※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

株式会社なにわ花いちばは、全国トップクラスの取引量を誇る「大阪鶴見花き地方卸売市場」にて花きの卸売事業を展開する会社だ。日本国内はもちろん、世界の30〜40カ国の生産者から1日平均5000種類200万本もの生花を集め、生花店やホームセンターなどを経て日本中や世界約10カ国の消費者へ届けている。

今回は同社会長の奥田芳彦氏に、花の業界に入った理由や入社の背景、苦労したエピソード、なにわ花まつり、今後の展望などについて話をうかがった。

結婚が目的で飛び込んだ花の業界

ーーキャリアとして花の業界を選んだ理由を教えてください。

奥田芳彦:
実は、付き合っていた彼女と結婚するためです。大学時代は雀荘を経営していたのですが、彼女の親には「雀荘で働いているような人と娘は結婚させられない」と反対されてしまいました。そこで親戚の叔父の養子になり、大阪生花卸市場株式会社に入社して、花の業界に飛び込んだというわけです。

「花が好き」という理由で入った業界ではありませんでしたが、それまで中途半端なことばかりしてきたので、しっかり結果を残せるように努力しなければという思いで新たなスタートを切ったのです。結婚生活のために少しでも給料を上げなければという思いもありました。

周りとの差に焦りを感じて猛勉強した入社初期

ーー大阪生花卸市場へ入社後、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

奥田芳彦:
先輩や同期、後輩は皆、園芸高校の出身で、花に関する基礎知識を身に付けた人ばかりでした。年下の社員が私よりも知識をすでに持っていたことにとても焦りを感じ、必死に勉強したものです。

具体的には、当時は朝の3時にトラックに乗り、出荷生産者のところを50軒ほど周っていたのですが、そこで聞かれた花に関する質問を持ち帰り、先輩や上司に確認して生産者に答えるということを繰り返し行いました。

わからないことを放置せずにインプットとアウトプットを繰り返すことを2年間毎日続けたところ、お客様との信頼関係を築くことができ、花の魅力もわかるようになりました。楽しく仕事ができるようになり、成果が出るにつれて給料も上がったので、今では努力して良かったと思っています。

合併の破綻による危機を救ってくれた前会長の存在

ーー貴社に入社するまでの経緯を教えてください。

奥田芳彦:
大阪生花卸市場に10年勤めたのち、株式会社JF鶴見花きに入社しました。JF鶴見花きと弊社は、もともと大阪生花卸市場に卸売業者として属しており、兄弟会社の関係でした。しかし公正取引委員会から独占禁止法に引っかかるという指摘を受け、1度分離してしまいます。

その後規制緩和が進んで3社を統合しようという話になったのですが、JF鶴見花きと弊社の経営陣が上手く話を進められず、当時私が次長として働いていたJF鶴見花き側が合併を断ってしまいました。

そのことに社員が猛反発して「営業を中心に大半が辞める」という事態になりました。社員も生活がかかっているため、どうしようかと考えた結果、弊社の当時社長だった大西氏に直談判して相談をすることにしました。

すると、大西社長は私を含めた33名の社員を全員弊社に受け入れてくれたのです。売上が上がるとは限らないのに、私たちを受け入れてくれて、覚悟のある方だと思いました。なにわ花いちば(当時は株式会社大阪花き)に入社するに至ったこのご恩は、今でも忘れられません。

ーーコロナ禍で「在宅せり」に踏み切った当時の心境を聞かせてください。

奥田芳彦:
コロナ禍では業界へのダメージが大きく、苦労しました。2019年の年末から2020年の元旦にかけて事業でベトナムに行っていたのですが、そこでコロナウィルスの存在を知りました。

日本で感染が広まってしまうのも時間の問題であることはわかっていたので、卸売会社として最悪な状況を想定したシミュレーションを行いました。ただ、日本ではまだコロナのリスクが顕在化していなかったため、周りにその対応について相談しても反対されると思いました。会社のトップとして社員を守るためにも1人でシミュレーションを行い、判断しなければいけないと覚悟したことを覚えています。

生産者側を強化して多くのお客様に商品を提供していきたい

ーー今後の注力テーマについて教えてください。

奥田芳彦:
年々縮小傾向にある農業・林業などの第1次産業は、コロナ禍によりさらに先細りしています。価格だけは維持していますが、消費に対して供給が追いついていない状態です。そのため、生産側を強化する必要があると感じ、生産振興に力を入れたいと思っています。

ーー具体的に取り組んでいることはありますか?

奥田芳彦:
経営革新資金として年間で約3000万の予算を積んでいたので、「この資金で球根を仕入れるので、その代わり私たちに出荷してください」という契約を生産地と結んでいます。これがとても評判が良く、生産者との信頼関係をさらに深めるきっかけにもなりました。

ーー貴社のYouTubeチャンネルを開設したのも、生産者との関係性を強化するための取り組みでしょうか。

奥田芳彦:
在宅せりのシステムをつくったときに、SNSをどのように活用して産地の言葉や弊社の情報などを伝えられるかが1番の肝であると感じていました。

Youtubeチャンネルを開設したことで関係者に広く周知ができ、現地せりでなくてもシステムを介して販売できる状況をつくれたので、生産者との距離もより縮めることができたと思っています。

ーーなにわ花まつりを始めたきっかけを教えてください。

奥田芳彦:
出荷者と生産者が直接交流できる場所をつくることを目的として、年に1度開催しています。

お互いが意見交換をしたり、多くのお客様から生の声を聞いたりして、普段はなかなか聞けない意見をもらえる貴重な機会を提供できていると思います。

何度でも仕切り直して人生を楽しんでほしい

ーー最後に読者である学生や若手人材に向けてメッセージをお願いいたします。

奥田芳彦:
「人生は何度でも仕切り直せる」という気持ちを大切にしてください。人生をやり直すことはできませんが、仕切り直しはいつでもできます。生まれてきた条件は変えられないけれども、自分の気持ち次第で何度だって仕切り直すことはできるのです。

失敗しても仕切り直して前を向いて進んでいくことで、楽しい人生を過ごしてほしいと願っています。

編集後記

最初は花に興味を持って飛び込んだ業界ではなかったものの、周りとの知識の差に焦りを感じて努力を続け、花の魅力を知った奥田社長。業界が年々縮小していく中で、営業部門の強化やYouTubeの活用も行い、1人でも多くのお客様を支援できるよう取り組んでいる。

今後もさらなる事業発展・成長を目指し進んでいく株式会社なにわ花いちばの未来が楽しみだ。

奥田芳彦/1985年大学卒業後、大阪生花卸市場株式会社に入社。1995年に株式会社JF鶴見花き入社。2003年に株式会社大阪花き(現株式会社なにわ花いちば)入社後、専務取締役、代表取締役社長を経て2023年10月、取締役会長に就任。