今回ご登場いただくのは、ジュピターショップチャンネル株式会社、元代表取締役社長の新森健之氏。
慶応義塾大学法学部を卒業後、住友商事に入社。建設機械部門を担当し、中東やアジアなど、若くして世界を飛び回る日々を過ごす。
その後、人事部長、ライフスタイル・リテイル事業本部長などを歴任し、執行役員に就任。2019年にジュピターショップチャンネルの代表取締役社長に就任した。
主に新たなブランドや商品の発掘、育成を行い、過去最高額の売上の実現と並行して、将来を見据えた経営改革を断行。現在は住友商事を離れ、次世代をけん引するビジネスパーソンや若手ベンチャー経営者の育成に邁進している。
大手総合商社でその経営手腕を発揮したビジネスパーソンは、どのようなマインドで仕事と向き合ってきたのか。
■動画テキスト
【ナレーター】
大学卒業後、1982年に住友商事の門を叩いた新森氏。建設機械の営業職に従事し、28歳のときにイラクへ赴任。そこで起こったあることが、後の自身の人生に大きな影響を与えることとなる。
【新森】
1990年8月2日に湾岸戦争が起きました。
その日から休暇を取ってヨーロッパへ遊びに行ったはずの先輩が、「なぜか分からないけど、空港が閉鎖になっていて飛行機が飛ばないんだよ」と夕方に帰ってきたのです。
イラクは情報も統制されていますから、何の情報もありませんでした。しかし、西側からの情報が入ってきて、どうやらこの国は隣国のクウェートに戦争を仕掛けたらしいと分かりました。
「5か国の常任理事国と百何十か国の国連加盟国が、制裁決議をまたたく間に採択して、イラクを攻めてくるかもしれない」「場合によっては、原爆を落とされたり、総攻撃されたりするかもしれない」という状況になったのです。
日本人、アメリカ人、フランス人、韓国人、ドイツ人など、私たち西側諸国のすべての人が人質にとられ、それぞれの母国に帰さないと言われました。
「もしかすると30年は日本に戻れないかもしれない」「あるいは一生出られないかもしれない」「この先、何が起こるか分からない」という状態でした。そのときは、「本当に死ぬんだろうか」と感じました。
そこから、住友商事グループ、三井物産グループ、伊藤忠グループ、三菱商事グループなどの日本人600人ほどが、混沌とした数か月を過ごしました。
「俺は死ぬかも。帰れないかも」と常に意識していたのですが、その一方で「でも、いつか帰れるかも」「いつか解決されるかも」という希望を捨てずに、冷静に行動できていました。
これは私が20代のときの経験なのですが、この経験がその後の自分の生き方に2つの影響を与えてくれました。
1つは、沈着冷静に状況を分析・判断して、できることをやること。もう1つは、明日何が起こるか分からないので、やりたいことは何でも「今やっておこう」という行動パターンに変わりました。
よくある質問で、「好きな料理は最後に食べる派?最初に食べる派?」というのがありますが、そう聞かれたら私は「真っ先に食べます」と答えますね。
無事に4か月という非常に短い期間で解放されて日本に帰ってこられましたし、毎日「俺は明日も生きているだろうか」と思いながら寝る日々に比べれば、ビジネスや交渉の際に壁にぶつかっても、「まあ命までは取られないよね」と思えるのです。
結果的には人質となった期間が非常に大きな糧となり、自信がつきました。
【ナレーター】
その後、人事部長を経て、2010年ライフスタイル・リテイル事業本部の副本部長就任と同時にグループ会社であるジュピターショップチャンネル社外取締役になり、2019年には取締役社長に就任。
自身のキャリアを振り返り、毎日が失敗の連続だったという新森が、これらを乗り越えるために意識していたのは、慌てないことだと振り返る。
【新森】
うまくいかない、失敗しちゃった、やばい、というときほど、慌ててバタバタと何かするのではなく、いったんちょっと立ち止まってみる。
「リカバリーするにはどうしたらいいんだろう」「どういう手が打てるだろう」と冷静に考え、いろいろな打ち手を想定して、たくさんの選択肢の中から、「じゃあどれいく?」と考える。そんなふうに、速やかにみんなと話をして、打ち手を分析・研究して、なるべく早く結論を出すことが大切です。
失敗のときの鉄則は、「ピンチのときこそ慌てない。冷静にきちんと考える」だと思います。
【ナレーター】
現代社会において、20代の経営者や学生起業は珍しくない。そんな若手経営者に新森氏が期待することとは。
【新森】
本人が本当にやりたいことをのびのびと選べばいいと思っています。
どこに、どんなビジネスチャンスがあるかは誰にも分かりませんし、自分の得意分野、あるいは好きな分野の中で、どれが将来的な職業や仕事につながるかも分かりません。チャンスはいくらでもあるし、今は選択肢もかなり多いですよね。
逆に言うと、失敗しても、やり直しがきく。これは大事だと思います。だから、失敗を恐れずにどんどんやる、どんどんチャレンジする、ということを今の若手の皆さんには、うらやましさ半分、応援半分で伝えたいなと思います。
私は、「将来どうなりたいか、どこの部署に行きたいか、どういうキャリアを歩みたいかを言う前に、まずは自分に与えられた仕事に全力投球で取り組み、突破してください」と、部下や後輩によく言ってきました。
今の若い人たちも、成功している人はそれを必死にやっていると思います。いい時代になったことを、「アイデアだけで勝負できて楽勝」だと解釈するつもりは全くありません。
そんな時代だからこそ、頑張った人にしか結果は出ません。私たちが若手だった頃よりも、ごまかしがきかないんです。
目の前の課題に全力で当たって、何とか課題を解決して突破する。これは、昔も今も変わっていないポイントだと思います。それができない人には結果が出ないし、成功もやってこないし、チャンスもないと思っています。
【ナレーター】
今後は、将来有望な若手経営者やビジネスパーソンに対して、アドバイスやサポートをしていきたいと語る新森氏。その真意に迫った。
【新森】
私は今、65歳なんですが(2024年11月時点)、「自分が中心となってこれがやりたい」「これがやり切れていないからやりたいんだ」というものはありません。やり切った感があるので、「まあいいかな」と思えるんです。
一方で、私が今お付き合いしているベンチャー企業の経営者や、若手のビジネスパーソンの方々を見ていると、非常にポテンシャルもあるし、優秀だし、個性もあるし、いろいろ分かっているんだけども、若いがゆえに持ち合わせていないものがあるなと感じることがあります。
何十年もビジネスをやってきたからこその目線で、その人たちをサポートしたり、助言したりしてあげたいですね。「この人たち大化けするな」と感じる人が、いっぱいいるんです。学生さんもいますし、若手のビジネスパーソンにもいるし、いいアイデアを持っている専業主婦の人たちもいます。
ビジネスのフィールドに戻ってくれば大化けするのに、と思うような将来有望な若手の人に、年の功でアドバイスやサポートできることがあれば、それをやりたいと思っています。
その人たちが大化けしてくれた姿を見るのが、非常に楽しみです。
【ナレーター】
もし生まれ変わったら、もっと勉強に時間を使いたいという新森氏。その理由について、自身の経歴を振り返って、次のように語る。
【新森】
私は高校から大学にエスカレーター式で進学できる学校に行っていたので、大学受験で頑張った経験がないことが大きなハンデだなと、年を取ってから日々思うようになりました。
受験勉強をしたかどうかではなく、勉強したいことや深めたい分野を自分で決めて深掘りしていくことは、本当に楽しいことだと思うんです。
私はそれをやってこなかったので、生まれ変わったらもっとたくさん勉強したいなと。つまり、「しとけばよかったな」と今、後悔しているんです。
今は知識欲や探求したい気持ちが強くあります。教養があると、人とのつながりも豊かになるし、自分の人生が豊かになると思うのです。教養は大事なので、もっと身につけておきたかったなと。
そのためには、やっぱり勉強しなくちゃいけなかったなと思います。
ー視聴者へのメッセージー
【新森】
実は、ひとつ皆さんにお伝えしたいと思っていることがあります。それは、一言でいうと「諦めが早い」です。「何でそんなに早く諦めちゃうのかな」と思うことがあります。
頭がいい人ほど、「ああ、もうダメだな。これ結果が出ているな。無理だな」「失敗しちゃったから、リカバリーもダメだろうな」「相手が怒っちゃったから、もう謝っても遅いな」と、結論をすぐ出してしまうのです。
でも、結果を自分で出さないで粘ってみてください。
何か手立てがないのかと考えるときは、自分一人で抱え込まなくてもいいんです。先輩にアドバイスを求めてもいいし、同僚や部下の意見を聞いてもいいし、お客さんの声を聞いてもいいし、ライバルの声を聞いてもいい。
いろいろなパターンがあると思いますが、誰かに相談することは非常に大事なことだと思います。
私は「1%でも可能性があれば、それに賭けよう」といつも部下に言っていました。
「なぜ1%の可能性を排除しちゃうんだ」「なぜ結果を自分で見切ってしまうんだ」というセリフは、会社員生活の中でずっと言い続けてきました。
「為せば成る」の裏側の言葉なのですが、私がよく使う言葉に「成らぬものは成らぬ」という言葉があります。その言葉を、自分自身に言い聞かせることがよくあるのです。
最大限の努力をして、1%の可能性に賭けて、必死にやったけれども結果が出ないということは、やっぱりあるのです。
そういうときは諦めるしかないので、諦めた上で次に進むもうと。「成らぬものは成らぬ」ということを、潔く受け入れる。
潔く受け入れるためには、やり残しなく、後悔なく、「やれることは全部やったぞ」と自分に自信がないとできません。
「成らぬものは成らぬ」というところまで、しっかりやり切ってほしいなと思っています。
