ハム・ソーセージ一筋70年。
不可能を可能にした長野発食肉メーカーの次なる一手


信州ハム株式会社 代表取締役社長 宮坂 正晴

※本ページ内の情報は2017年2月時点のものです。

自然豊かな長野県上田市に本社を構える信州ハム株式会社は、ハム・ソーセージの製造販売及び総菜の販売を行う、創業70年を超える食肉加工品メーカーである。化学合成添加物を使用しない『グリーンマーク』、長期熟成にこだわった『さわやか信州軽井沢』という2大ブランドを持ち、全国各地のスーパーマーケットや専門店で商品を展開している。2016年9月に同社代表取締役社長に就任した宮坂正晴氏が目指す、2大ブランドに並ぶ「第3のブランド」創造に向けた信州ハムの取り組みを紹介したい。

宮坂 正晴(みやさか まさはる)/長野県千曲市出身。1975年、立命館大学産業社会学部卒業。同年、信州ハム株式会社に入社。96年に第二販売部長、2008年に取締役営業本部長を経て、常務取締役営業本部長、専務取締役事業本部長を歴任し、2016年9月、同社代表取締役社長に就任。

こだわり抜いてつくられた2大ブランド

―御社の事業内容についてお教えください。

宮坂 正晴:
弊社は、ハム・ソーセージの製造販売に特化した食肉加工品メーカーです。そのほか総菜の販売も行っておりますが、売上の90%以上をハム・ソーセージで占めています。主力は『グリーンマーク』シリーズと『さわやか信州軽井沢』シリーズです。特に『グリーンマーク』シリーズは1975年に発売されてから40年以上が経過しておりますが、現在でも看板商品としてトップの売上比率となっております。このブランドは、発色剤、着色料、保存料、リン酸塩といった化学合成添加物を一切使用しておりません。また、『さわやか信州軽井沢』シリーズは、本場ドイツから受け継いだ製法と長期熟成による深い旨みや豊かな風味が特徴です。約35年前に開発されたこのブランドも、長らくご愛顧頂いているロングセラー商品です。

―『グリーンマーク』シリーズが誕生したきっかけをお聞かせ頂けますか?

宮坂 正晴:
ハムやソーセージは、発色を良くしたり保存期間を延ばしたりするため、それらの添加物を使用することが現在でも一般的です。そんな中、40年以上も前にこういった商品を開発するに至ったきっかけは、お客様からのご要望に応えるためでした。
「着色料や保存料などの添加物を使わないハム・ソーセージを作ってくれないか」と、ある消費者団体の方からオファーが入ったのです。前例のない開発でしたので、商品が完成するまで、かなり悪戦苦闘したと聞いています。

2015年に世界保健機関(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)が、加工肉と癌発生の関係に関する調査結果を発表した際には、ハムやソーセージ業界の売上が2割ほど落ち込んでしまいました。しかし、弊社のこのブランドは、その状況に反してむしろ売上が伸び、現在でも2桁の伸び率を維持しています。健康や食の安心安全に対する意識は今後も下がることはないと思いますので、『グリーンマーク』シリーズには、これから更に力を入れていきたいと考えております。

100年企業に向け、唯一無二の存在へ

―今後の展望についてお話し頂けますか?

宮坂 正晴:
弊社は来期(2017年7月~2018年6月)が創業70周年の年になりますが、次の節目である100周年に向けて、「無くてはならない」唯一無二の企業として弊社を成長させていきたいと考えております。「あってよかった」というご評価では足りません。ハム・ソーセージの業界は数多くの企業がひしめき合っています。その中で生き残っていくためには、いかにお客様に必要とされるかが勝負になりますので、弊社独自のブランドを更にブラッシュアップさせると共に、今後弊社を引っ張っていく人材の育成に注力していくつもりです。

弊社は、今期が中期5ヵ年計画の3年目に当たります。将来、輸入物のハム・ソーセージが国内市場を席捲する可能性を鑑みて、『グリーンマーク』と『さわやか信州軽井沢』の2大ブランドを更に強化していこうと計画を策定しました。化学合成添加物を含まない『グリーンマーク』のような商品は賞味期限が短いため、輸出入には不向きですし、「軽井沢」というブランド力は信州ならではの特権です。これらのブランドを更に強化させ、売上構成比率に占める割合を50%に引き上げることを中期5ヵ年計画の骨子としておりました。3年目の現在、既に48%超まで達成しておりますので、おそらく1年前倒しで、70周年記念となる来期には目標を達成できるでしょう。70周年という節目は、100年企業に向け、事業を更に進化させるための礎を築く上で、重要なポイントになると考えております。

失敗を恐れず挑戦を続けていく

―現在の2大ブランドに加え、新しいブランドを作るご予定はございますか?

宮坂 正晴:
経営基盤をより強固にするためにも、「3本目の矢」となる新ブランドを、70周年に合わせて打ち出すべく動いている最中です。3つ目のブランドコンセプトは、弊社の社名にもあります「信州」を基軸にするつもりです。長野県には、他県にはない魅力がたくさん詰まっています。空気や水も美味しいですし、名産品も数多くあります。行政も地域に根差した商品開発や地域振興をバックアップしておりますし、そうした機関と連携を取りつつ、「信州」というブランドを再構築できるような商品を生み出したいと考えております。

信州ハムの2大ブランドのひとつ『グリーンマーク』。

―新ブランドをヒットさせるためには、お客様の声をどのように商品開発に反映させたら良いのでしょうか?

宮坂 正晴:
商品開発において、お客様からの声はもちろん重要な材料になります。弊社は食育活動に参画しておりまして、例えば幼稚園で調理教室を開き、園児や保護者の方向けに弊社商品を使ったサンドイッチの作り方などを講習しております。また、上田市にも食育を行うNPOがございますので、そういった組織と連携してハムの作り方や添加物の説明、ウインナーの手作り体験なども行っております。このようなイベントも、お客様の声を直接聞くことができる貴重な場です。また、最近ではインスタグラムなどのSNSを活用し、弊社商品を使ったレシピなどを配信していますので、そこでの反響も参考になります。

しかし、開発した商品がヒットするかどうかは、検証をしないとわからないということがあります。実際、それまでスライスして販売していた弊社のベーコンを、とあるスーパーが塊のまま1000円で販売したところ、大ヒットしたという例もあります。当時298円以上では売れないだろうというのが通説でしたので、バイヤーも予想外の結果に驚いていました。このように、まさかと思う商品がいきなり売上を伸ばすこともあれば、その逆もあり得ます。ヒット商品に繋がるニーズは、小さな不満や要望として、お客様の中で曖昧な状態のまま眠っていることが多いのではないかと思います。いくつか選択肢を提示されて初めて、お客様自身も深層に眠るニーズに合致するかどうかの判断をすることができるのです。ですので、直接的、間接的に届いたお客様の声や反応を分析し、仮説を立てて商品を開発した後は、失敗を恐れず実践的な挑戦を続けていく必要があると考えております。

高い目的意識を持つ人材を育てるために

―ビジネスパーソンとして優秀な人には、どのような共通点があるとお考えでしょうか?

宮坂 正晴:
高い目的意識を持っているかどうかだと思います。モチベーションを上げるためには、3つの条件が必要だと言われます。1つ目は、何のためにこの仕事をしているのかという、「目的」を認識することです。2つ目は、その仕事をすることで、社会や会社にとってどんなメリットがあるのか、いわゆる「貢献」を認識することです。最後は、その貢献に対する会社からの「評価」です。これらの要素が揃うことで、モチベーションを保つことができ、高いパフォーマンスを発揮することができるのです。そうした目的意識は会社側が提供するべきことなのかもしれませんが、自らそれらを意識することができる人が、優秀な人物だと思いますね。


―仮に、入社当初から高いパフォーマンスを発揮できなかったとしても、そうした目的をしっかりと認識していくことで、優秀な人材に育つことができると思われますか?

宮坂 正晴:
例え始めはうまくできなかったとしても、高い目的意識を持ち続けることで優秀な人材へと成長していくことができると思いますし、会社側もそうした人材に育てるべく、教育に力を入れています。そもそも教育というのは、最初から無理だと結論づけるのではなく、時間と根気をかけて行っていくことが肝要です。採用したからには、いかに会社に貢献できる人材に育てるかというのも、会社の使命のひとつだと考えています。来年入社の新入社員たちは、弊社が100周年を迎える頃には50代の社員として、まさに事業運営の中心的な存在になっているでしょう。彼らを育てることは、会社の未来を育てるということにほかなりません。そのためには、じっくりと時間と根気をかけて教育していくことが大事だと思いますね。

編集後記

信州ハム株式会社のように、全国に営業網を持ちつつも地域に拠点を置く企業は、東京一極集中を緩和し、地域活性化を促進する上で非常に重要なポジションを担っていると言っても過言ではない。今後の信州地域をより一層元気にしていくためにも、100年企業に向けた同社のますますの発展に期待したい。