株式会社藤屋は、外食産業向けに世界各国の食材の輸入・販売、自社商品の製造・販売を行っている会社だ。
北京ダック販売の国内シェアは7割以上と、業界トップを誇る。「藤屋謹製 蜜汁チャーシュー」は、「第65回ジャパン・フード・セレクション」でグランプリを受賞した。
顧客からの支持を得ている理由や、株式会社藤屋の強みなどについて、代表取締役社長の藤木 守氏に話をうかがった。
自ら現場に出向き経験を積むことで全国の料理人から信頼を得る
ーー貴社の事業内容をご説明いただけますか。
藤木守:
弊社は北京ダックを中心に、中華や洋食向けの加熱加工商品などの食材を、都内から全国のホテル・レストランへ提供している会社です。
イタリアやスペインから仕入れたイベリコハム・生ハム・サラミなどの販売や、アメリカ・シアトルの提携工場ではチャイニーズソーセージの生産も行っています。主な取引先としては、都内一流ホテルやレストランのほか、全国のホテル・レストラン・卸業者へも提供しております。
ーー多くの顧客から信頼を得る秘訣は何ですか。
藤木守:
社長の仕事は、社員が営業しやすい環境をつくることと考え、お客様とのコミュニケーションを大切にしています。各レストランのお客様とは仲良くさせていただいているので、担当者が伺ったときに快く対応してもらえるため、仕事がしやすいようです。
また、広東料理・上海料理・北京料理・四川料理など、あらゆるジャンルのプロが手がけた料理を食べてきた経験を活かし、お客様にアドバイスをすることもあります。
自分自身も勉強し、知識のある人間でないと、料理人の方々と対等ではいられません。そのためには、現場に足を運び経験を積むことが重要だと感じております。
ーー貴社の強みについてお聞かせください。
藤木守:
一流ブランドの商品は、「ここの製品ならクオリティが高いはずだ」というお客様の安心感につながります。
当社の製品も「藤屋が出しているものなら安心だ」と思っていただけるよう、品質にこだわっています。そうして他社との差別化をはかりオンリーワンの商品を提供することで、価格競争に左右されることなく適正な価格設定ができるのです。
もうひとつは、時代の変化に合わせ、お客様が求める商品を提供していることです。飲食業界では労働力不足が深刻で、調理にかけられる時間が少なくなっている現状があります。
そこから出ている問題点に着目して、その問題を解決できる商品を手掛けております。例えば、一からスープを取るのには8時間以上かかります。その時間と人の問題を解決するために当社内にスープ室を新設し、ハイクオリティなスープを提供できる加工技術を開発しております。
また、普段からお客様と顔を合わせているからこそ、現場のニーズに合わせた商品開発が可能ですし、求められているものをスピーディに商品化して提供できているのも、当社の強みですね。
食材の質の追求により、社員が余裕を持って働ける環境を構築
ーー外食産業を中心に商品を提供していますが、量販店へと販路を拡大する予定はないのですか。
藤木守:
私は社員が無理なく働けて、プロの料理人の方々にも納得していただける商品をつくり続けたいと思っています。
量販店へ販売するとなると、大量の注文が見込まれるため、製造現場がひっ迫する恐れがあります。効率重視になることも考えると、商品のクオリティも下がってしまうでしょう。
それは避けたいため、業績の拡大よりも商品の品質を優先し、社員が余裕をもって働ける環境を整えたいと思っています。
ーー社長に就任してから今日に至るまで、どのように会社を運営してきたのですか。
藤木守:
先代が倒れ、急きょ社長に就任したのですが、当時は朝から晩までがむしゃらに働くのが良しとされていて、非合理的な働き方でした。
また、中国から食材の輸入を行っている会社があまりなかったため、こちらから営業しなくても利益を出せていたのです。そのため、危機感がなく月の売上すら把握していない状態でした。
こうした状況を目の当たりにし、日頃から社員には自分で考えて行動するという意識を持ってもらうことが必要だと感じました。
そこで大々的な組織改編を行い、ポジティブな考えを持った社員に残ってもらいました。さらに、社員の仕事の効率を高めることで、労働環境の見直しも図りました。
つらい時期こそ明るく、お客様を勇気づけて仲間を引っぱっていく
ーーコロナ禍では飲食店や宿泊施設の利用客が激減しましたね。貴社の顧客も苦労したところが多かったのではないですか。
藤木守:
弊社の取引先は全国に2000件ほどあるのですが、新型コロナウイルスが蔓延した頃は一気に客足が減り、どこも厳しそうでした。私は少しでも助けになればと、感染対策を徹底したうえで、コロナ禍にもお客様のところへ通っていました。
お客様からはとても喜ばれ、いまだに感謝の言葉をいただいています。
ーー貴社の売上にも大きく響いたと思います。先行きが見通せないなか、どのように舵取りしたのですか。
藤木守:
日ごとに売上が下がっていくなか、だんだんと社員たちの気持ちが落ち込んでいくのを感じていました。こうした非常時こそ、組織のリーダーがみんなを引っ張っていかなければいけないと思ったのです。
そこで、月に1回社員たちと食事をする「コロナに負けない会」をつくり、少しでも彼らに笑顔になってもらおうと心がけていました。大変な時期でもありましたが、こうしたつらい時期を乗り越えたことで、組織として成長しさらに強くなれたと感じています。
ーーお話をお聞きして、藤木社長と社員の方々との距離がとても近いと感じました。
藤木守:
社長室は気軽に入って来られるようオープンにしていますし、場合によっては社員が担当するお客様のところへ私が同行することもあります。このように社員とは常に一緒にいるので、団結力がとても強いですね。
経営者が大切にすべきことと、読者に向けたメッセージ
ーー経営者にとって大切なことは何だとお考えですか。
藤木守:
私にとって、経営者が大切にすべきことは「ブレない意志」です。戦略や作戦は周りの環境を見ながらいくらでも変えていいのですが、自分の軸となる信念だけは変えずに守り続けていきたいですね。
ーー最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
藤木守:
弊社は多くのお客様と接する機会があり、多くの経験を積む楽しさを実感できる職場です。また、お客様に喜びを還元するため、社員自身が心に余裕を持てる状態であることを大切にしています。
今後も北京ダックの業界シェアトップを維持し続けながら、さらなる成長を目指して行きます。
編集後記
飲食業界の交友関係が広い藤木社長。全国にある顧客のレストランやホテルの料理を食べ、食材の質や味を追及してきた。コロナ禍にはあえて顧客の店に出向く機会を増やし、社員とざっくばらんに話す姿からは、人を大切に思う人柄がうかがえた。質の高い食材を提供し続ける株式会社藤屋は、これからもプロの料理人の味を支え続けることだろう。
藤木 守/1987年に日本大学農獣医学部を卒業後、ニチメン株式会社(現・双日株式会社)へ入社。中国の大連支店で食品輸入関連のノウハウを学ぶ。1995年に株式会社藤屋へ入社し、2003年に代表取締役社長に就任。中国の営口(えいこう)水源食品有限公司の董事(日本の取締役にあたる役職)を兼任。