※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

「食材卸業に未来はない」と考えていた食品メーカーの営業職が、業務用食材の分野に新たな可能性を見出した。父が創業した日栄商事株式会社に転職した堀江茂代表取締役社長は、即決実行をモットーにさまざまな業務改革を進めて業績向上を実現した。堀江社長の実行力に満ちた経営についてうかがった。

業務用食材卸売業の可能性を知り転職を決意

ーー大学卒業後、貴社に入社するまでの経緯を教えてください。

堀江茂:
弊社は、1960年に父が食材卸業として創業しました。実は学生時代、私は弊社を含め「この先の日本では卸業は消滅するだろう」と考えていたので、父の会社を継がずに食品メーカーへの就職を選択しました。

入社後は家庭用食材の営業を担当したのですが、家庭用食材の分野ではスーパーマーケットなどの大型店が流通を主導していて「問屋はいらない」ということを実感しました。これは私が考えていた通りでした。

その後いろいろな事情があり、次第に父の会社への転職も視野にいれるようになり、入社を決意しました。

ただ、食材卸業の将来性には不安があったため、何人かに相談してみたところ、皆さんが口をそろえて「業務用食材の分野では卸業の役割は大きく、チャンスも広がっている」と教えてくれたのです。

私自身も、同じ食材でも家庭用と業務用では状況が違うことに気づいたことが入社への後押しとなりました。

ーー貴社の事業についてご紹介いただけますか?

堀江茂:
業務用の食材などを飲食店に販売している会社です。

飲食店といってもチェーン店ではなく、街中の居酒屋、中華食堂、ラーメン店、定食屋、レストランなどのお店が対象です。なかには20~30店舗を経営するところや惣菜店もありますが、ほとんどが個人経営のお店です。

商品は、調味料全般をメインに、肉、魚、エビ、野菜などの冷凍食材、チーズやハムといった冷蔵食材を扱っています。食材のほかにも、割りばし、キッチンペーパー、アルミホイル、洗剤といった厨房用品、その他の雑貨も取りそろえています。

以上を含め約1万種類のアイテムを用意していますので、弊社にご注文いただければ、飲食店のオープンに必要なものは何でも取り揃えることができます。

ーー家庭用と業務用ではどのような点が異なっているのでしょうか?

堀江茂:
家庭用の食材、たとえばカレーのルーであれば、大手スーパーなどがメーカーから大量に仕入れて棚に陳列したものを、消費者は購入します。一方で、消費者が外食する際には、チェーン店に行ったり、個人店で食べたりします。

その結果、仕入れ側であるお店が個別多様に存在するため、特定の大手小売店のみが仕入れを主導とは限りません。仕入れにおいては、卸業者の存在が必要になるわけです。

ーーそうなると、業務用を主力にした食材卸業には可能性があるわけですね。

堀江茂:
そうです。ただ、問題はこの先ですね。アメリカのようにチェーンの外食店が主流になって個人店が少なくなれば、業務用食材の領域でも卸業者の位置づけは小さくなります。その上、人口減少による市場規模の縮小も見込まれます。

いろいろな状況を考えると、日本以外の地域、それも日本食の人気が高くて人口も経済もこれから伸びていく海外地域への進出にどう挑戦していくかは、大きなテーマです。

豊富な品ぞろえと自前の物流で飲食店の安心を支える

ーー商品の保管方法や輸送方法も工夫されているそうですね。

堀江茂:
現在の場所に移転したのは2013年6月ですが、ここには、広さ825㎡で冷凍、冷蔵、常温の3つの温度帯の倉庫と広さ660㎡の駐車場を整備しています。弊社は、保管だけではなく、お客さまへの配達も全て自社で行っており、言ってみれば業務用食材の物流センターです。

お店で必要なものはひと通りそろえている上に、配達も弊社で対応していますので、お客さまからみれば大きな安心感があると思います。これは、弊社の最大の強みです。

2024年4月1日からウェブ受注を主体とし、電話での受注は廃止しました。ファックスでのご注文も2025年には廃止することになります。オンラインで注文が入ると自動的に伝票が作成されるシステムを導入しましたので、かなり効率化されます。

ーー自社での配達はコスト面で問題にならないでしょうか。

堀江茂:
弊社は、2017年から2018年の大手運送会社の料金改定に合わせて、1回の配達につき200円だけ配送補助費を頂戴することにしました。配送スタッフの給与を確保するためです。受注をオンラインに絞って効率化をはかったのも、削減したコストを物流に振り向けるためです。

どちらも導入時の売上は下がりましたが、応援してくださるお客さまも多くいてくださったおかげで、現在も取引が続いています。

日本の業務用食材卸業のフロンティアは東南アジアにある

ーー5年後、10年後の貴社の展開・構想はどのように描いていますか?

堀江茂:
海外展開ですね。人口減少などで日本の市場が縮小傾向にあると考えると、やはり海外にシフトしていくことになります。

日本に対する親近感、日本食への嗜好、政治経済の安定性などを考えるとタイが最有力候補です。そこがうまくいくようであれば、台湾、フィリピン、インドネシアなどに広げていきたいところです。

海外での事業が安定してくれば、そこで仕事をしたいという人たちも集まり、会社全体の活性化にもつながるでしょう。

ーー最後に、社長が大切にしている考えをお聞かせください。

堀江茂:
ものごとを進めるときに大切なことは、これでいこうと決めたら直ちに行動に移すこと。そして、実行するときには「私はこれからこういうことに挑戦する」と宣言することです。私は学生のころから「有言実行」を大事にしてきました。自分の決意を宣言することはプレッシャーにはなりますが、宣言したことを実現しようという責任感が湧いてきて前に進む気力と知恵が生まれてきます。

プレッシャーを受けると当初は不安になりますが、これは自分の能力を発揮する絶好の機会だというふうに気持ちを切り替えています。周囲の人たちと相談をしながら良いプランができあがったら、やることを宣言して直ちに実行するわけです。こういうところから信頼感が高まり、社内の気持ちと力がひとつにまとまっていくと思っています。

編集後記

堀江社長は有言実行を大切にしているという。自分が何を目指しているかを明確に伝え、成功しようと失敗しようと、その結果に対して責任を持つ。これは経営者にとっては重要な資質だと思う。メンバー全員が目標を共有し、経営者が責任を引き受ける組織だからこそ、困難を乗り越える地力が根付いていくのだ。業務用食材の卸業に可能性を見出した堀江社長の有言実行精神が新しいチャレンジの成功を予感させる。

堀江茂/1963年東京都生まれ。1982年筑波大学附属駒場高校卒業。1989年慶應義塾大学卒業。味の素株式会社に入社し、福岡支店及び大分営業所において家庭用食品の営業を担当。1994年に日栄商事株式会社に入社し、2006年に同社代表取締役に就任。