
1928年に松本硝子店として創業し、池袋に本社を置くマテックス株式会社。主にガラスや窓、サッシを扱う卸商社でありながら自社工場を持ち、地域企業のサポートも行うなど、事業の幅を広げている。代表取締役社長の松本浩志氏に、就任後の取り組みや事業の強み、今後の展望をうかがった。
歴史ある家業を継ぐ決断--「窓」の価値提供に目を向け、価格競争から脱却
ーー社長就任までの経歴をお話しいただけますか?
松本浩志:
アメリカ留学やビジネススクールでの学びを生かして「国境を越える仕事がしたい」と考え、大手電機メーカーへ入社しました。理想の仕事に就いたとはいえ、やはり幼少期から見てきた父の影響はとても大きかったですね。家業であり長い歴史を持つマテックスを継ぐ決意をしました。
入社後は基幹システムの入れ替えをメイン業務とし、全体的な業務フローの改善にも関わり、営業領域の部長を務めたのち、2009年に代表に就任しました。
ーー入社後の取り組みもうかがえればと思います。
松本浩志:
前職の頃から、熾烈な価格競争に陥る「ものづくり業界の体質」に違和感を覚えていました。卸という立場上、同業者に合わせて価格を決めざるを得ない中で、プロセスの価値が失われる流れを見て、現状を変えたいという気持ちがどんどん募っていったのです。
ものづくりには、資源採掘から生産、加工、現場調査といったさまざまなプロセスと試行錯誤があります。また、窓は単なる工業製品として見られがちですが、雨風を凌ぐ役割に加え、快適な温度環境を保ったり、日射熱の侵入を防いだり、結露軽減、騒音・防音対策、台風などの自然災害に耐えうる強度など、あらゆる機能を持っています。
日本には高品質な窓製品が多いにもかかわらず、値下げしないと売れないケースが多いことから、「本来の価値を伝えること」を重視して業界内の意識改革を進めてきました。
地域に根差した「卸商社」の役割を追求--自社製造と生活者へのPRをスタート

ーー事業内容をお聞かせください。
松本浩志:
卸商社として、自社製造を含む高性能な窓とあらゆるメーカーのサッシを取り扱っています。業界の構造は、卸商社の先にガラス店やサッシ店といった小売店があり、家づくりを担う工務店、生活者に行き着きます。弊社は一つの大きな軸として、メーカーと各業者の中間にいる「卸商社の役割」をひたすら研究・実装し続けてきました。
2013年以降は「窓から日本を変えていく」というビジョンを掲げ、2009年からチャレンジしている理念経営を加速させました。おこがましいかもしれませんが、ものづくりのプロセスや窓の必要性・選び方のポイントを業界内外に伝える形で、販売支援と購買支援を追求するのが今の方針です。暮らしに溶け込んだ窓は生活者に見過ごされやすいものの、「窓を変えて良かった」という声が増えています。最も大きい反響は「温度環境の変化」です。
二重窓にするだけで夏の暑さや冬の寒さがストレスではなくなり、冷暖房費の削減や体調改善、地球環境への負荷軽減といった便益も得られます。暮らしに対するユーザーの期待や課題の解決策は「窓にあるかもしれない」と、業界内に広めることが販売支援であり、お客様の顧客である生活者の購買支援にもつながっているのです。
お客様が「窓」の魅力をビジネスにできる循環をつくりたいからこそ、イベント出展支援や地方自治体との連携を行い、生活者に向けたチラシやWeb媒体も制作しています。
ーー企業の強みを教えてください。
松本浩志:
主な卸先が、地域で活躍している中小のガラス店やサッシ店であることが強みです。家づくりの選択肢は複数ありますが、私たちは住宅産業において地場のガラス店やサッシ店と共に「地域社会でかけがえのない存在になりたい」と考えています。
大手ハウスメーカーが広域に家を建てたあと、アフターフォローが行き届かないケースはめずらしくありません。生活者にとって、家を建てることは人生のゴールではなくスタートです。マテックスは、その事実に寄り添える人たちが地域に根差し、ユーザーと関係性を築いていく光景を願っています。
ーー自社製造を始めた経緯もお話しいただけますか?
松本浩志:
日本の窓業界では、大手メーカーが素材の製造・加工・販売を担っており、見方を変えるとメーカー側の負担が多いとも言えます。海外では、メーカーは素材づくりに注力し、卸商社はメーカーの素材に付加価値をつけた製品を小売り領域に届けることが一般的です。
いずれ日本の商流の構造も変わり、製造・卸・小売領域に分かれる「餅は餅屋」の家づくりにシフトしていくと考えます。その上で、大手メーカーの手法とは異なる受け皿として「卸のための製造」を行う自社工場を建てました。
現在は高断熱な複層ガラスだけでなく、高断熱樹脂サッシも提案できる会社になりました。卸をベースにしながらも、製造部門があることでお客様のニーズに柔軟に応えられることも独自の強みですね。
窓が持つ可能性で生活者の願いを叶え、「マテックスらしさ」をブランド化
ーー現在の注力テーマをうかがえればと思います。
松本浩志:
窓が暮らしを変えるという情報を発信しても、すぐに生活者の方に反応いただけるわけではありません。気候危機が脅威となった近年は今までと違う流れを感じていますが、さらに気を引き締めて購買支援を進めていきます。社内の営業強化というより、商品のメリットを自分で考えて「暮らしのニーズに応えていく人材をつくる」というステージに到達しました。
新鮮な驚きや気づき、知の領域に刺激を与える環境を整えるため、立教大学の先生や非営利団体とタッグを組み、本社に『HIRAKU IKEBUKURO』というサードプレイスをつくりました。社員には、プライベートと仕事の枠を超えた交流によって成長してほしいと願っています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
松本浩志:
経営方針の軸があれば、ある程度の自由度を確保しても道を踏み外すリスクは少ないでしょう。「手段を追求する。」「美点視をもつ。」といったコア・バリューをはじめ、理念として言語化した「マテックスらしさ」に挑み続けてきた結果、「仕入先はやっぱりマテックスだね」と言ってくださるお客様が増えてきて喜ばしい限りです。
会社のパーパスやバリューの言語化だけで終わらず、自分たちが大切にしていきたい考え方を実装し続けてきたからこそ、「マテックスの文化」が築けたのだと思います。私たちの考え方が目に見えないブランドとなり、十数年後には「マテックスが守ってきた世界観が窓業界に貢献した」と言われるような存在になれるとうれしいですね。
編集後記
語り尽くせない窓の魅力を社会に届け、業界に貢献してきた松本社長。会社のメッセージやアイデアを広めるだけに留まらず、工場機能を持つというチャレンジには彼らの使命感の強さをひしひしと感じた。異常気象や台風被害が増え続ける時代の中で、マテックスが届ける窓の役割は今後ますます注目されることだろう。

松本浩志/1972年生まれ。米サンダーバードグローバル経営大学院修了、MBA取得。大手電機メーカー勤務を経て、2009年に「窓」の卸商社であるマテックス株式会社の三代目代表に就任。「窓から日本を変えていく」をビジョンに掲げ、共創志向型ビジネスの創出に挑む。2013年には「人にフォーカスする経営」の実現に向けて、コア・パーパスとコア・バリューを導入。2022年より、サードプレイス事業「HIRAKU IKEBUKURO」を立ち上げ、一人ひとりの成長支援に力を注ぐ。