
京都の地で昭和23年に創業し、77年にわたり「地元のパン屋さん」として愛されてきた株式会社志津屋。看板商品「カルネ」を筆頭に、安全でおいしいパンをつくり続けてきた老舗企業だ。2024年に代表取締役に就任した堀二三男社長は、地域密着を軸にしつつ、新たな挑戦と改革を進めている。堀社長の目指す志津屋の姿とはどのようなものなのか、自身の経歴や、パンづくりへのこだわり、経営の将来展望などを聞いた。
自ら厳しい環境に身を置いた修業時代。社長就任を機に社風の変革を進める
ーー堀社長の経歴をお聞かせください。
堀二三男:
志津屋は家業ですが、大学卒業後は、まずは外の世界で修業しようと考えて介護や医療サービスを手掛ける株式会社ソラストに入社しました。そこで社会人としての基礎を学び、その後、パンづくりの修業のために、横浜発祥のブランドとして有名な「ポンパドウル」を運営している株式会社ポンパドウルへ転職しました。
ポンパドウルでの厳しい修業期間のことは今でも忘れません。朝5時から仕込みが始まり、ときには深夜まで働くこともありました。その中で、オーナー夫人に言われた「美味しいのは当たり前。安心・安全も当たり前。その上で、感動を届けなければ次のお客様にはつながらない」という言葉が今も胸に刻まれています。
その経験を経て、腕に自信をつけて志津屋に戻ったものの、それでも先輩たちには及ばず、正直ショックを受けました。販売の現場でも先輩方の気遣いや技術に圧倒される日々が続き、改めて製造から販売、外商までを幅広く経験してスキルアップに励みました。
ーー今まで、どのような業務改善に取り組みましたか?
堀二三男:
長年続いてきた会社の体質改善に取り組みました。中でも注力したのが、パンの仕込み時間についてです。改善前は、パンの仕込みを朝にまとめて行っていたため、夕方には在庫がなくなってしまうことがあり、お客様にご不便をおかけすることがありました。私は、これは会社の努力で解決すべき課題だと考え、社員の出勤時間をずらすことで、日に複数回パンを補充できる体制を確立しました。
やはり、商売をするうえで一番に考えるべきはお客様です。今も、お客様にどうしたらおいしいパンを届けられるかを考え、改善を続けています。
ーー社長に就任された際の心境や、会社への思いを教えてください。
堀二三男:
私は2024年に社長に就任したばかりですが、就任直後に決意したのは「現場で働く社員たちの声を大切にしたい」ということです。社員たちが「創業家」に対して無意識に抱いている遠慮を取り払い、意見を言いやすい社風へ変えたいと思いました。
社長交代というタイミングは、社風を変えていく絶好の機会です。これからは社員一人ひとりの声に耳を傾け、意見交換が活発な風通しの良い組織へと変革していくことが、私の役割だと考えています。
京都市内に集中した店舗展開で、地域の生活に溶け込む

ーー志津屋の魅力はどんなところにあるのでしょうか?
堀二三男:
志津屋の魅力は、何といっても「地元に根付いたパン屋」であることです。弊社は京都で生まれ育ったパン屋として、地域の方々に愛され続けることを第一に考えています。そのため、店舗の場所も京都市内に集中させており、現在、20店舗以上を展開しています。
これまで多くのパンをお届けしてきましたが、中でも看板商品である「カルネ」は、多くのこだわりが詰まっています。これは、ドイツに視察へ行ったときに運命の出会いを果たした「カイザーロール」というパンをベースに、玉ねぎやハムを挟んだサンドイッチです。
サンドイッチに玉ねぎを挟んでいるのを珍しいと思う方も多いと思います。じつは、玉ねぎはカルネ一番のこだわりポイントとなっており、挟むか否かを決める際に開発担当者たちの間で論争が起こるほどでした。
ただ、玉ねぎはその傷みやすさから扱いが難しいことで知られています。そこで弊社では、使用前に都度雑菌を取る処理を施していました。しかし、夏になると、それでも菌が繁殖してしまうものも出てきます。そこで弊社は食品メーカーと協力して、長時間傷みにくいたまねぎを開発し、この問題に対応しました。
地元のお客様に安心して美味しいパンを届けるためならば、弊社は努力を惜しみません。これからも皆様の生活と共にあるために、改善を続けていきたいと思っています。
社員たちが輝ける会社を実現し、ブランドのさらなる強化を狙う

ーー今後の注力テーマと将来の展望をお聞かせください。
堀二三男:
今後は、現場の声を積極的に取り入れ、社員たちが先頭に立って次世代を築いていける経営を実現していきたいです。京都という地に根付いたパン屋としての強みを活かし、地元のお客様とともに歩む商品づくりを続けていきます。
利便性と地元密着の両立を実現するために、駅ナカや商業施設といった人流が多い場所への出店も進めており、京都市交通局の公募を勝ち抜いて烏丸御池(からすまおいけ)駅や五条駅などへの出店も実現しました。また、来たる人材不足に対応するために採用にも力を入れ、社員たちが健やかに働ける環境づくりも進めていきます。
そして、5年後、10年後には、皆様に繰り返し買っていただき、売上をきちんと維持できるようにブランドを強固なものにしていきたいです。社員ひとり一人が自主性を持って業務に向き合える、自立した企業を目指していきます。
編集後記
志津屋のおいしさと安心・安全を守り続ける姿勢や、利便性を考慮した出店計画などからは、地域の方と共に生きる責任感がひしひしと感じられる。改善の意識が強い堀社長の就任により、この信念はより強固になったのではないだろうか。新たなリーダーのもと、志津屋が京都を代表するパン屋さんとして知名度を高める日は、そう遠くないだろう。

堀二三男/京都産業大学卒業後、株式会社ソラストで社会経験を積んだ後、株式会社ポンパドウルでパンづくりの修行に励み、その後、志津屋に入社。製造・販売・外商を経て2024年に代表取締役に就任した。