのような手法をとったのでしょうか?

三宅英木:
弊社では「売れる物と売れる人を生み出せる会社にしよう」を全社方針とし、この2点に絞り込んで組織や業務を徹底的に断捨離してきました。

売れる物づくりでは、まず、生産性のない会議や書類作成にかける時間を大幅に削減し、商品検討に時間を集中しています。その結果、商品検討時間は過去と比べて10倍に増えました。コア業務に集中する為の業務の断捨離です。また、ファッション業界特有の感性に頼った意思決定に、定量的ロジックを融合させることで、消化率を70%台から90%程度にまで劇的に改善することに成功しています。

売れる人づくりは、「業界で最も売れる販売のプロ集団」を創り上げることを目標として、営業部門の体制強化を改革しました。エリアマネージャーやスーパーバイザーのように販売せず管理のみを行う職種を廃止し、店長兼統括店長という役職に統合しました。これにより、統括店長は管理だけでなく、自店の売上に責任を持ちながら、他の店舗にもアドバイスを行う形に変更しました。販売組織内の階層の断捨離です。

弊社はパートナー(社員以外の販売員)の販売力によって業績が伸びています。社員とパートナーを区別せず、販売のプロ集団として一致団結して、販売力強化を推進していきたいと考えています。全員が売れる人になり、売りたいと思うような徹底した成果主義に基づく報酬制度を整えることで、結果として「業界で最も売れる販売のプロ集団」ができることを目指しています。

今後の成長戦略と有名ブランドへの布石

ーーブランディング強化とEC強化を行いたいとお聞きました。

三宅英木:
ブランディングに関しては、誰でも知っているファミリーファッションブランドになることが目標です。構造改革が完了したので、次は成長を加速させる必要がありますが、成長の鍵はおそらく「ikka」のブランド力にあると考えています。

店頭のモチベーション向上とプロモーションによる短期的な売上増は達成できました。次のステージは、社員の期待に応えるため、テレビCMを打つなどの長期的なブランド力向上を図ることです。現在、そのための計画と準備を進めています。

弊社のEC事業は、私としては物足りないと感じています。EC化率は10%にも満たず、まだまだ伸びしろがあると思います。今後も外部からより多くの人材を採用し、新たな視点やノウハウを取り入れて、さらなる発展を目指したいと考えています。

編集後記

ファッション業界を変革するためにMBAを取得した三宅社長。数々の会社の黒字化に成功した後、満を持してコックスの社長に就任した。かつては赤字が続く業界最低水準だった会社を、現在では最高水準の利益を出すまでに至った手腕は見事だ。

三宅社長は「社員がずっとここで働きたいと思えるような会社をつくる」と語る。きっと、社員にもユーザーにも魅力あふれる会社をつくっていくことだろう。

三宅社長の挑戦に、これからも注目していきたい。

三宅英木(みやけ・ひでき)/コロンビア大学でMBA(経営学修士)取得。92年に丸紅株式会社入社。11年から株式会社フリーズインターナショナル取締役を皮切りにアパレル企業の経営に携わる。12年3月から株式会社サンエー・インターナショナル執行役員、14年7月から株式会社オンワード樫山クリエイティブオフィサーを経て18年2月からイトキン株式会社副社長執行役員。21年5月、株式会社コックス社長に就任。54歳