※本ページ内の情報は2023年9月時点のものです。

2015年12月にフランスで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて「パリ協定」が採択され、世界全体で温室効果ガス削減に向けた目標が定められた。環境問題への関心が高まり、企業は脱炭素社会に向けて舵切りを求められている。

そのようななかで、SDGsやカーボンニュートラル、持続可能な社会などの言葉が注目される以前から、トラックの排気ガスを問題視していた企業がある。大阪に本社をおく株式会社エコトラックは、環境保全に貢献する低公害車(天然ガス自動車・LNGトラックなど)のみで配送を行う、全国唯一の会社だ。

代表取締役社長・池田雅信氏は「排ガスの問題は国だけが取り組むものではなく、むしろ運送会社が中心になって取り組むべき問題だ」と熱く語る。「エコカーで儲けた会社ではなく、エコカーを広めた会社でありたい」と話す池田社長に、エコカー普及にかける思いを聞いた。

娘のアトピーがきっかけで株式会社エコトラックを創業

――エコトラックを創業したきっかけとは何でしょうか?

池田雅信:
娘がアトピー性皮膚炎で、環境にやさしい低公害車の普及の役に立ちたいと考えたのがきっかけです。地元の市民祭りで天然ガス自動車を偶然見かけ、初めてその存在を知り、クリーンな排ガス性能に惹かれて購入しました。実際に走行してみると、煙が本当にきれいで驚きました。やかんでお湯を沸かしているようなレベルです。同業者にこの素晴らしさを伝えたのですが、「環境問題に配慮して経営が成り立つのか」と疑問視されてしまいました。まだまだ環境問題への関心は低く、当時はCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議、1997年)が開催された翌年です。京都議定書が採択され、先進国の温室効果ガスの削減目標が決められましたが、僕は排ガスというものは国に言われて取り組むものではなく、企業が主体的に取り組むべき問題だと考えています。しかも目の前に環境にやさしい車があるのに、使わないのはおかしい。まずは自分たちが率先して、エコカーを普及する活動をしようと、妻とともに決意しました。

――現在でこそSDGsの流れもあり、環境負荷の低い車が評価されていますが、当時は導入にあたって苦労されたのではないでしょうか。

池田雅信:
1999年頃の日本では天然ガス車の普及は進んでおらず、燃費が悪いイメージが先行していました。1回の充填で100km程度の走行だと言われていましたが、実際に走ってみたら400kmは走れたので、当時のディーゼル車とほぼ変わらない燃費でした。有害物質を抑えられるエコカーに入れ替えていきたかったのですが、エコカーの先行きは不透明で、天然ガス車がすぐに消える可能性も否定できませんでしたので、会社の全てのトラックをエコカーにチェンジするのは非常にリスクが高い状況でした。そこで会社のお金ではなく私個人のお金を使って、新しい事業として株式会社エコトラックを立ち上げ、エコカーだけの会社が成り立つことを実証しようと考えました。そうすれば同業者や荷主からも信頼が得られるのではと思ったのです。

もちろん、環境に良いというだけでは荷主は使ってくれません。荷主にとっては環境よりもコストが重要です。環境に良いものなら高くても使ってもらえると考えている企業があるのなら、それは僕に言わせたら甘えでしかない。事務所で座って「仕事がない」とぼやいていては何もできません。僕はエコカー普及のために、飛び込み営業でも何でもしてきました。人の何倍もの営業努力を重ねてきたのです。創業して25年になりますけど、一度も売上が前年を下回ったことはありません。急成長もないけど、確実に積み上げてここまできました。

――軌道に乗ったと感じたのはいつ頃でしょうか。

池田雅信:
当初は3年生き残れたらよいという程度に考えていたのですが、東京都知事がディーゼル車の規制に動いたこともあり、予想よりも早く時代の流れに乗れたような気はします。
エコカーの普及は行政主導で動いていましたが、行政職員は補助金の説明中心となるため、僕が講演や説明会に行くこともありました。実際の走行距離や燃費、車体の購入費用などリアルな話をすることで、一般の運送会社でも導入を検討していただけるようになります。
現在でも国交省や環境省、運輸局の主催するセミナーに呼ばれて講演を行っています。

LNGトラックを導入し、常に業界の最先端を行く

――貴社はエコカーの第一人者として常に最先端を行かれています。液化天然ガス(LNG)を燃料とする大型トラックを導入されたと伺いました。

池田雅信:
2023年現在、液化天然ガス(LNG)を燃料とするトラックを自社で購入して導入したのは弊社だけです。くわえて、国内ではLNGを充填できるスタンドは大阪に1箇所あるだけ。そのスタンドは採算がとれず閉鎖する手前でしたので、弊社がトラックを購入してスタンドを支える思いで導入しました。トラックの価格は1台3500万円で、2台目も2023年の秋に入荷する予定です。
もしスタンドが閉鎖したら、トラックは走行できず7000万円の赤字になります。「何の勝算があってLNGトラックを購入したのですか」と聞かれることもありますけど、誰かが購入しないとエコスタンドは成り立たちませんから。世の中に広めるための投資と覚悟して、使命感を持っています。
これまでに販売されたあらゆる種類のエコカーは実際に購入して試すようにしており、百台近く保有していますし、開発にも協力しています。

社会に役立っていれば、社会に生かしてもらえる

――今後の展望をお聞かせください。

池田雅信:
排ガスにおける環境問題に関しては「エコトラックが最も詳しい」と言ってもらえる企業でありたいですね。今後は脱酸素やカーボンニュートラルなどCO2削減に向けて、エコトラックのノウハウを求める企業が増えてくるでしょう。

世の中のためを思って仕事していたら、絶対に損はしません。困っていたら助けてもらえます。エコカーの普及は社会正義だと思っていますし、社会に役立っていたら、社会に生かしてもらえると思っています。もちろん、困らないための努力は惜しみませんし、これからも率先して走り回ります。

編集後記

決して裕福とはいえない家庭で育ったという池田社長は、若い頃から働きづめの生活だった。浪費はいっさいせず、今でも近場なら自転車で颯爽と出かけて行く。そんな社長の背中を見た若手社員たちが頼もしく成長している。最近では業務のほとんどは若手社員だけで行っているという。次世代がつくりあげる物流の未来に期待したい。

池田 雅信(いけだ・まさのぶ)/昭和37年大阪府門真市生まれ。昭和61年3月近畿大学卒業。同4月岡三証券株式会社入社、平成元年7月同退社。平成2年11月株式会社ネットワーク創業代表取締役に、平成11年3月有限会社エコトラックを設立代表取締役。平成14年8月株式会社エコトラックへ組織変更、平成26年1月代表取締役社長に就任。トラックにおける低公害車の普及をライフワークとする。