※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

岐阜県に本社を置く株式会社トイファクトリーは、断熱性能や、実用性と快適性を両立したインテリアにこだわり、ハイエースベースのキャンピングカーで国内シェアNo.1を獲得。キャンピングカー業界で一際目を引く存在だ。

乗り手目線で考えたキャンピングカーづくりから始まった同社の挑戦は、今やそれだけにとどまらない広がりを見せている。災害派遣トイレカーはメディアでも広く取り上げられ、2024年4月には輸入車キャンピングカー専門店「EURO-TOY 相模原」を神奈川県にオープン。

トヨタ自動車の手がける自家用クルーザーブランド「トヨタマリン」とコラボレートしたプレジャーボートのプロデュースも手がけるなど、ワクワクする取り組みをどんどん発表している。同社の藤井昭文代表に事業への思いや展望をうかがった。

乗り手目線でこだわりのキャンピングカーを形に

ーー創業の経緯を教えてください。

藤井昭文:
原点は、父親が手づくりのキャンピングカーに乗っていたことでしょうか。物心がついたころにはすでに、家族旅行となると「キャンピングカーで行く」というのが当たり前の環境で育ち、自然な流れで今の会社を始めました。

弊社はキャンピングカーの分野では後発です。けれど、私がほしいキャンピングカーを探そうとするとなかなか見つからない。「それなら、私が本当にほしいと思うものをつくれば、キャンピングカー市場で勝てる可能性があるのでは?」と思ったのが創業のきっかけです。

ーー車づくりのこだわりをお聞かせください。

藤井昭文:
弊社の車づくりはとても変わっています。自分が使っていて不便だと思うところを潰していくという手法です。これが、トイファクトリーらしさにつながっています。内装の綺麗さは当然のこと、本当に意味があるのは「見えないところ」。快適なキャンピングカーの車内環境を、どのようにしてつくれるかにこだわっています。

国内だけでなく海外からも評価されるキャンピングカーづくり

ーーキャンピングカーをつくる技術やノウハウをどのように確立してきたのでしょうか?

藤井昭文:
私はとても凝り性です。たとえば、家具の組み方ひとつとっても、徹底的に考えてきました。キャンピングカーの車内に置く家具は1cmの違いがとても大きく、広さに限りのある空間だからこそ、車内で家具に体をぶつけないような配置を考えなければなりません。2024年8月に創業30年目を迎えますが、30年の積み重ねが、弊社の技術やノウハウとなっています。

ーー海外からも関心が集まっていると聞いています。

藤井昭文:
2023年に開催された国内最大のキャンピングカーショーで、ヨーロッパの大手メーカーなどの経営者が10人以上、弊社ブースに見学に来てくれました。ドイツに拠点を置く世界トップシェアを誇るキャンピングメーカーの経営者からは「この車なら、そのままドイツに持って行って販売できる」と言っていただきました。

世界的には後れをとっているというイメージのある日本のキャンピングカー業界ですが、「世界に認められた」というのは私たちにとって、大変うれしいことです。技術部のスタッフも販売スタッフも、海外から評価されたことで大きな自信になりました。

ーー顧客層はどのような方ですか?

藤井昭文:
キャンピングカーといえば、団塊の世代の方が乗るイメージが強かった時代もありましたが、弊社の顧客層は少し違います。団塊の世代というよりも、団塊世代ジュニアと呼ばれる世代がトイファクトリーのキャンピングカーを買ってくださっていたんです。

当時、弊社から販売したときに小さかったお子さまが今では家庭を持ち、キャンピングカーを購入してくださっています。2代、3代と、世代を超えたお付き合いが続いていますね。

また、お子様の教育資金が必要な時期に一度キャンピングカーを手放しても、ご夫婦が2人でゆっくり過ごせるようになったら再び購入される方もたくさんいらっしゃいます。

ものづくりでワクワクの追求を

ーー貴社の技術の活用シーンについて、今後どのような取り組みを計画していますか?

藤井昭文:
キャンピングカーというものづくりのプラットフォームを活かして、挑戦の範囲を広げていきたいと考えています。行政との取り組みもそのひとつです。

自治体の市長向けに提案しているのが、「移動市長室」です。キャンピングカーのノウハウを活かして、移動しながら休憩や仕事、着替えができるようなスペースを確保した車があれば、より精力的に活動ができるはずです。災害発生時には災害拠点として、そして治療のための場所として使えます。行政で私たちのものづくりの技術が活かされるシーンはまだまだたくさんあると思っています。

ほかにも私たちの想像を超えた活用も始まっています。高校生向けの期日前投票にも弊社の車が使われました。また、断水が続く地域でも衛生的に使用できるウォーターレストイレを搭載したトイレカーも、能登半島地震の被災地で非常に喜んでいただけました。それを見て、有事の際の備えとしたいというお声も多くの自治体様からいただいています。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

藤井昭文:
キャンピングカーをプラットフォームとして、そこから何ができるかを考えていきたいですね。これまでの自動車業界は、100年に1度、変革期が来ると言われていました。けれど、これからの時代は5年に1度くらいの頻度で変革期がやってくるでしょう。

自動運転技術が進歩すれば、車を運転するという感覚がなくなり、私たちがつくっているキャンピングカーのように「家が車になっている」という価値観が広がるはずです。だからこそ、キャンピングカーをつくる会社にとどまらず、モビリティカンパニーとして大手メーカーができないようなものづくりに挑戦していくつもりです。

編集後記

溢れるほどのアイデアとワクワクする気持ちを大切にしている藤井代表。「仕事が楽しすぎて、時間が足りない」と話す姿が印象的だった。小さな組織ならではのスピード感とアイデア、そして情熱から生まれるトイファクトリーのものづくりに、今後も注目していきたい。

藤井昭文/1971年、岐阜県生まれ。幼少期から、工務店を営む父が手づくりしたキャンピングカーで旅をする。その思い出が原点となり、1995年に株式会社トイファクトリーを設立し、代表取締役に就任。