2022年12月に東京証券取引所グロース市場に上場を果たした株式会社フーディソン。2013年4月の創業から順調に成長を続けており、26年3月期の売上総利益40億円を目指している。
そんな株式会社フーディソンは、テクノロジーを活用して水産品を中心とした生鮮流通のプラットフォーム事業を展開している業界内でも非常にユニークな存在だ。
代表取締役CEOの山本徹氏は、大学卒業後に不動産デベロッパーに入社しその後、介護医療の領域で起業するなど、水産領域とはまったくの異業種から参入してきた。
なぜ、プラットフォーム事業で起業しようと思ったのか、異業種から参入してきて上場することができたのか、お話を伺った。
魚も、必要なタイミングで必要な量を全国に供給できるようにしたい
ーー大学卒業後、創業するまでの経験を教えてください。
山本徹:
私は北海道大学の工学部に通っていましたが、大学院に進む人が大半の中では数少ない学部卒です。在学中から不動産経営者の方とご縁があり、2001年に不動産デベロッパーに入社しました。
そして、そこで出会った先輩、同僚合計4人で、2003年に株式会社エス・エム・エスを創業しました。株式会社エス・エム・エスは後に"高齢社会に適した情報インフラを構築する"というミッションを掲げ、介護医療領域での情報インフラとして東証に上場し、時価総額2000億円を超える圧倒的NO.1の存在に成長していった会社です。全くの異業界でしたが、前職の営業経験をいかし、老人ホームの販売代理業から入りました。そこで介護医療業界での知見とネットワークを広げて、人材紹介を中心にHRサービスにつなげていきながら、異業種に参入し会社をグロースさせるという経験を積み、2013年に株式会社フーディソンを創業しました。
ーーなぜ創業を決意されたのでしょうか。
山本徹:
持続可能な水産流通を推進できていないことが、水産業界の課題として挙げられます。
水産業界の構造は、昔の中古車業界に似ています。今の中古車業界は全国の在庫情報がネットワーク上で可視化され、需要者がアクセスできるようになっていますが、昔は地域ごとにアナログなマーケットがあり、価格も地域によって差があり、マーケット間をつなぐブローカーのような存在もありました。
魚も全国で水揚げされ、地域ごとにそれぞれ市場で価格決定されます。極論すると魚含めたすべての情報がネットワーク上で可視化されるような世界はいつかくるのではないか?と考えました。現在のアナログな情報で地域ごとに限られた事業者により価格決定されるよりも、適切な価格決定がされる仕組みを創ることができれば、もっと水産業界が良くなることに貢献できるのではないか、と考えたことをキッカケに創業を決意いたしました。
顕在化したニーズを解消してマネタイズし業界の学習をしながら大きく育てる
ーー不動産から介護医療、水産と、さまざまな業界を経験されていますね。
山本徹:
以前いたエス・エム・エスでは、老人ホームの販売代理業から介護業界に参入しました。当時我々が持っていた数少ない武器である、マンション営業の経験を活かし、顕在化している老人ホームと入居者のマッチングビジネスでマネタイズしながら、業界のことについて学びを深めていきました。当時、老人ホームは既に完成していて、ホーム内でスタッフと話した際に、ケアマネージャーの採用ですごく困っている、実は採用がすごく難しいということがわかってきました。俯瞰してみるとあらゆる介護事業所がケアマネージャーを必要としていたんです。
人材の顧客ニーズに気づき、老人ホームの販売代理業から人材紹介サービスへ今で言うピボットをしました。そしてまた人材紹介サービスをやっているうちに気づいた顧客ニーズから求人サービスへ、介護保険請求ソフトにもつなげ、業界内に多くの新規サービスを作り続けるような拡張の仕方をしていました。
フーディソンの事業もまた、まったく別業界ですが、業界をまたぐことにもはや抵抗感はありません。競争環境次第ですが、未経験業界だとしても、エントリービジネスを適切に選択して、業界解像度をあげながら大きく育てていくことで、大きな価値は創出できると思います。業界をまたぐことで、業界を俯瞰して見ることができれば、自分が持っている強みの活かし方が見えたり、他業界では当然のことが価値になることがわかったり、業界内の常識に縛られずにビジネス化することが可能だと思っています。
2022年12月に東京証券取引所グロース市場に上場
ーー未経験の業界で起業することについて、周りの人はどのような反応でしたか。
山本徹:
水産業界内の人的ネットワークをもっていませんでした。お客さんも仕入先もなく、知識もありません。そのため周りの反応はすごくネガティブでした。エス・エム・エスのときも、フーディソンのときも「異業種でうまくいくはずがない、やめた方がいい」という人がほとんどでした。
ーー周りに反対されながらも東京証券取引所グロース市場に上場するまで成長されましたね。
山本徹:
エス・エム・エスで上場したこともあり上場は身近な存在だったこともありますが、創業から自分の人生を超えて成長し続けるような会社を起業したいと思っていたこともあり、上場はそのための一つの乗り越えるべき基準と考えて目指していました。
生鮮流通に新しい循環をもたらす
ーー貴社は生鮮流通のプラットフォーム事業を行っていますが、提供しているサービスについて教えてください。
山本徹:
今は3つサービスがあります。BtoBコマースサービスの『魚ポチ(うおぽち)』、BtoCコマースサービスの『sakana bacca(サカナバッカ)』、HRのサービスの『フード人材バンク』の3つです。
プラットフォーム事業を構成する2つの機能としては、流通機能と支援機能があります。流通機能では、魚ポチとsakana bacca、支援機能ではフード人材バンクがあります。
魚ポチは、鮮魚を中心に水産品や野菜・肉など生鮮品を取り扱っている、飲食店向けの仕入れサイトです。飲食店の仕入時間を減らして豊富な食材を提供すること、一般にはあまり流通しない鮮魚などを広く流通させ、産地や飲食店に貢献することを目指しています。
sakana baccaは、街の魚屋をモダンアップデートし、路面やエキナカで店舗運営をしています。多種多様な鮮魚をダイナミックに陳列して、ワクワクする売り場を実現しました。職人こだわりのお弁当もご用意しています。
フード人材バンクは、食文化を支える職人を支援したいという想いのもと、スーパー・小売店・飲食店などに人材紹介を行うサービスです。鮮魚加工技術者、精肉加工や飲食店従業員など、食に関する幅広い人材を素早く採用できるようにサポートしています。
プラットフォーム事業の隙間を埋めたい
ーー貴社の強みを教えてください。
山本徹:
流通事業者なら流通だけ、人材事業者なら人材事業だけを営むことが一般的なのに対し、我々はその両方をやっていることがユニークだと思います。流通で日常的にお客様と接点を持ち、その中で捉えた人材のような非日常のニーズをサービスに昇華していくことを志向しています。我々はそのようにサービスを組み合わせていくことで、生鮮流通プラットフォームの価値を高めていきたいと考えています。
ーー今後のビジョンを教えてください。
山本徹:
フード人材バンクは、法人ベースで全国の40%のスーパーと取引しています。しかし、それと流通サービスがつながっていません。
また、月間で4,000店舗以上のご注文をいただくような飲食店ネットワークがあります。しかし、そこに対して人材サービスが十分ではありません。
これらの隙間を埋めることで、顧客とのネットワークがさらに深まります。顧客との接点を増やし、ネットワークを濃くしていけば、盤石なプラットフォームになると考えています。
編集後記
周囲の反対にあいながら、他業種で得た知見を活かして、未経験の業界で結果を残してきた山本氏。他業種に飛び込むこと、周りの反対にあっても自分を信じることなど、勇気がなければこの成功はなかっただろう。
また、すでに強固な人間関係が構築されていたであろう鮮魚の市場で、新たなネットワークを作るのも簡単ではなかったに違いない。
コミュニケーション能力に精神力、事業を構築する思考力など、山本氏の高い能力を感じられるインタビューだった。
山本徹(やまもと・とおる)/北海道大学工学部卒業。2001年4月不動産ディベロッパー入社。2003年4月に株式会社エス・エム・エスへ創業メンバーとして参画し、ゼロからIPO後の成長フェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。2013年4月に株式会社フーディソンを創業し、代表取締役CEOに就任。2022年12月に東京証券取引所グロース市場に上場。