
カーテンは生活に必要不可欠なインテリア商品でありながら、購入頻度が低いため、自分に合う商品選びが難しい一面もある。専門店として「安さ」ではなく「安心」を追求する株式会社くれないでは、安価な海外製品が台頭する市場において、あえて価格ではなく「品質・サービス」で成長を続けている。常識を覆す「オーダーカーテンの返品保証」や、消防法で設置が義務付けられる「防炎カーテン」の専門性を武器に、ホテルや教育機関などの法人需要を掘り起こしている。独自の取り組みを展開する同社の戦略と展望はどこにあるのか。代表取締役社長の津田善朗氏に詳しくお話をうかがった。
継ぐ予定のなかった家業 恩返しの決意に至るまでの道のり
ーーまずは、津田社長が家業を継ぐことになった経緯をお聞かせいただけますか。
津田善朗:
もともと家業を継ぐ予定はありませんでした。私の学生時代にバブルが崩壊して景気が落ち込んだことで、町の商店街自体も活気が失われていく様子を客観的に見ていたからです。当時は実家である弊社に対しても、継ぎたいという思いは持てませんでした。
大学卒業後は、不動産や住宅の知識と営業力を身につけたいと考え、不動産業界へ進みました。報酬の90%が歩合制という厳しい世界だったため、1年目は死に物狂いで取り組みました。その結果、1年目も2年目も営業成績でトップをとることができたのです。
しかし、次年度から課長職として組織管理や資金管理に追われる中で、仕事への楽しさが薄れていきました。そんな中、久しぶりに実家へ帰ると、以前から始めていたインターネット通販が好評を博していました。忙しくも活き活きと働く家族の姿を見て、力になりたい、恩返しをしたいと思ったのが、家業を継ごうと思ったきっかけです。
ーー代表取締役社長に就任後の取り組みを教えてください。
津田善朗:
兵庫県伊丹市にある縫製工場を子会社化しました。現在は「株式会社くれないカーテン工房」として、自社で運営しています。昨今の人材不足の中で、近隣に住んでいる方のみで50名近くが在籍している貴重な拠点です。オリジナルの商品を展開していくためにも、自社で製造拠点を保有する必要があると考えました。
また、最近では管理部門の体制強化にも着手しました。これまで経営は私と会長の2名体制で担っていましたが、営業部門の統括責任者を役員に昇格させ、さらに外部から財務・総務のスペシャリストを役員として迎え入れました。弊社はスタッフの約9割が女性です。産休・育休の取得促進や働きやすい環境の整備など、従業員が安心して長く働ける体制を盤石にすることは、会社の持続的な成長に不可欠だと考えた結果です。
ターゲットを絞り、競合を寄せ付けない「一点突破」の戦略

ーー社長になるまでの取り組みの中で印象的なものを教えてください。
津田善朗:
ブランディングとターゲティングの2点に注力しました。まずはブランディングとして、自社商品のネーミングにこだわっています。商品の特徴を明確に表し、深い意味を込めた名前を付ける。こうしたプロセスを積み重ね、ブランドコンセプトの構築を真摯に進めてきました。
ブランドコンセプトをつくる際に注視したのがターゲティングです。カーテンという広いカテゴリーの中で、ターゲットを絞り込んでいます。商品ごとにターゲットを絞れば、競合他社の中で1番になれると考えたのです。そのターゲットのニーズに徹底して応える商品をつくりました。たとえば、プライバシーを守るために開発した目隠し効果の高いレースカーテンは、昼夜関係なく部屋の中の様子が見えず、UV効果も両立しています。こうしたターゲットの期待に特化した商品開発に力を入れたのです。ただやみくもにカーテンをつくるのではなく、ターゲットのニーズを捉えているかどうかを考慮し、現在まで商品を展開してきました。
ーー近年の市場環境の変化と、それに対する貴社の戦略について教えてください。
津田善朗:
ここ数年で、Amazonなどのプラットフォームに中国系企業が直接参入し、販売を行うケースが急増しました。以前のような「海外でつくって日本で安く売る」モデルでは、製造元が自ら仕掛けてくる価格競争には勝てません。実際、Amazonの売上ランキング上位には平均単価3,000円台の安価な商品が並びますが、弊社の平均単価は12,000円ほどです。
こうした状況下でも、私たちはあえて安売り競争には参加しないと決めました。ここで安売り競争に参加してしまうと、利益が削られ、社員に還元することも、質の高いサービスを提供することもできなくなるからです。そのため、原材料費の高騰に合わせて価格改定を適切に行いつつ、日本国内の縫製工場による確かな品質を磨き上げました。
また、詳細な商品情報の発信や購入後のアフターサービスを強化しました。結果として、売上を維持しながら利益体質な経営へと転換できています。「安さ」ではなく、「安心」や「失敗しない買い物」を求めるお客様に選ばれている手応えを感じています。
オーダー品の常識を覆す「返品保証」
ーー実店舗を持つ専門店としての強みや、接客で大切にしていることを教えてください。
津田善朗:
他のEC業者とは違い、実店舗でお客様の声を直接聞くことができる点が弊社の強みです。たとえば疑問の声があれば、すぐに解決動画をECサイト上に掲載できます。商品販売では、お客様の不安を解消することを何よりも大切にしています。そのため、常に「お客様主体」で考えるよう徹底してきました。
私たちは商品を「売る」のではなく「選んでもらう」存在でありたい。そのために、適切な情報提供を重視しています。第三者機関による試験数値を忠実に表記するのはその一環です。試験証のコピー送付も可能にし、正確な数字をエビデンスとして掲載しています。
また、「社会に選ばれる企業」であることも重視しています。たとえば、15年ほど前から「リサイクルカーテン」の取り組みを続けています。お客様がカーテンを購入する際、不要になったカーテンを回収し、リサイクル燃料として再利用する仕組みです。他にも、商品レビュー数に応じたワクチン寄付なども行っています。これらは直接的な売上にはなりませんが、こうした姿勢が巡り巡ってお客様からの信頼につながると信じています。
ーー法人需要も拡大しているそうですが、どのような背景があるのでしょうか。
津田善朗:
インバウンド需要の回復に伴い、ホテルや民泊、さらには学校や企業の寮などからの注文が増えています。ここで弊社の大きな武器となっているのが「防炎商品」です。日本では消防法により、高さ31メートルを超える高層マンションや、公共性の高い施設では「防炎ラベル」が付いたカーテンの使用が義務付けられています。
しかし、安価な海外製品の多くはこの基準を満たしておらず、防炎ラベルが付いていません。弊社は長年、燃えにくい糸や後加工の製品開発に注力してきました。その実績から、現在は売上の約70~80%は「防炎商品」が占めています。コンプライアンスを重視する法人や教育機関から、多くの指名をいただいています。
実は、法人需要の拡大は工場の生産性向上にも直結しています。個人のお客様の注文はサイズも生地も多種多様で、その都度ミシンの糸を変える必要があります。一方、法人からは「同じ商品を100枚」といった注文が入ります。すると、同じ糸で縫い続けられるため、段取り替えのロスが劇的に減るのです。工場の効率化という面でも、法人需要は重要な戦略となっています。
ーー主力のECサイトで、何か新たに取り組まれていることはありますか。
津田善朗:
オーダーカーテンの常識を覆す「返品OK」というサービスを自社サイト限定で開始しました。通常、オーダーメイド品は返品不可が当たり前です。しかし、お客様にとって、実物を見ずにネットで高額なオーダーカーテンを買うことは不安が伴います。これまでは採寸ミスやイメージ違いへの不安が、購入の大きな壁になっていました。
そこで、商品代金の5%で加入できる保証サービスをつくりました。このオプションに加入いただければ、自己都合であっても返品を受け付けています。何より「万が一失敗しても大丈夫」という安心感が、購入を後押ししていると実感しています。
ーー今後の商品展開について、どのような展望をお持ちですか。
津田善朗:
日本の人口減少に伴い、住宅着工数、つまり「窓の数」は今後減っていきます。窓だけにこだわっていては、市場は縮小する一方です。そのため、窓以外の場所に目を向けた商品開発を進めています。たとえば、リビング階段の冷暖房効率を上げるための「スリットカーテン」や、Web会議や集中したい時のための吸音・防音効果のある「プライバシースクリーン」、さらには車中泊需要に向けた車内用カーテンなどです。縫製工場という「つくる力」があるからこそ、カーテンの既成概念にとらわれず、時代のニーズに合わせた商品を柔軟に生み出していきたいと考えています。
「まず人生、次に仕事」を貫く 働きがいと効率の両立
ーー採用にあたって、大切にしている基準を教えてください。
津田善朗:
今いるスタッフと異なる個性を持った方を採用するようにしています。「自分一人くらいいなくてもなんとかなる」と思ってほしくないからです。弊社では、スタッフに「自分しかできない仕事」を任せています。たとえば、データの管理や、特定の広告運用など役割はさまざまです。自信を持ってやり抜いてほしいという願いがあります。面接では、その方が弊社で活躍する姿を描けた人を採用しています。
ーー最後に、若い方へ向けてメッセージをお願いします。
津田善朗:
私は、採用面接の際、「まず人生があって、人生を豊かにするために仕事がある」と伝えています。生活や趣味を充実させるには、お金も時間も必要です。仕事は、人生を充実させるための手段であってほしいと考えています。だからこそ、いかに仕事を充実させ、楽しいものにするかが大切なのです。たとえば「推し活」が人生の活力になっている場合。ライブやツアーに行く費用や休みを確保するために、一生懸命に働く必要があります。さらに業務を効率よく終わらせて時間を生み出す工夫も欠かせません。プライベートを充実させたいという思いが、仕事を頑張る原動力になれば嬉しいですね。
弊社では残業がほとんどありません。18時15分が定時ですが18時30分ごろにはほとんどの社員が退社しています。その時間であれば、次の日仕事があったとしても、友人と食事に行ったり、趣味を楽しんだりして帰宅することができます。そうしてリフレッシュすることで、翌日また元気にお客様に対して楽しく接客ができるのです。私自身、不動産営業時代は昼夜問わず働いていましたが、今は「今日できることでも、明日でいいなら明日やる」くらいの気持ちで、メリハリをつけることを推奨しています。社員の心を常に充実させる環境を整えることこそが、結果としてお客様への良いサービスにつながると信じています。
また、「PDCAサイクルを回しましょう」と日頃から伝えています。プランばかり考えていても数字や結果は生まれません。まずはなんでもやってみて、その結果から「次の改善」につなげることが重要です。失敗を恐れずに挑戦し、ブラッシュアップを繰り返す。そんな姿勢を、これからの若手の方々には期待したいですね。
編集後記
品質とサービスを磨き上げることで独自のポジションを確立し、「安売り競争には参加しない」と断言する津田氏。その視線は単なる利益追求ではなく、社員の幸せや顧客への誠実さに向けられている。「オーダーカーテンの返品保証」という常識破りの挑戦や、窓以外のニッチ市場への進出も、すべては選ばれる企業であり続けるための必然の選択なのだろう。ユーザーの期待を超え続ける同社の歩みに、今後も注目したい。

津田善朗/1980年大阪府出身。2002年に大学を卒業後約3年間、不動産業界に携わり2005年に株式会社くれないに入社。クリエイティブディレクター、ジェネラルマネージャーを経て、2020年10月、代表取締役社長に就任。