※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

製菓業界において、社員の幸せをなにより重視しながら事業展開を行う企業がある。愛知県に本社を構える共親製菓は、「私達は幸せになります」というシンプルで力強い理念を掲げ、社員一人ひとりの声にしっかり耳を傾け、着実な成長を遂げてきた。

同社の特徴は、社員から寄せられるアイデアを積極的に取り入れ、生産性の向上と職場環境の改善を両立させている点にある。年間200件以上のアイデア提案は、単なる業務改善にとどまらず、社員の働きがいや自己実現にもつながっているという。他社からの工場見学の依頼が多く寄せられ、注目を集める同社の取り組みについて、代表取締役社長の安部隆博氏にお話をうかがった。

人間力を磨いた修業時代

ーーいつごろから家業を継ぐことを考えていましたか?

安部隆博:
本格的に家業を継ぐことを意識し始めたのは、大学生のころからですね。就職活動の時期に、改めて真剣に考えるようになりました。しかし、すぐに入社するのではなく、まずは別の会社で経験を積もうと思い、海老せんべいをつくっている会社に就職し3年ほど働きました。

その会社を選んだのは、お菓子の製造技術だけでなく、人間力を高める教育に力を入れていたからです。有名な経営者の影響を受けた経営を実践する会社で、学べることが多いと考えました。

特に印象に残っているのは、年齢や立場の異なる社員全員で一つのイベントを行ったり、トイレ掃除の研修を行ったりしたことです。トイレ掃除研修では、公園など町中のトイレを掃除しました。最初は抵抗がありましたが、その経験から細かいところに気づく力が養われ、仕事に活かせるスキルを身につけることができました。

アイデアを原動力に進化する製造ライン

ーー貴社の主力製品と事業概要について教えてください。

安部隆博:
弊社は主にお菓子の製造を行っています。長年愛されている「さくらんぼ餅」や「きびだんご」を中心に、近年では熱中症対策をサポートするためのゼリーなど、幅広い製品を展開しています。特に力を入れているのが、社員のアイデアを活かした製品開発です。たとえば、コロナ禍では巣ごもり需要に対応した商品や、ゲームセンター向けの景品など、既存の技術を活かしながら新しい市場に挑戦してきました。

ーー社員の方からアイデアを出してもらうためにどのような取り組みをしていますか?

安部隆博:
「アイデア提案制度」といって、社員が自由に改善案やアイデアを提案できる仕組みをつくりました。現在は年間200件以上のアイデアが出されています。提案1件につき100円の報奨金を出し、月間で3件以上出した人には1,000円、5件以上で1,500円、ナイスアイデアには3,000円といった具合にインセンティブも設けています。

さらに、年間で特に優れたアイデアには「ベリーナイスアイデア賞」を設けて表彰しています。過去には、製造過程で年間350キロも落下していた材料を減らすアイデアを採用しました。また釜から餅生地を出す工程で、以前は大きなシャモジのような道具を使い生地がくっついてしまい負担も大きく時間がかかっていた作業を、生地がくっつかない素材で鍬(くわ)にような形状のオリジナルの道具に改良したことで、作業が楽になり時間も早く生産性も上げることができました。

ーー貴社のそうした工場運営について、他社からの評価はいかがでしょうか?

安部隆博:
ありがたいことに、最近では他社からの工場見学の依頼が増えています。静岡から見学にいらっしゃるなど、私たちのアイデア提案制度の成果を見たいという要望が多いですね。見学会では、各部署のグループに分かれて、社員自身が説明する機会を設けています。これは社員のモチベーション向上にもつながっていますし、他社の方々と交流してアドバイスをいただく貴重な機会にもなっています。

他社から成功例として評価していただくことで、自分たちの取り組みの価値を再確認できるのです。同時に、訪問される方々の視点から新たな気づきを得られることも少なくありません。今後も、オープンな姿勢で他社との交流を続け、互いに高め合える関係を築いていきたいと考えています。

社員の思いやりが導く、持続可能な企業成長

ーー今後の事業展開についてお聞かせください。

安部隆博:
現在、新工場の建設を進めており、生産能力の拡大を図っています。これにより、既存製品の生産量を増やすとともに、新商品の開発にも注力していく予定です。また、DXにも取り組んでおり、AI技術を活用した検品システムの導入や、帳票のデジタル化を進めていこうと考えています。この取り組みによってさらなる効率化と品質向上が実現できるでしょう。

同時に、社員の働きやすさにも配慮しています。新工場には、おしゃれで快適な食堂や休憩室を設ける予定です。社員が心地よく過ごせる環境を整えることで、より良いアイデアが生まれ、会社全体の成長につながると考えています。

ーー貴社が求める人材像について教えてください。

安部隆博:
弊社が求めているのは、行動力のある人材です。アイデア提案制度を通じて、自ら気づいて行動できる人が成長しやすい環境があります。常に改善意識を持ち、自分の仕事だけでなく、会社全体をより良くしていこうという姿勢を持った方がいいですね。

また、アイデア提案制度では、他の人の作業を楽にするような「思いやり」の提案が多いので、チームワークを重視できる方は弊社の文化にフィットすると思いますよ。私たちの理念に共感し、一緒に成長していける仲間を待っています。(※)

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編集後記

安部氏の「社員の幸せ」を中心に据えた経営姿勢がとても印象的だった。アイデア提案制度を通じて、社員一人ひとりが仲間を大切にし、会社の成長に貢献している様子が伝わってきた。企業理念でもある「幸せになる」という言葉には、強い信念と温かさが感じられる。今後、この理念がどのように実を結び、さらなる発展につながっていくのか、注目していきたい。

安部隆博/1985年、愛知県生まれ。大学卒業後、碧南市にある海老せんべいの会社で3年間就業。その後、共親製菓株式会社に入社。入社後は5S活動に力を入れ安全で働きやすく生産性の高い職場づくりに注力したほか、ナイスアイデア提案表彰制度など独自の制度を導入し、さまざまな新製品を企画販売。2024年に代表取締役社長に就任。企業理念にもある「幸せ」につながることを常に考え日々活動している。