※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

奈良県には、複数の製造加工分野で世界シェアNO.1をとった、「小さな巨人」と呼ぶにふさわしい会社がある。パンティーストッキングの製造機械で革新を起こし、これまでにないアイデアで発展を続ける機械製造会社、株式会社タカトリだ。

なぜいくつもの分野で、新たなアイデアを生み出し続けられるのか。その裏には、代表取締役社長である増田誠氏をはじめとする、タカトリに引き継がれてきた「魂」とも呼べる考え方があった。その本質とは何か、増田社長にうかがった。

ひとつの分野に満足せず、つねに未来を見据える

ーーまずは、タカトリの沿革を教えてください。

増田誠:
タカトリは昭和25年(1950年)に創業した株式会社高鳥機械製作所を前身とする会社です。事業内容は、繊維機械の製造・販売や半導体製造機器、液晶製造機器、マルチワイヤーソー(新素材加工機器)、医療機器などの製造・販売です。

タカトリが有名になったのは、パンティーストッキングの生産方法に変革を起こした股上自動縫製機「ラインクローザー」の開発からです。当時は世界64ヵ国に販売し、世界レベルでシェアを独占して「小さな巨人」と称されていました。

その後、1980年ごろになると、会社の新たな柱をつくるべく、シャープ株式会社への機械納入をきっかけに半導体製造機器と液晶製造機器の分野に進出しました。

1990年からは、水晶、化合物半導体、圧電素子等、サファイアやSiC(シリコンカーバイド)といった硬くてもろい硬脆(こうぜい)性材料やシリコンインゴット(シリコンの柱)の精密切断加工ができるワイヤーソーの製造をスタートし、2014年からは医療機器も手がけています。長年培ってきた高い機械技術を、さまざまな分野で活かしています。

絶え間ない挑戦で新たな価値を創造する

ーーさまざまな分野に参入しているのはなぜですか?

増田誠:
複数の分野を開拓しているのは、時代の変化やニーズの減少に対応するためです。

機械設備は耐用年数が長めなので、浸透と共に需要が減少します。また、時間の経過と共に競合の参入が起こったり、機械の特許が切れたりといった問題も発生します。

弊社は、LEDの発光基盤に使われるサファイア切断加工機で世界トップシェアを獲得したことがあります。しかしそのときも実績に甘んじることなく、新たな可能性を模索していました。それは、LED光の波長の違いによるさまざまな効果を、既存装置にとり入れることです。

このチャレンジは、本来の目的を達成するには至りませんでしたが、医療機器に参入するきっかけになりました。

参入分野は変わっても、技術はつながっていくものです。いつまでもひとつの事業で立ち止まらず、培った技術を社会に活かすため、つねに新しい道を探し続けることが大切なのです。

「創造と開拓」を掲げ、先駆者のいないニーズへ飛び込む

ーーチャレンジを続ける社風は、昔からあったのですか?

増田誠:
タカトリは創業当時から企業理念に「創造と開拓」を掲げています。これは、人に言われて製品をつくるのではなく、自分たちで需要を見つけ出していくということです。

この考え方は、会社が生き残っていくためにも大切です。すでに先駆者がいる分野には競争がありますが、自ら開拓した分野であれば競争はありません。タカトリはそうやってポジションを獲得してきました。

一見無謀に思えるかもしれませんが、中国には「成竟事者志有」(志ある者は、事竟(ことつい)に成る)ということわざがあります。これは、「志があれば必ず成就する」という意味です。タカトリは「創造と開拓」という精神のもと、今後も新たなチャレンジに取り組み続けます。

何より大切なのは、タカトリの魂を次世代へつなげること

ーー増田社長の経歴を教えてください。

増田誠:
私は1986年にタカトリに入社しました。ちょうどパンティーストッキングの縫製機でその名前が知れわたったころです。私はそんなタカトリに憧れ、製造に携わりたいと思っていました。

しかし、入社したタイミングがちょうど新規分野開拓の時期で、私は希望とはまったく異なる営業部門に配属されたのです。最初は戸惑いましたが、入ったからにはここで頑張ろうと、気持ちを新たに業務に取り組みました。

社長に就任したのは2016年のことです。当時副社長だった私は、世代交代のタイミングで立候補し、社長に就任しました。

ーーなぜ社長に立候補しようと思ったのですか?

増田誠:
社長に立候補した理由は、タカトリの魂を次世代へつないでいくためです。タカトリにとってもっとも大切なのは「創造と開拓」というポリシーですが、当時はその考えが弱まっているように感じました。そこで、自らがトップとなって会社をけん引していこうと思ったのです。

現在は組織の強化を計っている最中です。このプロジェクトは10年がかりで取り組んでおり、地球から月まで徒歩で10年かかる話になぞらえて「月までの旅」という名を付けました。

目的を達成するまでにはさまざまなハードルがあるでしょう。しかし、それらを超えてこそ成長が見込めます。もっとも超えるべき存在は、過去に世界NO.1になった「過去のタカトリ自身」です。これさえクリアできれば、タカトリは今後も創造的な開拓者でいられるはずです。

タカトリは新たなアイデアを描くキャンバス

ーーこれから社会人になる方たちに向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

増田誠:
フロンティア精神を持った方は、ぜひタカトリで価値の創造に挑戦してもらいたいと思います。

タカトリのミッションは、いかに有益な商品を生み出し、利益を提供していくか。これがすべてです。このミッションを実現するにはフロンティア精神から生み出される「耐性・改革・挑戦」という3つのキーワードが欠かせません。

「耐性」は、環境や市場の変化に耐えて生き延びること。「改革」は、自らを改革して生き延びること。そして「挑戦」は改革すべきテーマにひるまず取り組むことです。組織にこの3つが揃っていれば、どんな状況下でも前に進み続けられるはずです。

タカトリには挑戦できる環境が整っていますし、年収もこの3年間で1.36倍に伸びています。自分の力を試してみたいという方は、ぜひタカトリというキャンバスに自分のアイデアを思い描いてほしいと思います。

編集後記

トップに上り詰めただけで満足することなく、つねに未来を見据えて歩み続けるタカトリ。増田社長はまさにその魂を体現したような存在だ。「月までの旅」の名のもと、増田社長率いるタカトリがどんな道を描くのか、旅はまだ始まったばかりだ。

増田誠/1963年奈良県生まれ。大学卒業後、1986年にタカトリに入社。執行役員営業本部長、代表取締役副社長兼経営企画本部長などを経て2016年10月、代表取締役社長に就任。