※本ページ内の情報は2023年9月時点のものです。

急速な少子高齢化によって、労働力となる生産年齢人口(15~64歳)も減少している。

総務省によると、生産年齢人口は1995年をピークに減少を続け、2021年から2050年までには29.2%減少すると予測しており、労働力の不足が課題だ。
※内閣府「令和4年版高齢社会白書」参照

各企業においても、人材不足の懸念から人材育成に注力し、生産性を維持する必要がある。

しかし、日本の大手企業では、多くの従業員を育成するための最適な学習環境が課題となっている。

株式会社ライトワークスでは、法人向け学習のプラットフォームであるLMS(学習管理システム)分野において、各企業の様々な要望に対応できる柔軟さを強みとする「CAREERSHIP®」を提供している。導入した企業の97%が継続利用しており、直近で新規導入した企業の70%は、他社LMSからの乗り換えだ。

関連会社である株式会社ライトエデュケーションでは、家族で楽しく学べるオンライン英会話「クラウティEnglish」も展開している。
人材育成だけに留まらず、学びの楽しさも提供している江口社長にその想いを伺った。

アメリカでの出会いと交流から起業を決意

ーー大学卒業後に農林水産省と株式会社グロービスを経て、36歳で起業されましたが、起業したいと思われたきっかけは、いつ頃だったのでしょうか?

江口 夏郎:
アメリカに留学した際に、ビジネススクールに通っていました。ビジネススクールには、世界中から優秀な人たちが集まってきていたのですが、彼らはみんな起業したいと考えていたんです。

また、大学にはインキュベーションセンター(起業家を支援する施設)も設置されており、そこでは、みんなが新しい事を試してみようと話し合ったり取り組んだりしていたのです。

そのような人たちと交流していくうちに、私自身も面白そうだと感じ、いつか私も起業したいと考えるようになりました。

ーー貴社はeラーニングから事業を始めましたが、もともとその構想はあったのでしょうか。

江口 夏郎:
起業当時はインターネット普及初期であり、いろいろなことができそうだと思っていたんです。そこでネット上で学べるコンテンツがあると面白いだろうと思い、事業を始めようと決めました。ただ、経営プランや戦略などを立ててから事業を始めたわけではありませんでした。

最初は、ネット上で学習できる教育コンテンツを中心に事業を展開していましたが、その中で、いろいろな顧客から教育コンテンツだけでなく学習用のシステム開発の注文や要望を受けるようになりました。システム開発・提供をおこなっているうちに、ノウハウや技術が蓄積され、2010年頃にはシステム開発に強みがある会社になっていました。

現在は新しい技術者の方もどんどん入ってきています。

日本の大手企業が求めている人材育成サービスを提供

ーー人事向けにさまざまな人材育成サービスを展開している同業者が多い中で、貴社は顧客の半数以上が大手企業ですが、選ばれているポイントについてお聞かせください。

江口 夏郎:
日本の大手企業は、従業員数が多いため、システムとしてはセキュリティの高さがないと厳しいのです。

短期間で作ったシステムだとなかなか対応できないのですが、弊社は多くの実績を重ねてきたため、システム開発面以外にセキュリティにおいても強みがあります。

また、日本企業の組織と人事制度にあったものを提供しているため、日本の大手企業に導入していただけているかと思います。反対に、外資系企業への導入障壁は高いのが現状ですね。

誠実な対応で大手企業との取引を構築

ーー大手企業との最初のお取引経緯は、どういったものだったのでしょうか?

江口 夏郎:
創業当時は、もともとお付き合いのあった大手企業にコンタクトを取っていましたね。

当時は、会社が大手企業に対応できる組織になっていなかったため、なかなかうまくいかないこともありました。例えば、問い合わせシステムにおいてトラブルが生じたこともあります。

しかし、トラブルが発生した際にも、誠実な対応を心がけました。とくに大手企業だと、担当者の方は、上司に都度、状況を報告しなければなりませんよね。ですので、トラブルがなかなか解消されない場合においては、これまでの経過や今後の見通しなどの詳細をきちんと説明して対応していました。

そのような誠実な対応を継続していると、大手企業は企業同士でよく情報交換をされていますので「ライトワークスのサービスは使い勝手が良い」との評判を聞いて、弊社に声をかけていただく企業が増えていきました。現在では、おかげさまで多くの企業様から評判をいただいており、お問い合わせも増えています。

従業員数が連結150名の中小企業である弊社だと、「大手企業とどうやって取引ができたのですか?」とよく聞かれます。しかし、大手企業だからといって身構える必要はないと思っています。大手企業であってもビジネスで悩んでる人たちに、声を出せば届くんだという考え方が必要だと思います。

顧客のニーズに応える難しさ

ーー企業の困りごとや、時流に沿ったサービスなどを展開されていらっしゃる貴社ですが、eラーニングを推進するうえでのハードルはどのようなところなのでしょうか。

江口 夏郎:
例えば今、リスキリング(新しい業務に移行するためのスキル習得)の取り組みが注目されているかと思いますが、一筋縄ではいかないだろうな、と感じています。

2004年くらいに、弊社でも教育コンテンツのサブスクリプションモデルを開始し、自律的に勉強できる環境を整えるお手伝いをしたことがあったんですけど、当時の状況においては、あまり上手くいきませんでした。

やはり今の働く人は、忙しい。夫婦共働きだと、家事や育児の時間も必要です。なかなか勉強の時間を確保するのが難しいんですよね。今の仕事に直結するものは勉強しますが、それ以外のプラスアルファの勉強だと、やりたくても忙しくてできないのが現状です。

アメリカでは、雇用の流動性が高いため、今後のキャリアに不安を感じる人は、再就職がしやすいように、自らスキルを身につけようとしています。

一方で日本は、安定した長期雇用の状況で働けるという良い側面があるがゆえに、無理して勉強の時間を作ろうとは思わない人が多いのです。日米の雇用状況の違いで、リスキリングは日本では簡単ではないだろうなと感じています。

顧客によって環境が異なるため、顧客の希望をそのまま聞いて、商品にしたからって良いものができるとは限りませんし、うまく推進されるとも言い切れません。どうすれば顧客のためになるのかという我々の信念もそこに入れていかないといけません。

幸せを作るためのサービスを構築したい

ーーそれでは、今後はどのようなサービスを展開していきたいとお考えでしょうか?

江口 夏郎:
例えば、スマートフォンやアプリなどを活用して、昔では考えられなかったようなエポックメーキングなサービスを提供したいと思っています。

また、もともと農水省時代から、日本にいる外国人労働者に関しては、さまざまな想いがあったので、外国人の方にも受け入れられるようなサービスを提供したいですね。

日本の特定の分野における外国人労働者の就業環境は、まだまだ改善する余地があります。日本における人手不足の問題解消のためにも、外国人の方に日本にたくさん来てもらわなければいけない時代なので、外国人労働者の方々の力になりたいですね。

もちろん、外国人だけに限らず、国籍・年齢・業種を問わず「幸せな人たち」を作るようなサポートがしたいとも考えています。その中でも、学ぶということはすごく重要なポイントだと考えています。

自分のスキルや、知識、専門性などを持ち、あるいはそれを持とうと努力している人は、苦労しながらでも、楽しみながら働いています。そして、そのような方々は、年齢を問わず、歳を重ねても幸せそうに見えます。

楽しく学びながら疑問が浮かぶような教育を

ーーBtoCビジネスでもあるグループ会社「株式会社ライトエデュケーション」の今後の展望をお聞かせいただけないでしょうか。

江口 夏郎:
「学ぶをもっと楽しく」を提供したいですね。

学校の先生や教材を作る人は、学生の頃から成績優秀で、勉強ができない子たちの気持ちが理解しにくいのではないのかと感じています。ですから、学び手に対して教材や授業がつまらないと感じさせてしまう。これを何とかしたいですね。

例えば、同社では、オンライン英会話に、ゲームを積極的に採用しています。例えば、外国人の先生と画面上でビンゴゲームや神経衰弱などカードゲームをやるんです。ゲームに熱中していると、相手の外国人の先生に必死に伝えようとして、自然に英語が出てくるのです。

このサービスを提供してから最初にいただいたユーザーからのご意見の中に、貴重なエピソードがありました。ユーザーであるお子さんのお母様から「ゲームで3回連続先生に負けて悔しいと泣いている、もう少し手加減してもらえませんか?」という連絡をいただきました。先生方も一生懸命やって、お子さんも真剣に泣くぐらい取り組むというのは、悪いことではないという想いがあり、ある意味嬉しくなりました。なので、こういった入り口をいろんな形で用意できればと思っています。

現在提供しているラインナップの評判も良いため、やはり楽しく学べる場を提供するっていうのはとても大切だと思っています。今後もそのような視点を忘れないようにしたいですね。

また、ただ答えを出すだけの学びではなく、学ぶ人が「なんで?」と問うことが大切だとも思っています。ゲームをきっかけに、「なんで?」と問いかけながら楽しめるような教育環境を用意したいと思っています。

若者へ伝えたい江口社長からのメッセージ

ーー最後に、読者でもある就活生やビジネスパーソンへ江口社長からのメッセージをいただきたく存じます。

江口 夏郎:
若い人たちにも、社会にどう貢献するかということを、もっと考えてもらうと良いかなと思います。

プロとして仕事をするときには、自分のスキルと能力を使って何らかの社会貢献をすることになります。
例えば、面白い雑誌を作って読んで楽しんでもらうというのも、社会に貢献していると思います。また、社会問題に切り込んだ記事を作ることもできるでしょう。

弊社では、プラットフォームとコンテンツで社会貢献し、場合によっては社会問題を解決することもできます。

ですから、ご自身が何に向いているかなど悩みすぎず、まずは世の中に貢献できることが何かを考えると良いでしょう。

仕事上、目標に追われることが多い若い方もいらっしゃるかと思いますけど、「この目標を達成したらどうなるのか」あるいは「達成することでどんな学びがあり、どんな未来に繋がっていくのか」などの視点から考え続けてみると良いかもしれません。

ご自身の仕事が社会にどう役立っているのか、考えてもらうのが良いと思います。私はこのような考え方で働き続けていますね。

編集後記

アメリカ留学で起業を決断した江口社長。
経営戦略を決めてからではなく、世の中に貢献できるeラーニングのコンテンツを作成したことから始まった事業だが、顧客の要望に誠実に対応していく中で、大手企業からも多くの信頼を勝ち取っている。
企業の人材育成だけに留まらず、外国人向けサービスの展開も志し、エポックメーキングなサービスを生み出そうとしている株式会社ライトワークスの今後の展開にも期待したい。

江口 夏郎(えぐち・なつお)/1965年5月2日生まれ。東京大学卒業後、イェール大学ビジネススクール(MBA)を修了。1991年農林水産省に入省。株式会社グロービスで執行役員を務めた後に、2001年に株式会社ライトワークスの起業に参画。eラーニングのコンテンツ販売を開始する。2002年にライトワークスの代表取締役に就任。