※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

株式会社西尾は、オーラルケア商品の製造販売やホワイトニングシステムの提供など、歯科業界全体のプロデュースを行う企業だ。代表取締役社長の西尾秀俊氏が目指すのは、口腔ケア商品を通じた世界の人々の幸せの実現だという。人気商品「奇跡の歯ブラシ」の誕生秘話をはじめ、同氏の事業にかける思いをうかがった。

幸せの創造がビジネスの本質

ーーまず最初に、貴社の事業内容を教えてください。

西尾秀俊:
弊社は、歯科医院向けの機材や材料の販売、およびコンシューマー向けのオーラルケア商品の開発と製造販売を行っています。

弊社の人気商品「奇跡の歯ブラシ」は、利用継続率94%、累計販売数1000万本を突破しました。また、弊社が開発したホワイトニング「ハイブリッドポリリンホワイトニングシステム」は、全国約2500軒の歯科医院に導入されています。

ーー貴社設立のきっかけを教えてください。

西尾秀俊:
歯科業界の現状や課題を目の当たりにし、弊社の商品を通して多くの人を幸せにしたいと考えたからです。

前提として、人は幸せを追求せざるをえない生き物です。しかし、私個人の考えですが、人は自分で自分を幸せにすることはできません。幸せとは人に必要とされ、認められて愛されることだと考えています。ということは、人は他人にしか幸せにしてもらえないのではないでしょうか。他人が必要としていることを自分がやって補う。他人を必要として、愛してあげた量と、自分の幸せは常にイコールなのです。

この法則をビジネスに当てはめると、自社の商品がいかに他人と社会を幸せにしたかという総量と、売上はかならず比例します。他人が幸せになるものをつくり、その商品を通じて人々が幸せになり、口コミが増えて社会が変わる。これがビジネスの本質です。

自分が自分を幸せにしようとして、お金儲けを目的に商品をつくっても、うまくいきません。本末転倒であり、ビジネスの本質に反しているからです。弊社の商品は、儲けを求めてつくっているわけではありません。弊社設立や商品開発の根幹には「他人と社会、未来を幸せにしたい」という思いがあるのです。

歯を失う悲しみを減らすために「奇跡の歯ブラシ」を開発

ーー「奇跡の歯ブラシ」誕生の経緯をお聞かせください。

西尾秀俊:
「奇跡の歯ブラシ」の誕生には、治療中心になっている歯科医療の現状が関係しています。

歯に関するもっとも幸せな状態は、最高の治療を受けることではなく、治療をしないで一生を終えることです。日本人の85歳以上の98%がどこかしらの歯を失い、歯を大切にしなかったことを後悔しています。私の中には、「歯を失い悲しむ人をどうやったら減らせるのか?」という思いが常にありました。

歯を残すには、予防歯科が大変重要ですが、現在の歯科医療の現場は予防歯科よりも「悪くなってからの治療」が主流となっています。予防歯科の基本は、正しいブラッシングです。磨き残しをなくせば、歯は一生守れます。ということは、日々十分なブラッシングをすれば、そもそも治療が必要なくなりますよね。

しかし、国内で販売されている歯ブラシの多くはブラシ部分が平らで、歯と歯の間や歯と歯茎の間など、もっとも汚れが溜まりやすい場所には届きません。どんなに薬効成分が謳われる歯磨き粉を使っても、届かなければ意味がないのです。歯科医療がカバーしきれていない予防歯科を、歯ブラシで実現できないか。そこで開発したのが、「奇跡の歯ブラシ」です。

「奇跡の歯ブラシ」のブラシはピラミッド状で、長さの異なる植毛を2段に分けて配置し、3mmの高低差を実現しています。また、植毛には毛先に向けて円錐状に細かくなる「テーパー加工」を施し、当てるだけで歯と歯の間や溝に入るよう設計されています。

「奇跡の歯ブラシ」は、現在約3000軒の歯科医院で販売されています。しかし、歯科医院に対して営業したことは1度もありません。「奇跡の歯ブラシ」を使用した患者さんの口腔を見た歯科医師の方々が、自分の医院にも置こうと注文してくれたのです。

目指すのは、約80億人の幸せの実現

ーー今後の展望を教えてください。

西尾秀俊:
「奇跡の歯ブラシ」の売上は年々伸びつつあります。それは、多くの人が「奇跡の歯ブラシ」で磨き残しがなくなる事実を認識し始めたからだと思います。この認識を世界人口の約80億人に広げ、「奇跡の歯ブラシ」のユーザーを増やすことが、人々の幸せの実現に向けた弊社のミッションだと考えています。

そのためには、情報拡散ツールの開拓、販売チャネルの強化、生産体制の整備の3つが必要です。

現代において、情報の拡散はSNSとインフルエンサーがもっとも早いと考えています。特にSNSのリアルな口コミは矛盾点がなく、口コミが増えるごとに内容の整合性がとれていきます。こうした「本当の口コミ」をいかに呼び起こすかが今後重要になります。

情報の拡散と同時に、販売経路の確立も大切です。そのため、国内だけでなく全世界に向けたECの強化にも注力していきます。そして、80億本を毎月つくれる生産体制も整えなければいけません。現在は世界で5ヵ所の工場がありますが、今後は拠点の増強や現工場の増築なども行っていきます。

重要なのは売上を上げることではなく、未来の社会の人々の幸せを創造することです。「奇跡の歯ブラシを通して多くの人を幸せにする」というビジネスの本質を体現していきたいと考えています。

編集後記

世の中の働き世代のどれくらいが、ビジネスの本質を意識できているだろうか。また、人を幸せにするために、自分には何ができるのだろうか。西尾社長の話を聞き、背筋が伸びる思いがしたと同時に、ビジネスマンとしての自分自身を省みた。全世界の人々の幸せに向けて、航海を続ける同社の今後に注目したい。

西尾秀俊/日本大学法学部を卒業後、1989年に証券会社に入社。28歳で幸せを追求し歯科業界に転身。経営コンサルや歯科医院の開業プロデュースなどを行う一方で、オーラルケア商品の開発に尽力。また、日本最大のホワイトニング加盟ネットワークシステムも構築。