※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

休養の価値を科学的に解明し、独自に開発した機能性繊維で疲労回復のための休養時間をサポートするリカバリーウェアを提供する株式会社ベネクス。「休養学」の体系化と資格制度の確立により、運動や栄養と並ぶ健康の三要素である「休養」の普及に取り組んでいる。

直営店には休養のプロフェッショナルである「リカバリーアドバイザー」を配置。すべての人が元気になれる社会の実現を目指す、同社代表取締役の中村太一氏に話をうかがった。

3年の修業期間を経て見出した事業の芽

ーー最初にコンサルティング会社に入社したきっかけを教えてください。

中村太一:
大学卒業後、最初は会社員になるつもりはありませんでした。両親をはじめ、私の一族は経営者ばかりだったため、私自身も自然とそうなるものだと思っていました。しかし、すぐに起業するほどの知識はなく、まずは社会に出てビジネスの基礎を学ぼうと考えたのです。

さまざまな会社の説明会や面接を受ける中で、出合ったのが経営コンサルティング業界でした。「経営者にアドバイスやサポートをする仕事」と聞いて、3年間ここで勉強すれば経営のイロハが分かるかもしれないと思い、ある経営コンサルティング会社に入ることを決めました。その会社は「起業家が増えると世の中が良くなる」という考えを持っていたため、3年という短期での入社も快く受け入れてくれました。

ーーその後、事業のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

中村太一:
事業として発展でき、世の中のためにもなることを考えていたときに、今後ますます高齢社会が進むという視点から、介護市場に着目しました。私自身、ヘルパーの資格を取得し、前職の会社が運営していた介護施設で働いた経験もあります。介護の現場にはさまざまなニーズがあります。そこで、寝たきりの方の床ずれ予防のマットを開発したのが、現在の事業の始まりです。

そこから機能性繊維の開発に着手し、試作品としてウェアをつくったところ、ジムのバイヤーから「トレーニングをしている人たちの運動後の疲労回復にも良いのではないか」とヒントをいただいたのです。そのことがきっかけで、ウェアの開発を進め「ケアウェア」として発売。2010年2月に「リカバリーウェア」として誕生しました。

リカバリーの概念を確立し、学問へと昇華させた

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

中村太一:
一言で言えば、疲労のリカバリーに関する製品の開発と販売です。強みとしては、リカバリーという考え方自体を確立したことが挙げられます。創業当初、リカバリーという言葉は主にパソコンの修理などで使われていて、休養においてはそうした言葉は浸透していませんでした。

健康づくりの三要素として、「運動・栄養・休養」があります。運動も栄養も既に学問体系が確立されていて、学校で教えてもらえます。しかし、休養についてはまだ学問体系がありませんでした。そこで私たちは休養の学問として「休養学」をつくり、教科書も作成して学問体系として整えました。現在では日本リカバリー協会という社団法人を立ち上げ、資格制度も整えました。

この学問をベースに製品開発をしているため、お客さまからは、「着ていて心地よい」「毎日寝る時に着ている」など、実感の声を多くいただいています。また、直営店の販売スタッフを「リカバリーアドバイザー」と呼び、お客様に寄り添ったご提案ができるよう、休養士の資格も取得しています。お客さまのニーズに応えられるように、製品とスタッフの両面で価値を提供していることも弊社の強みといえるでしょう。

ーー製品開発で特に重視されている点は何でしょうか?

中村太一:
クオリティにこだわり、長く使っていただける製品づくりを心がけています。弊社の製品は、万が一破れてしまった場合でも、無料で修理させていただくアフターフォローが整っていることが特徴です。また、疲労回復のために何か特別なことをするのはハードルが高いこともあるので、手間がかからないよう日常生活の中で自然に使える製品を目指しています。

百貨店から空港まで広がる、休養の新しい価値

ーー今後の事業展開についてのビジョンを教えてください。

中村太一:
弊社では「非常識への挑戦」を理念に掲げ、社員全員で新しい価値の創造に取り組み、リカバリーという誰も挑戦していなかった市場を開拓してきました。最近発売したボディマッサージゲルや入浴剤も、その挑戦の一つです。特に入浴は、一般的なリラックス方法であるため、そこに私たちの技術で新たな価値を提案することで、さらなるお客さまとの接点をつくっていきたいと考えています。

お客さまとの関わりの中から生まれる、新しいアイデアを大切にしながら、世界のリカバリー市場を創造し、社員を含めたすべての人が元気になれる事業展開を進めていきます。

ーーこれからの休養市場についてどのようにお考えですか?

中村太一:
これまで、休養に関係する売り場は寝具やパジャマ売り場に限られていましたが、最近では全国の百貨店でウェルネスフロアやエリアが設置されるなど、休養という新しい価値への注目が高まっています。

それに加えて、「東京マラソン EXPO 2025」へ2年連続の出展や、空港でのポップアップストアを開催する機会をいただくなど、リカバリーの価値を提案できる機会も増えてきているように感じています。

この3〜5年で市場の勢いが出てきましたが、積極的に休むという考え方はまだまだ一般的とはいえません。より多くの方々に休養の重要性を理解していただけるよう、これからもさまざまな取り組みを進めていきたいと考えています。

編集後記

経営者一族に生まれながら、あえて就職を選び学びを得てから起業した中村社長。その3年間の経験が、現在の事業の礎となっている。寝たきりの方のためのマットから始まり、トレーニング後の回復着へと進化させた発想の柔軟さは、市場を創造する経営者の本質を表している。休養を学問として体系化し、リカバリーという新しい文化を確立した同社の歩みは、社会課題の解決と事業の発展を両立させる理想的なモデルといえるだろう。

中村太一/1980年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、コンサルティング会社に入社。同社の運営する有料老人ホームの立ち上げ、営業を経て、2005年に株式会社ベネクスを設立。東海大学や神奈川県との産学公連携事業により休養時専用のリカバリーウェアを開発し、国内のみならず海外にも展開している。