研究者から起業家に。
1人1台の人工知能が生み出す“人生が変わる出会い”


カラフル・ボード株式会社 代表取締役CEO/人工知能科学者 渡辺 祐樹

※本ページの情報は2017年4月時点のものです。

ユーザーの感性を学習する人工知能(AI)プラットフォーム『SENSY』を開発するカラフル・ボード株式会社。大学とも連携しながら開発した『SENSY』は、画像認識と自然言語処理技術を組み合わせた人工知能で利用者のファッションセンスを解析し、好みにあったアイテムを提案する。感性をデータ化することは、ユーザーに新しい出会いを生むだけでなく、顧客に合わせた販促計画や商品企画にもつながってゆく。『SENSY』の技術の活用は、ファッションの世界のみならず、食を始めとするライフスタイル全般に展開しつつある。

2011年に設立したカラフル・ボードは、2014年11月に『SENSY』をサービス開始。2015年4月にACA株式会社運営ファンドによる1.4億円の資金調達を実施し、2016年10月には慶応義塾大学のベンチャーキャピタル「慶應イノベーション・イニシアティブ」の第1号として出資を受けた。世界的に注目される人工知能の分野で活躍する、カラフル・ボード代表取締役CEO、渡辺祐樹。研究者から起業家に転じた渡辺氏が語る、これからの世に求められる人物像とは。

渡辺 祐樹(わたなべ ゆうき)/慶應義塾大学理工学部卒業。人工知能アルゴリズム研究に従事した大学4年時に起業を志し、起業家育成制度を利用して株式会社フォーバルに入社。初年度にトップセールスを獲得する。事業の立ち上げを学ぶために転じたIBMビジネスコンサルティングサービス株式会社でアパレル業界の膨大な在庫事情を知り、ファッションアプリ『SENSY』につながるビジネスの種を得る。在職中には公認会計士資格も取得。イーソリューションズ株式会社で事業プロデュースを学んだのち、2011年にカラフル・ボード株式会社を創設した。

成長を左右する“明確なビジョン”

-コンサルティング業界でご活躍されました。数多くの方に出会われる中で感じられた、優秀な方々の共通点とはどのようなものでしょうか?

渡辺 祐樹:
優秀で、かつパフォーマンスを出せる人には、自分のビジョンが明確になっているという共通のポイントがあります。自分のやりたいことがはっきりとしている人ほど成長が早い。ビジョンがあるがゆえに為すべきことがわかり、相談する人からも何をしたらよいかいうアドバイスを引き出すことができるので、能力がさらに高められます。ビジョンが明確でない人は、自分に足りないものもわからずに遠回りしていることが多いと感じます。

-渡辺社長ご自身は学生のときから起業という強いビジョンをお持ちでしたか?

渡辺 祐樹:
大学4年生のときに起業を志しました。世の中で解決されていないものを解決したいと思ったのです。それまではAIの領域である基礎研究に燃え、研究者を目指していました。新しいものを発見する研究は楽しかったのですが、自分のやりたいことを棚卸ししていく中で、研究では思いが半分しか満たされないと感じました。もう半分である、具体的に誰かの生活を変えたり、目に見える課題の解決につながったりする、まだ世の中にない産業や事業の発明をしたいと思い始めたのです。

-起業に向けて勉強や経験を積み重ねていらっしゃいました。その中で、自分自身になかった新しい学びや影響を受けたエピソードはありますか?

渡辺 祐樹:
学びは常にありました。特に新卒で入社したフォーバルは、自分に不足していると感じていたコミュニケーション力や交渉力を身につけるため、あえて選んだ営業の会社です。どういうお客様に対して自分たちの良さやビジョンをどう伝えていくのかということや、組織をどうマネジメントして結果としての数字を作っていくのかを、がむしゃらに学ばせていただきました。一方で、数字を客観的にとらえながら実務と結び付けるなど、理系的な考え方やアプローチも経営に応用できることがわかりました。

組織を強くする“ビジョンの共有”

-組織のマネジメントを学ばれたとのことですが、渡辺社長が人をマネジメントする上で大切にされているのはどのようなことでしょうか?

渡辺 祐樹:
組織を成り立たせるためには、いかに仲間とビジョンを共有できるかが大切だと感じました。アントレプレナープログラムは、入社3か月で新規法人契約を2件獲得しないと首になるというサバイバルな制度で、折々にノルマが設けられています。自分の数字も追いかけなくてはならない中、3か月でマネージャーになり、同期メンバーをまとめる立場となりました。

3人のチームの中でもそれぞれが自分の目標や得意不得意を持つ中、組織としてのシナジーを生むために必要なのが、共通のビジョンを持ったり、きちんと役割分担したりしていくことでした。1年目にトップセールスを獲得しましたが、目指す方向を合わせ、インセンティブの設計の仕方などを決めて、組織として機能するチームを作りあげたことが大きな要素になりました。

人材をマネジメントする上でビジョンの共有を重視していると語る渡辺社長。

-実際に起業された今、人をマネジメントする上で特に注意されているのはどのようなことですか?

渡辺 祐樹:
カラフル・ボードの社員は現在15人。採用する際は、当社とビジョンを共有できるかという点をもっとも重視しています。大きな組織なら少しビジョンがずれていても吸収できるかもしれませんが、この規模の組織では1人が違う方向を向いていると、それが全体に与える影響は大きい。
やはり目指す方向性を共有できないと、組織としてパワーを発揮できません。今は、その人のやりたいことと当社のやりたいこととの方向が合っていなければ、いかに能力が優れていても基本的には採用しないというスタンスです。

-どのようなスキルや能力のある方を求められていますか?

渡辺 祐樹:
職種で言うとエンジニアやAIの研究者を中心に採用していますが、エンジニアとしてのスキルよりもマインドやカルチャーがフィットするかを重視しています。手探り状態であるAIの領域では、必要なのは変化とスピード。敷かれたレールを走り抜けるのではなく、先が見えない中で、それでもビジョンを常に持ちながらチャレンジしていくという事業なので、たくさん失敗してその中で少しでも成功の確率が高いものをいち早く見つけ、それを掘り下げることの繰り返しが、組織の強みにつながっていきます。

変化に強く、変化はあって当然というマインドを受け入れられるかどうか。そしてスピードがとても重要だということを認識している方を求めています。

-今後のビジョンや目標を改めてお聞かせいただけますか?

渡辺 祐樹:
カラフル・ボードでは、人の感性を学習するというコンセプトで開発した人工知能『SENSY』の技術を使い、自分の生活をサポートしてくれるパーソナルAIを1人1台持つという社会を作っていきたいと思っています。パートナーとしてのAIの存在で、いい商品や情報を出会うことができたり、生活が豊かになっていったりする世界を作りたい。
『SENSY』はファションからスタートしましたが、2016年は食の分野に展開しており、今後はあらゆるライフスタイルの領域に広げていくつもりです。そしてグローバルにパーソナルAIのプラットフォームを展開したいです。

-海外進出もお考えでしょうか?

渡辺 祐樹:
直近3-4年のビジョンとして、2017年には取り組み始めたい。AIは日本の中だけで閉じているようなビジネスや技術ではありません。日本である程度のプロトタイプの検証が終わったら、すぐに海外に持って行こうと思います。実際に、グローバルに対応できる人材の採用も優先的に行っています。

優れた能力を補完しあうことで生まれる“柔軟な組織”

カラフル・ボードが開発する人工知能プラットフォーム『SENSY』。日本の人工知能の開発技術を海外に示す足掛かりとなるか。

-人工知能という領域は、海外と日本とでかなり差があるのでしょうか?

渡辺 祐樹:
技術レベルで言うとそれほど差はないと思います。しかし産業やビジネスとなると、AIを活用した事業の規模はアメリカや中国などは非常に進んでいます。海外企業の方がAIに対する投資が積極的なことが背景にあります。日本の技術は海外で通用すると思うので、日本の市場だけに閉じずにどんどん海外に出ていきたい。

AI関連の研究は大学がメインになると思いますが、研究室や目指す人も増えているので人材基盤も強化されていくでしょう。一般のエンジニアもAIを使いやすくなってきているという背景があるので、社会人の中でもAIにかかわる技術者は今後増えてくると思います。これらが国全体で見たときのAIの強みとなるのではないでしょうか。

-会社規模を広げるとともに人を増やす中で、渡辺社長が右腕としてほしいのはどのような人材でしょうか?

渡辺 祐樹:
自分に持っていない領域を持っている人がいてくれることが一番だと思います。仕事の一部を代替してくれるだけでなく、自分の及ばない分野に優れている人がサポートしてくれることで、自分の出せなかった部分のパフォーマンスが向上します。トップとナンバー2の関係に限らず、そういう人が増えることで組織全体が強く柔軟になっていくので、それぞれの階層でそのような関係を作っていきたいですね。

-Webサイトの閲覧をきっかけに転職を考える方もいらっしゃいます。読者の皆様へメッセージをお願いできますでしょうか。

渡辺 祐樹:
僕らは新しいAIを活用した社会、新しい産業を作っていこうとしています。そこを一緒にやりたいという方がいらしたら、是非一度お話ができたらと思います。

編集後記

将来のビジョンを明確に持つことが成長につながると語る渡辺氏は、自らも志を達成するために経験を重ね、起業に至った。科学者でありつつ経営者ともなった渡辺氏。情報過多の現代におけるミスマッチをAIにより解消し、世の中に新しい出会いを生みだすかつてない未来を臨む。