※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

2020年時点で、日本では65歳以上の農業従事者が全体の70%を占め、高齢化とともに後継者の先細りが見込まれている。この問題の解決に取り組もうと奮闘しているのが、青果物の輸入や加工、物流、販売などを行う株式会社ファーマインドだ。

同社、代表取締役会長兼社長の堀内達生氏は、今まで自社が携わってきた流通業だけでなく、日本の農業とも向き合いながら事業に取り組んでいる。

特にバナナの追熟加工では国内屈指の規模と技術を誇る同社について、創業の経緯や今後の展望などを聞いた。

起業のきっかけは「いつでもどこでも同じ良い品質のバナナを店頭に並べたい」という使命感

――貴社を設立した経緯について教えてください。

堀内達生:
私は37歳のときに、青果物の生産や加工、販売を行う会社(現:株式会社ドール)の責任者になりました。当時、店頭では、まだ青いバナナやちょうど良く熟したバナナ、熟しすぎて茶色い星(シュガースポット)が出たバナナなど、さまざまなバナナを見かけたものでした。

バナナは1~3日経つだけで、色や味が大きく違ってきます。いろいろな状態のバナナが並んでいるのを見て、私は「良いバナナがいつでもどこでもお店に並んでいるようにしたい」と思うようになりました。それが、弊社を設立するに至った動機です。

――それからどのような流れで創業に至ったのでしょうか。

堀内達生:
当時日本には数多くの中央市場があり、職人たちの経験で、温度や湿度を調整してバナナを加工していました。中央市場の方々からは「老朽化した設備を新しくしたい」といった話も聞き、技術や設備の違いによってバナナの品質に違いが生まれていたことが分かりました。

一方、欧米諸国ではバナナの熟度をコントロールする差圧加工というシステムが採用され、一番良い状態でバナナを届けられる仕組みができていました。

そこで、私は日本でもより良い品質の均一な状態のバナナを店に並べたいと思い、株式会社ファーマインド(当時:株式会社フレッシュシステム)としてバナナの追熟加工を始めました。

青果センター内の室(むろ)

追熟加工の高い技術と全国に広がるコールドチェーンネットワークが強み

――当初より生産地から販売店まで適温を保って流通させるコールドチェーンを重要視されていましたか。

堀内達生:
非常に重要視していましたね。私はもともとドールに勤めていたため、アメリカの量販店がどのように青果物を取り扱っているのかを見る機会が多くありました。

日本と違いアメリカはコールドチェーンの仕組みが構築されていたので、たとえばレタスは予冷をして貯蔵すれば2か月ほど保存できます。このときに、農産物は必ずしもすぐに売らなければいけないわけではないことを知り、この仕組みを日本でもつくっていく必要があると感じました。

そこで、日本各地にバナナの追熟を行う青果センターの建設を始めました。数年かけて、試行錯誤を繰り返すなか、バナナは追熟して200km以上運搬すると劣化するものもでてくることが分かり、弊社の各センターから販売店までの距離を200km以内にして、ほぼ全国をカバーできるようにしました。どのお店に行っても同じ品質のバナナが並んでいることが大切ですので、今ではこのセンターを国内に14か所つくり、全国のネットワークを構築しています。

――貴社の強みはどういった点にあるとお考えですか。

堀内達生:
青果物は在庫を抱えられないため、需給マッチングが難しいのです。たとえばミカンを3つ欲しい人に2つだけ買ってもらう場合、多少割高になっても購入してくれる可能性はあります。しかし、ミカンを3つ欲しい人に5つ買ってくださいと言っても、なかなか買ってもらえない。買ってもらえないと腐ってしまうので、値段を下げて売るしかありません。

その点、弊社は全国にネットワークがあり、販売店が必要な時に毎日適量を運ぶことができるので、需給のマッチングがうまくいっています。そのため、必要のない値下げは避けられます。

今後のチャレンジは自ら「生産者になる」こと

――貴社の追熟技術はやはり他社とは違うのでしょうか。

堀内達生:
弊社の追熟技術は欧米では当たり前に導入されている技術ですが、日本で行っている会社の中ではやはり圧倒的だと言えます。その強みがあったからこそ全国のスーパーと取引が始まり、そこからあらゆる量販店へつながり、今の体制にまで広げることができました。

――今後はどのようなビジョンを描かれていますか。

堀内達生:
現在の14拠点だけでは需要に応えられていないところまで規模が拡大しているので、拠点数を増やしていきたいと思っています。また、青果物を産地で1度集約し貯蔵してから運ぶ事業も進めています。このような産地型のセンターをプラットフォームセンターと呼んでいますが、それも今後はさらに増やしていく予定です。青果物をより長く貯蔵できるプラットフォームセンターを活用することで、良質な青果物を安定的に供給していきたいと考えています。

――日本の食糧自給率の低さが以前から問題視されていますが、食の安全保障についてどのようにお考えですか。

堀内達生:
農作物をつくる人が減っていく中、弊社は現在、自分たちが「生産者になる」というチャレンジをしているところです。実際に青森でりんご、千葉でブドウ、茨城で梨などを生産する取り組みを始めています。つくる人がいなくなれば、流通業が存在する意味もありません。今後の農業のあり方を考えながら、生産者としても事業拡大に取り組んでいきたいと思っています。

編集後記

堀内社長はファーマインドで働くのに向いている人材について「日本の農業に対して危機感を持っている人」と語った。また、農業一筋で生計を立てることは難しくなってきているが、同社では会社員として働きながら農業をできるのも大きな魅力だとのこと。

日本の食の未来について真剣に向き合う堀内社長の思いを聞いて、同社の新たな挑戦をこれからも応援していきたいと感じた。

堀内達生(ほりうち・たつお)/1951年生まれ東京都出身。1973年学習院大学経済学部卒業、1977年Puget Sound大学経営大学院修士課程(MBA)修了後、キャッスル・アンド・クック・イースト・アジアリミテッド日本支社(現:株式会社ドール)入社。のち同社副社長に就任。株式会社フレッシュシステム、フレッシュリミックス株式会社、フレッシュMDホールディングス株式会社を設立。2015年7月統合合併し、株式会社ファーマインドへ商号変更、代表取締役社長に就任。