※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

製菓業界は相次ぐ価格高騰や新型コロナウイルスの蔓延により、大きなダメージを受けている。

砂糖の小売価格は値上がりが続き、土産やインバウンド需要が低下した影響で、国内菓子メーカーの2019年の売上高は、2010年以降で初めて減少し、前年比0.8%に相当する349億円のマイナスに転じた(※)。
※帝国データバンク 国内菓子メーカー487社の経営実態調査より

そんな中、2年後に創業100周年を迎えるのが株式会社 扇雀飴本舗(せんじゃくあめほんぽ)だ。

歌舞伎役者の中村扇雀氏に因み社名の由来にもなった「扇雀飴」をはじめ、「ジュースキャンデー」や「はちみつ100%のキャンデー」など、次々とヒット商品を生み出している。

昨年、父親である先代から経営のバトンを受け継いだ米田英生氏は、「社員からも不安の声が出るなか、就任と同時に商品の値上げを断行したのは大きな試みでした」と語る。

これまで培った技術や知見を大切にしながら、時代に合わせた挑戦を続けている米田社長の思いを聞いた。

創業100年のキャンディメーカー社長に就任

--社長になられてから1年が経ちましたが、就任当時はどのようなことに苦労されたのでしょうか。

米田英生:
2022年4月に社長に就任したのですが、菓子業界ではこれまで経験したことがない原料の値上がりが続いていて、自社の商品についても値上げをするかどうかすぐに判断を下す必要がありました。

ここまで大きな値上げはここ20年実施していなかったので、社内にも経験した人がいなかったんです。 そのため社員からは商品を取り扱ってもらえなくなるのではないか、消費者も離れてしまうのではないかと、不安の声が非常に強くありました。

結局は値上げに踏み切ったのですが、食品業界に飛び込んだばかりのタイミングで重大な決断をしなければならなかったのは大変でしたね。この会社に入るまでは三菱商事で石油を扱うという全く畑違いの仕事をしていましたから。

就任直後から度重なる課題に直面

--値上げに至るまでの経緯を教えて下さい。

米田英生:
まず背景として、砂糖や水あめなどの原料価格が高騰した後、包装資材の値上がりがありました。さらにじわじわ経費を圧迫してきたのがガス・電気料金の値上がりでした。

また、コロナ禍で消費者は、お菓子を自分自身の為に食べる動きも出てきており、大容量よりも適正な量が好まれ始めていました。そのような環境で、商品特性毎に、価格を抑えながら量目を減らすべきか、量目を維持しながら値上げすべきかを決め、また、すべての商品を一度に変更するとリスクが高いので、段階的に実行することにしました。

第一弾の値上げが浸透しそうな頃を見計らって、当社の看板商品である「はちみつ100%のキャンデー」の上代価格(メーカーが小売店に対して設定する価格)の値上げに踏み切りました。

一方で、同じ時期に、ロシア・ウクライナの情勢不安が起こり、原材料であるはちみつの主要原産国であるウクライナからの輸入が厳しくなったことで、原材料の産地を切り替える必要も出てきました。

原材料の産地の切り替えは何とかなったものの、キャンディの在庫量を調整したり、値上げに際してJANコード(商品情報を設定したバーコード)の変更をしたりと対応に追われました。

過去の過ちから学ぶ

--社長就任直後からいろいろな困難に直面されたのですね。

米田英生:
そんな中、「はちみつ100%のキャンデー(小袋タイプ)」において、パッケージ表記と原産国の異なるはちみつを使用したキャンディを充填し、出荷してしまうトラブルを起こしてしまいました。

出荷から10日程で事態に気付き、すぐに回収してホームページに謝罪文を掲載したのですが、その後行政機関から厳しい指導を受け、会社全体で商品自体やチェック体制の見直しを行いました。

このとき自分たちの過ちを正直に公表し、最後まできちんと対応したことで、「真摯に自分たちの仕事に向き合わなければならない」と社員の意識も変わっていったのではないかと思います。

扇雀飴本舗の強み

--貴社の強みについてお聞かせいただけますでしょうか。

米田英生:
創業当時は「兎印ドロップ」を発売していましたが、その後は中村扇雀(四代目坂田藤十郎)さんが命名された「扇雀飴」がヒットし、次に「ジュースキャンデー」や「ラブランド」、「はちみつ100%のキャンデー」が看板商品となりました。 「はちみつ100%のキャンデー」に関しては、1990年代に入り健康への関心が高まってきた中、当社の開発部隊の担当者が、はちみつに関する展示施設を見学した時に、「はちみつを固めるアイデア」を着想し、製造化に動き出し、丸3年かけて純粋はちみつのみを原材料にした「はちみつ100%のキャンデー」の製品化に成功したと聞いています。実は先日、当時の開発担当者に来社して頂き、全社員の前で開発経緯を説明してもらいました。 時代の流れを念頭におきつつも、当社の強みである「こだわり」のアイデンティティをいかに継承していくのかが非常に重要な事だと考えています。

現在では「幸せにくきゅうグミ」等のグミにもチャレンジしています。

時代に応じて商品を変えながらクオリティには徹底してこだわる、この柔軟性とまじめさを両立しているのが当社の強みだと思っています。

また、私たちの品質基準厳守を徹底し、決して手を抜かない姿勢は、同業者の方々からも評価いただいています。姫路工場では、2001年に国際規格である『ISO9002』の認証を取得し、更に現在では『FSSC22000』の認証を取得しています。

老舗メーカーでの若手社員の活躍

--貴社は老舗メーカーでありながら、若い社員の方々もご活躍されていますね。

米田英生:
私が三菱商事に勤務していた頃の話ですが、若手にプレゼンをやらせてみたところ、なるほどなと思わず納得させられる提案や、私たちでは思いつかない発想がたくさん出てきたんです。

若手社員は経験が少ない分、普段は至らない部分が目につきやすいのですが、切り口を変えてみたらそれぞれ素晴らしいポテンシャルを持っているのだなと強く感じました。

扇雀飴本舗へ入社後、九州営業所の若手社員と会話した際「コロナ禍で出張する機会もなくなり、他のエリアの人たちがどういう活動をしているのか全然分かりません」という話を聞いたんですね。

そこで若手社員が一丸となって本領を発揮できる場がないかと考え、思いついたのが商品の企画から販売、認知活動を一貫で行う若手のみのチームを作ることでした。

全国の営業部門と設計部門から主に20代の社員17名を2チームに分けて商品作りを行う、SYG(センジャクヤングジェネレーション)プロジェクトを発足しました。

このプロジェクトは若手が活躍する場を作るという以外にも、もうひとつの側面として営業部門と設計部門が、それぞれの部門の垣根を越え、横断的な組織をつくる試みでもありました。

今年の4月に「#Candy」と「你好桃飴」という2商品の発売が実現し、現在はインスタグラムやツイッターで情報発信するなど、認知活動に力を入れているところです。

私からは売上はともかく、自分たちが納得できるまでやり遂げてほしいと伝えています。

中間管理職による若手支援

--若手社員を起用するにあたってサポート体制はどのようになさっているのでしょうか。

米田英生:
若手のサポート体制も強化しているところでして、当社ではMM(ミドルマネジメント)と呼んでいるのですが、30代から40代の社員に若手社員の世話役を担ってもらっています。

この年代の社員はいずれ部署や部門のリーダーとして会社を背負っていく人たちなので、彼らにもいろいろな経験を積んでもらいたい。ですから、若者の価値観を取り入れつつ、サポートする中間管理職の更なる育成にも注力しています。

MM社員には、若手に対して上から指示するのではなく、あくまでもアドバイスに留め、若手社員たちが自主的に考えて行動できる状態を整えてほしいと伝えています。

「海ゴミゼロ活動」の取り組みについて

--貴社で行われている新たな取り組みなどはありますでしょうか。

米田英生:
今年から、地域や海周辺の清掃活動をする「海ごみゼロ活動」を開始しました。

これは日本財団の「海と日本PROJECT」と連携して開発した「海のソーダCANDY」がきっかけとなって始まりました。

というのも「海のソーダCANDY」は元々商品の売上の一部をプロジェクトに寄付することにしていたものの、それだけでいいのかという思いがありました。

そこで開発担当に話したところ、社会貢献の一環としてゴミ拾い活動をしたいという案が出たため、まずは本社周辺のゴミ拾いを実施しました。
更により範囲を広め、6月には姫路工場近くの白浜海岸で清掃活動をしようと、若手社員が中心となり声がけを行い、会社全体で海岸の清掃活動を実施しました。

あくまでもボランティアとして参加するのが前提だったので、実際どのくらいの社員が集まってくれるのかなと思ったのですが、蓋を開けてみると全国の社員とそのご家族も合わせて60人くらいが参加してくれました。

この清掃活動を通じて今までほとんど接点がなかった工場勤務の社員と営業が、互いにコミュニケーションを図る機会も創出できたので、会社としてもメリットとなりましたね。

海の保全活動への貢献と社員の結束力を高めるため、今後もこの活動を続けて行きたいと思っています。

食品業界における戦略的ブランディング

--貴社のこれからの課題についてお聞かせいただけますでしょうか。

米田英生:
はちみつ100%のキャンデーは多くの方に知っていただいていますが、扇雀飴本舗という社名はあまり認知されていないことが課題としてあります。 多くの取り扱い商品の購買層は年齢層が高く、また、リピーターの方々に支えられています。
過去はテレビCMも放映した事もありますが、これからは、SNSを活用しながら、改めて若い方々への認知活動に注力していきたいと思っています。また、認知に繋がるイベント活動も積極的に行います。最近ですと、2023年8~9月にはロフトのグミウィークにも参加しましたし、11月頭には、姫路工場のおひざ元で開催される「姫路菓子まつり 2023」にも初めて参加する予定です。

「はちみつ100%のキャンデー」には普遍的な価値があるため時代が変わっても廃れない、非常に強い商材ですから、 健康意識への高まりを追い風にはちみつ100%のキャンデーのような自然素材を使った商品開発を行い、若年層の方々にも受け入れられるような商品作りをしていきたいと思います。

当社は、ジュースキャンデーで培った果汁感あるキャンディを作ることには自信があります。「これまでの知見を活かしながら「桃アソートキャンディ」などフルーツの美味しさが楽しめるアソートシリーズ等、新しい商品の開発を行っています。

その他、今後は海外進出にも力を入れていくための取り組みも始めています。

日本の人口は今後減り続けると予想されているので、インバウンド需要はありますが海外にも目を向けて行かなければいけないと思っています。

キャンディは賞味期限が長いので輸出商材に適していることもあり、数十年前から輸出は行ってきたものの、国によって輸入の規制基準が異なるという課題がありました。

現在は輸出先の国ごとに合う配合の商品を作り、輸出対応できるようにして来ています。

現地で私たちの商品を買っていただいたり、日本で食べてみて自国に帰られてから購入していただいたりと、海外の方にも楽しんでいただければと思っています。


--100周年に向けてのお考えについてお聞かせください。

米田英生:
部門やエリアを横断したプロジェクトというのは非常に効力があると感じたので、組織横断でリーダーを選出し、経営会議で課題を抽出するという取り組みを今年から開始しました。

これまでリーダーがトップダウンで動いてきた組織なので、若手社員も戸惑いがあったり、マネジメント側も上手くサポートしきれなかったりする部分も出てくるかと思いますが、次の世代を育てて強い会社にして行きたいなと考えています。

また、最近、開発部隊と営業部隊に海外出身の方に入社して頂きました。前述の海外向け強化の一環ではありましたが、会話をしていると色々と発見がありますし、全く違う目線での意見もありました。このように人材の多様化を進め、各個人にもっと能力を発揮してもらえるようにしたいですね。

編集後記

若手社員も活躍できるチャンスを積極的に作り、中間管理職層への教育にも力を入れている米田社長。「誰にも得意不得意があるので、それぞれの個性を認めて良いところを伸ばすことが大切だと思っています」と語る。

原材料や包装資材、光熱費の価格高騰、日本の人口減少など、お菓子メーカーにとって厳しい状況が続いている。そんななかでも、新商品の開発や海外進出に挑戦し続ける株式会社 扇雀飴本舗から目が離せない。

米田 英生(よねだ・ひでお)/一橋大学商学部経営学科卒業後、1993年三菱商事ジャカルタ駐在事務所、同石油製品部精製・リテール事業チームリーダーを経て、2021年扇雀飴本舗専務取締役経営室長兼海外本部長に就任、2022年4月代表取締役社長に就任。会社の「こだわり商材」と同じく「こだわり」をモットーに明るく楽しくポジティブに活動中。