
青果仲卸業界で76年の歴史を持つ三澤商事株式会社は、豊洲市場を拠点に首都圏の複数市場との仕入れネットワークを構築している。2013年からは野菜事業へも本格参入し、現在では量販店や飲食店などへ、合計100品目を超える野菜と果物を供給するまでになった。
平均年齢30代後半という組織体制は、同年代が多いバイヤーとの円滑なコミュニケーションも実現しているという。今回は、青果のプロフェッショナルとして、産地との密接な関係づくりにも注力している代表取締役の三澤寛氏に話をうかがった。
スーパーでのアルバイト経験が、その後の進路を変えた
ーーもともと、家業を継ぐことは考えていましたか?
三澤寛:
弊社は私の祖父が創業した会社です。周囲からの期待の声もあり、商業高校に通っていた時から弊社を継ぐことを意識していました。しかし、あるとき父から、「夜中の仕事で生活リズムが特殊になるから、必ずしも継ぐ必要はない」と言われたのです。そこで商業系の大学に進学し、将来の選択肢を広げようと考えました。当時はJA(農業協同組合)に勤める親戚の影響で、JAへの就職も考えていましたし、デパートなどの接客業にも興味がありました。
転機となったのは、大学2年のときに始めたアルバイトです。そこは、現在も取引のあるスーパーマーケットですが、お客さまとの関係を大切にしながら商品を提供する社員の姿に感銘を受けたのです。最初は夏の短期アルバイトのつもりでしたが、店長から継続を依頼され、そのまま卒業まで働かせていただきました。その経験が、私の進路を決定づけることになり、弊社を継ごうと決心したのです。
ーー貴社に入社するまでの経緯を教えてください。
三澤寛:
父の「会社を継ぐなら、他社で経験を積んだ方がいい」というアドバイスがきっかけで、北海道の青果卸売会社で2年間、修行させていただきました。寒い土地柄に最初は戸惑いましたが、現地の方々の温かさに触れ、修業期間はとても充実したものとなりました。
北海道での生活は非常に充実しており、もう1年延長したいとまで考えるほどでしたが、父との約束もあったため、1996年に弊社に入社しました。入社後は、社長の息子という立場に甘えることなく、配達や荷物の運搬など、現場の仕事を一つひとつ経験していきました。そうした経験が、今の経営にも活きていると感じています。
豊洲市場を拠点に広がる独自の仕入れネットワーク

ーー貴社の事業内容を教えてください。
三澤寛:
主に量販店や飲食店、学校給食への青果物の供給を手がけています。弊社はもともと果物を専門に扱っていましたが、2013年からは野菜も仕入れるようになり、現在では60品目以上の野菜を取り扱っています。これは当時の社長だった父が「果物だけでは今後厳しくなる」と判断し、野菜分野に精通した人材を招いて事業を拡大してきた結果です。
弊社の特徴は、豊洲市場を拠点としながら、大田市場、横浜市場など、首都圏の複数市場と取引できる体制を構築していることです。各市場で仕入れができるため、豊洲市場にない青果も、他の市場からも柔軟に商品を調達できます。この仕組みにより、品薄時でも安定した供給が可能となっています。
ーー仕入れにおいては、どのようなことを重視していますか?
三澤寛:
産地との密接な関係づくりを何より大切にしているので、実際に産地へ足を運び、農家さんやJAとお会いして、しっかりとコミュニケーションをとるようにしています。現地を見ることで産地の状況も直接把握できますし、「今年はこうだったから、来年はこういう形で進めませんか」といった具体的な提案もできるのです。
物事は電話一本のやりとりだけではなかなか伝わらないものです。直接会って顔を見て話をすることで、お互いの考えや課題を共有でき、より良い取引関係を築くことができます。そうした信頼関係づくりが、弊社の安定した商品供給の基盤になっていると考えています。
産地開拓と人材育成で目指す100億円企業
ーー貴社の強みはどのようなところにありますか?
三澤寛:
社員の平均年齢が30代後半という組織であることが、弊社の強みといえるでしょう。この年齢構成が、バイヤーとの関係性に良い影響をもたらしています。弊社と取引きしているバイヤーは30代から40代が中心で、弊社の営業担当者と年齢が近いため、同世代ならではの共通認識や価値観を持てることが多く、スムーズなコミュニケーションが実現できているのです。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
三澤寛:
中期目標として掲げている売上高100億円を実現するために、3つの施策を重点的に進めていく考えです。
1つ目は新規取引先の開拓です。豊洲市場という最新の施設を活かし、多様な取引先のニーズに応えていきたいと考えています。
2つ目は採用の強化です。特に営業スタッフの増員を図り、一人あたりの担当品目を絞ることで、より専門性の高いサービスを提供していく方針です。営業担当が増えることによって、各品目への集中度が高まり、より詳細な情報提供や提案が可能になると考えています。
そして3つ目は産地との連携強化です。気候変動や後継者不足など、産地を取り巻く環境は厳しさを増しています。だからこそ、今後も産地とのコミュニケーションを密にし、お互いに支え合える関係を築いていきたいと考えています。
こうした取り組みを一つずつ着実に進め、会社としての価値を高めていきたいですね。
編集後記
三澤社長の「顔を合わせること」へのこだわりが印象的だった。社員たちがバイヤーと同世代ならではの関係を築き、産地へ足しげく通い密接なコミュニケーションを図る。三澤社長自身、20代で北海道へ修行に出て多くの人々と出会い、その経験が今の経営に活きているという。商品を通じて人と人がつながり、その関係性が新たな価値を生んでいく。「顔を見て商売する」という言葉には、デジタル化が進む現代だからこそ大切にしたい、人と人とのつながりの価値が込められていた。

三澤寛/1971年、東京都生まれ。横浜商科大学を卒業後、旭印旭川中央青果株式会社に入社。2年の修行期間を経て、1996年に三澤商事株式会社へ入社。2018年に同社代表取締役社長に就任。青果仲卸の活動にも注力している。