※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

株式会社カクダイは、水道用品・水栓金具(蛇口、洗面器・手洗器用、キッチン・浴室・トイレ用、緑化庭園用)の専門メーカーだ。機能性とデザイン性を兼ね備えた商品が数多くある中で、もっとも目を引くのがユニークで奇抜なデザインの蛇口だ。

おでん形やバナナ形、上下逆さの蛇口、丸くふくらんだ左右非対称のメタボ形など、思わず「誰や、こんな蛇口つくったやつは?」とツッコミたくなるような個性的な水栓がたくさんある。

同社をけん引する代表取締役の多田修三氏は、自身を「オタク」で「弱キャラ」、さらに会社も「弱キャラ」だといってはばからない。弱みを強みに変えていった経緯について、多田修三氏にうかがった。

「いちびり」が原点。失敗から学ぶ弱キャラの経営哲学

ーーどのような子ども時代でしたか?

多田修三:
私は、裕福な家庭で何不自由なく育てられました。恵まれた環境が周囲の反感を招き、いじめや疎外感に苦しむ子ども時代でした。アニメやゲームでいう「弱キャラ」です。周囲からの攻撃から身を守るために、私はあえて自分を卑下し、自虐的な冗談をいうことで、相手に攻撃の理由を与えないようにしていました。その結果、「いちびりの多田」と呼ばれるようになりました。

「いちびる」とは、関西地方の方言で「調子に乗る」「出しゃばる」「図に乗る」という意味です。この言葉の語源は「市振る」で競りで騒ぐ人の様子という説もありますが、私は「秀逸ぶる」と考えており、これは自分を良く見せようとする本能から生まれる行動です。つまり、「いちびる」は、自分の弱さをユーモアでカバーし、強みに変換する力を持っているのです。

ーーそこから入社までの経緯をお聞かせください。

多田修三:
大学卒業後、家業である弊社に入社しました。私で6代目となりますが、家業を継ぐことに特に反発を感じることもなく、自然な流れとして受け入れました。私が入社したのはバブル期で、弊社は住宅の補修部材を製造販売していました。しかし、リーマン・ショック時に大企業が市場に参入し、弊社はシェアの4割以上を失いました。

生き残りを懸けて、業界トップクラスのTOTOを超える高水準の商品開発を目指し、全力を尽くしました。しかし、結果は残念ながら惨敗に終わりました。この失敗は、自分の原点に立ち返る大きな転機となりました。先にお話しした「いちびりの多田」です。

そこで、企業経営においても、この「いちびる」という概念を活かし、面白さや遊び心をとり入れることで、弱みを克服し、強みに変えていくことができるのではないかと思い至りました。

面白い商品でメディアを席巻!社員の帰属意識を高めた戦略

ーー代表取締役になって、社風を変えたとお聞きしました。

多田修三:
私が入社した当時、弊社の売上は現在の3分の1でした。社員の帰属意識や士気は低く、不正を行う者もいました。しかし、そんな中でも私を奮い立たせ、会社を良くしようと尽力してくれた社員たちがいました。彼らがいなければ、今日の弊社は存在しなかったと断言できます。

社員の意識改革を成功させるためには、給与面の待遇改善はもちろん、仕事自体が楽しく面白いと思える環境を提供することも必要です。これにより、社員のモチベーションを高め、不正行為を抑制することができます。

離職率が低下してきたのは、弊社が面白い商品を開発し、メディアにとりあげられるようになった頃からでした。社員の家族が会社について知る機会が増え、メディア露出が増えるにつれて、社員の帰属意識も徐々に高まっていきました。

――「オタク」を公言していますが、どんなメリットがありますか?

多田修三:
私はアニメやライトノベルなどの作品を、コミュニケーションツールとして活用しています。たとえばアニメは、若手社員や外国籍の社員と親睦を深めるきっかけとなります。ライトノベルでは特に「なろう系」作品の、世の中の現象に細かくフォーカスし、差別化を図っている点に、ビジネスのヒントを得ています。

弊社のユニークな商品開発の原点は、私の名前「多田」に由来しています。子ども時代、ウルトラマンが流行り、出てきた怪生物から「ダダ」というあだ名が付けられました。この「ダダ」はダダイスムから派生した言葉であり、シュールな表現を特徴とする芸術運動のことです。そこから、シュールなものをトレンドマークにしようと思いつきました。

目指したのは、サルバトール・ダリの、ふにゃっと曲がった時計のような世界です。そして、奇妙な形をした「Da Reya(ダレヤ)」シリーズや「おでん」などの蛇口が生まれました。

弱キャラ万歳!競争を回避してニッチな道を歩む

ーー若い世代へのメッセージをお願いします。

多田修三:
私は、野村克也氏の提唱する「超二流なら天才や一流に勝てる」という言葉に深く共感し、常に「目指すのは超二流」といっています。たとえば、大ヒット商品はすぐに競合他社に模倣されたり、担当者が過去の成功にとらわれて旧弊化するリスクも考えられます。長い目で見ると、大ヒット商品は必ずしも企業にとってプラスになるとは限りません。

弊社は個性的で多様な人材が集まる「弱キャラ」集団ですが、それで良いと考えています。弱キャラは個性を活かして競争を避け、独自の道を歩むことができます。

若い人には、瞬間的な売り上げよりも、誰もやっていない分野のスキルを磨き、徐々に成長し、最終的に大きな利益をあげられる人材を目指してほしいと思います。重要なのは、他人との差別化と、自己研鑽に時間とお金をかけることです。

編集後記

「弱キャラ」が成功を収めるという、まるでライトノベルの逆転劇のようなストーリーを語る多田代表取締役は、二流だからこそできることがあるという。

特に興味深いのは、多田氏が「オタク」であることを公言し、アニメやライトノベルをビジネスに活かしている点だ。多様な文化をとり入れ、個性を受け入れる多田氏の姿勢は、現代社会における新しいリーダー像を示唆しているといえよう。

独自路線を歩み、さらなる挑戦を続ける株式会社カクダイに、これからも注目していきたい。

多田修三/1963年生まれ、山口大学経済学部卒業。株式会社カクダイに入社後、営業や商品開発などの業務経験を経て、2007年に代表取締役副社長に就任。オタク趣味を公言しており、マニアックな話に社員が置いていかれることもしばしば。しかし、オタ活で得た知識をマーケティングから商品開発まで多岐にわたり応用しており、趣味を仕事につなげるプロ。