※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

環境問題に関する意識が高まり続けている現代、創業100年を超え、高い技術力と環境に負荷を与えない素材を追求してきたのがHARIO株式会社だ。日本で唯一耐熱ガラスの国内生産工場を有し、海外での事業展開も進めている。歴史ある家業への思いや今後の展望について、柴田匡保氏に話を聞いた。

どこにいても、どのポジションでも変わらない圧倒的な顧客志向

ーー家業を継いで社長就任に至った経緯を教えてください。

柴田匡保:
学生の頃は、将来的に家業を継ぐという明確な考えはなかったのです。就職氷河期と呼ばれる時期での就職活動で、唯一採用された段ボールの会社で2年半営業を経験しました。

しかし、このまま家業から離れたままでよいのか、やはり自分が継ぐべきではないかと考え続けた結果、家業を継ごうという考えに至ります。どこかで家業のことは常に頭にあったので、迷いながらも覚悟を固めていったのだと思います。それからはグループ会社も含めた工場勤務をはじめ、営業や業務管理などで経験を積み、2017年に5代目として社長に就任しました。

ーーさまざまな職種やポジションを経験した中で、大事にしていることは何ですか。

柴田匡保:
「お客様のためになるか」が判断基準であることです。この考えは、どんなポジションでも変わりません。お客様のためにならないと思うことがあれば、取引先と本気でぶつかり合うこともありますし、開発中止という判断をすることもあります。私たちの事業は、お客様なしでは成り立たないということをいつも心に留めています。

「ガラスメーカー」という固定観念にとらわれない商品展開と展望

ーー貴社の強みやこだわりを教えてください。

柴田匡保:
弊社の強みは、創業から100年以上にわたって培ってきた素材力と技術力だと考えています。現在、耐熱ガラスの国内生産工場を持つのは弊社のみで、そこで生み出される商品はすべてメイドインジャパンといえることも大きな強みです。

こだわっていることは、顧客ニーズに沿ったデザインと商品開発の追求です。社内には10名を超えるデザイナーがおり、商品アイデアは全社員から自由に提案を募ります。実際にその中から商品化することもあります。このように社内全体で商品開発に取り組んでいることが、お客様からの「こんな商品がほしかった」という評価につながっているのでしょう。

ーー商品展開はどのように決定しているのでしょうか。

柴田匡保:
ビーカーやフラスコといった理化学分野のほか、家庭で使われるコーヒー・ティー器具や、ジュエリーといった商品を展開しています。

ジュエリー事業は、2011年に発生した東日本大震災が転機となり始まったものです。当時弊社の工場も被災し、丸1日近く続いた停電で、20トンものガラスが固まってしまいました。この固まった大量のガラスを加工してみようと思ったのがきっかけです。

その試みから、耐熱ガラスの繊細さや透明感を活かしたジュエリーブランド「HARIO Lampwork Factory(ハリオ ランプワーク ファクトリー)」が誕生しました。このように、予期しないことから、新たな展開が広がることもあります。

ーー次の100年に向けての展望や次世代に残したいことを聞かせてください。

柴田匡保:
展望としては、海外事業拡大を強化していきたいです。現在、海外の7拠点で現地法人を立ち上げ、売り上げの伸び率も国内より圧倒的に高くなっているのです。HARIOというブランドが評価されている手ごたえがありますし、いくらでも伸び代があると感じています。

次の世代へは、弊社を「完全循環型のものづくり企業」として残したいと思います。ガラスは必要不可欠な素材であり、もともとは砂を溶かしてつくったものです。そのため、ガラスが割れても砂に返るだけで、環境への負荷が極めて小さいという特性を持っています。

そういった循環できる素材で、すべてのものづくりをしていきたいですね。お客様にも環境への影響などを気にせず、安心して弊社の製品を選んでいただける製造体制を、私の代で確立したいと思っています。

社内の雰囲気が商品のたたずまいそのもの

ーー社員の方々の特徴や貴社ならではの制度を教えてください。

柴田匡保:
どこか品位を感じさせる方や、純粋な人柄の方が自然と集まっていると感じています。用意された研修で成長していくというよりは、経験から自ら学んでいる印象です。そうした社員の実直な雰囲気が、そのまま商品に現れていると思います。

会社独自のものとしては、昔から盛んな数多くの部活動でしょうか。制度ではなく有志の活動ですが、野球やゴルフ、ヨット、ダンスといった運動系から、軽音楽やお茶などの文化系まで幅広く、発表の場もあります。私も参加していて、職種やポジションの垣根を越えた自然な交流があることも社内の雰囲気づくりや、ひいては商品の魅力につながっていると感じます。

ーー最後に就職活動をする方へのメッセージをお願いします。

柴田匡保:
「外から見た私」という視点からキャリアを考えてみるとよいのかなと思います。昨今20代の離職率がよく話題にあがるように感じますが、少々もったいないと感じるのです。あと少し腰を据えると、キャリアとしてもうひと皮むけるのではないでしょうか。そういった経験をしてこそ、客観的にも評価される実力と人間的な深みが築かれていくはずです。

弊社に少しでも興味を持っていただけた方は、ぜひ挑戦してほしいです。業界未経験でもいつでも大歓迎です。ぜひ次の100年を一緒につないでいきましょう。

編集後記

「すべてお客様のため」と迷いなく語り、圧倒的な顧客志向と環境問題への当事者意識を持つ柴田社長。課題に注力する一方で、困難を好機に変えて新規のジュエリー事業を展開したり、部活動にも参加したりという柔軟で軽やかな行動力は、まさに「社内の雰囲気がサービスや商品に現れている」ことを体現していると感じた。

柴田匡保/1973年東京都出身、学習院大学卒業。他業界にて営業を経験した後、1999年にHARIO株式会社に入社。業務管理本部取締役副本部長、調達・品証本部専務取締役、株式会社ハリオロジテム社長、ハリオサイエンス株式会社の社長を経て、2017年HARIO代表取締役社長に就任。