※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

温室効果ガス排出量の削減や、グローバルなゴミ問題の解決に取り組んでいるAC Biode株式会社。独立型交流電池の開発や、プラスチックからメタノールへの解重合(※)に成功するなど、世界初の試みが業界でも話題を呼んでいる。

最先端の化学技術を駆使しながら環境問題の解決に取り組む久保氏に、起業のきっかけや事業内容、今後の展望について話を聞いた。

(※)解重合:廃プラスチック等の重合を解き原料のモノマーに戻すプロセス。

環境問題に関心の高いヨーロッパから、日本へと事業をつなぐ

ーーAC Biodeを起業する以前のご経歴を教えてください。

久保直嗣:
学生時代から海外に行くのが好きで、行く先々で目にする環境問題について「何かしたいな」と思っていました。環境問題の解決に貢献するためには専門の分野に特化する必要があると思い、慶応大学の環境情報学部に進みました。

大学卒業後は商社に入社し、海外向けのプラントや、再生可能エネルギーなどの財務関係を担当しました。12年間勤めたタイミングで「自分の力でやりたいことをやろう」と起業を思い立ち、退社を決意。その後、MBAを取得するため、イギリスへ留学しました。

イギリスで現在のCTOである水沢と出会って意気投合し、クリーンテック分野が進んでいる欧州にてスタートアップをしようと、まずはイギリスと日本で起業しました。

ーーその後、日本で立ち上げたのがAC Biodeですが、ルクセンブルクにも拠点があるのですね。

久保直嗣:
イギリスにいた際、EU傘下で半官半民のベンチャーキャピタルであるEIT InnoEnergyから資金調達を受けたのですが、イギリスがBrexitでEUを離脱した為、彼らから「ルクセンブルクに拠点を置いてほしい」と話をいただいたのです。そこでルクセンブルクに研究施設をつくろうと思っていた矢先、新型コロナウイルス感染拡大でロックダウンが実施されてしまいました。

研究施設をつくるのには莫大な費用がかかるため、このままロックダウンが続けば破産の恐れがあります。そこでロックダウンが実質ない日本に施設を置くことを決め、2019年に京都にてAC Biodeのラボを立ち上げました。現在もルクセンブルクとイギリスにも拠点を置いており、欧州と日本で事業を展開しています。

多角展開することで売上を確保し、事業の安定を図る

ーー事業内容を教えてください。

久保直嗣:
弊社は「化学技術により、地球の温暖化ガス削減と海洋プラスチックはじめグローバルなごみ問題解決・リサイクル率向上に貢献する」というミッションを掲げ、現在主に5つの事業を展開しています。

1つ目は、廃プラスチックをモノマー(プラスチックを構成する最小単位)に解重合する触媒の開発です。世界で初めてプラスチックからメタノールへの解重合に成功し、現在弊社で一番引き合いの多い事業となっています。また、この技術を応用し、食品残渣や汚泥等有機廃棄物を水素や燃料の材料に分解することにも成功しています。

2つ目は、レブセルと共同で、フィルターを使って空気中からCO2を吸着、固形化し、ガラスの原料にリサイクル、またはセメントに混ぜることで、建築資材や高級美容品容器などにリサイクルしています。

3つ目は、交流電池と回路の開発をしており、電動バイクやロボットなどで実証実験を実施中です。

4つ目は、血糖値を測るグルコース測定センサーの開発です。実は弊社の水沢が血糖値センサーの発明者であり、現在も大学や製薬会社と一緒に開発を続けています。

5つ目は、幅広い用途の原料液を液滴(表面張力でまとまった液体のかたまり)化できる微粒子合成の技術で特許を取得しました。これによりミクロベースの液体状のボールをつくることができ、薬物を体内で輸送するドラッグ・デリバリー・システムや食品の発酵などに使用していく予定です。

※AC Biode調べ。2023年6月時点。

ーー幅広く事業を展開していますね。

久保直嗣:
通常、スタートアップ企業では1つの事業に特化することが多いと思います。しかし、我々の業界は1つの研究開発に数年を要するため、事業を多角展開することで売り上げが立ちやすくなるのです。私はエンジニアではないので研究開発に集中する必要がなく、幅広く事業を見ることで会社のバランスをとっています。

ーーCO2を吸着してガラスにリサイクルする技術は、実際にどのような場所で活用されているのでしょうか?

久保直嗣:
主にCO2の削減を目標とする企業のイメージアップなどに活用されています。たとえば不動産業では、CO2を吸着させてつくられたリサイクルガラスを建築資材として使用することで、テナント料のアップにつながっているそうです。

「大阪万博のパビリオンにもこの技術を活用したい」とお声がけいただき、現在協議を進めているところです。応用して、セレブやスポーツ選手、赤ちゃん、ペット等の吐息を吸着し、ガラスのグッズや思い出の品を作るお話も頂いています。

エンジニアにフェアな環境を用意すれば、自然と優秀な人材が集まる

ーー社員の採用方法や働き方について聞かせてください。

久保直嗣:
現在はエンジニアの人間がほとんどで、社員同士の人脈を利用したリファーラル採用がメインです。給与は高くありませんが、その代わりエンジニアが何かを発明した際は、報奨金もしくは売り上げの数パーセントを渡す仕組みにしています。研究者に対してフェアな状況をつくり、さらにフレックスタイム制も採用して柔軟な働き方ができるようにしたことで、結果として優秀なエンジニアが集まっているのだと思います。

ーー今後の展望を教えてください。

久保直嗣:
今後は、弊社の事業で一番引き合いがあるプラスチックや有機廃棄物を分解する触媒開発について、2〜3年以内に商業化したいと考えています。

会社の基盤を整え、しっかりと環境問題に取り組んでいくために、今後5年程度での上場を考えています。環境問題においては日本も海外も関係ありません。地球規模で問題を解決していけるよう、全力で取り組んでまいります。

編集後記

これまで多くの“世界初”を生み出し、環境問題解決への貢献を図っている久保氏。欧州に比べて日本では環境問題に取り組むスタートアップ企業が少ない状況について、「たとえ起業で失敗をしても、履歴書に書けばそれも立派な経験になります。失敗を恐れずにどんどん挑戦してほしい」と語った。彼らの技術が今後どのような事業へと展開されるのか、期待が膨らむ。

久保直嗣/交流電池、廃棄プラスチック分解重合触媒、吸着技術などを開発・展開するAC Biode共同創業者。商社にて、国内外向けプラント、再生可能エネルギーなどを担当。退職後、イギリスに留学し、現在のCTO・水沢と共同で、日本とイギリスにて起業(AC Biodeは2社目の起業)、ルクセンブルクも含め、事業を展開。イギリスのケンブリッジ大学、アメリカのマサチューセッツ工科大学などの国内外ピッチコンテスト(スタートアップ企業がアクセラレーターや投資家に対して事業計画をプレゼンテーションするイベント)30件で優勝。ケンブリッジ大学経営大学院MBA(経営学修士)を取得。元アマチュアボクシングフェザー級全日本3位。