※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

年を追うごとに大きくなる人材問題。特に2024年問題が叫ばれる運送・物流業界は人手不足が深刻だ。大阪に本社を構える株式会社ビジネスジャパンエキスプレスの代表取締役である大野英樹氏は、この問題に対して徹底した効率化や製造業界との連携が必要だという。

「人」と「車」という実体があってこそ成り立つ運送・物流業界は、これからの時代をどう生き延びていくべきなのか。大野社長の考えをうかがった。

自分にできることに向き合い続け、運送業で独立する

ーー社長の経歴をお聞かせください。

大野英樹:
私のキャリアを学生時代までさかのぼると、当時はパティシエをして生活費を稼ぎながら、定時制高校に通う生活をしていました。よくパティシエをしていた理由を聞かれるのですが、自分で生きていくための手段がたまたまパティシエだっただけです。

高校卒業後はキャリアを変えて、佐川急便に入社。先輩から勧められるままに面接に行ったのですが、面接当日に現場を経験させられたことには驚きました。

その後、組織内の環境や方針が変わってきたタイミングで佐川急便を退職し、1988年に当時の同僚、井上勝彦(現井上専務)と運送業を始め、1990年に法人化して今に至ります。

大阪府を中心に「総合物流サービス」としてプラスアルファの価値を提供する

ーー貴社の事業内容を教えてください。

大野英樹:
大阪府を中心とした運送業・物流業の運営です。物流センターが大阪府に4ヵ所、兵庫県に1ヵ所あり、車両の台数は軽貨物車両から10トン車両まで合わせてグループ全体で約300台保有しています。

弊社は単に荷物を運ぶだけでなく、製造業と一体になった製造物流を実現する「総合物流サービス」であることを大事にしています。

製造業の効率化は物流分野からのアプローチが可能です。たとえば材料の納品や完成品の発送など、業務領域が交差する部分において、お互いの効率を考えた仕組みを構築することで、双方にメリットの大きい業務フローが行えます。

飲食業の無人オペレーションに見るように、人材の使い方は変革期を迎えています。しかし、人が絶対に必要な部門があるのも確かです。そのポジションを物流の領域からカバーしていくことが、総合物流サービスの使命だと考えます。

会社の宝である社員たちに報いることが自分の役割

ーー貴社独自の強みは何でしょうか。

大野英樹:
弊社最大の強みは、従業員の質が高いことです。自ら成長する自主性を持ちつつも協力の大切さをわかっているので、私が細かな指示を出さずとも事業が成り立ちます。

以前、倉庫が全焼する事故があったのですが、そのときに状況を立て直してくれたのも社員たちでした。勤務時間外にもかかわらず、ブルーの制服が黒く汚れるまで手伝ってくれた姿は今でも鮮明に覚えています。当時失意の中にいた私が立ち直れたのも、彼らの前向きな姿勢があったからこそです。

そんな社員たちに私ができることは、会社を「好きになれる会社」にすることくらいです。待遇面や環境面はもちろんですが、私生活で嫌なことがあっても、会社に来たら「なんとかなる」と思えるような、第2の居場所にしたいと思っています。

「仕組み」と「環境」の両面から働きやすさの改善に取り組む

ーー今、特に注力していることは何ですか?

大野英樹:
DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)を活用した事務作業の効率化に力を入れています。物流業界は2024年問題に代表されるように人材不足が深刻です。この問題を解決するには社員のパフォーマンスを最大化する必要があり、そのためには事務作業の圧縮が求められます。

その第一歩として銀行と連携し、請求書をスキャンするだけで自動でデータ取り込み、入力が完結する仕組みを構築しています。

また、社員が働きやすい環境づくりも注力するテーマの一つです。例として社内保育園を設置しているのですが、地域の方にも解放して地域貢献にもつなげています。

保育園は地域とのコミュニケーションの場にもなってくれています。以前は地域から「大きな車が出入りするので危ない」とのマイナスイメージを持たれていたのですが、コミュニケーションが生まれてからは「企業イメージを誤解していた」と言われるほどまでに地域の方との関係性が改善しました。

コミュニケーションの基本「あいさつ」はビジネスの根底を支えるもの

ーー今後注力したいテーマは何ですか?

大野英樹:
新規取引先の開拓と既存顧客に対する取引深耕はマストです。そのために基本的なコミュニケーションである「あいさつ」を切り口に、信頼構築に取り組んでいきます。

じつはこの業界は挨拶の文化が希薄なところがあります。いつの間にか荷物を置いて帰っていくことも実際ある話です。しかし、私はそれを良いと思いませんし、同時にチャンスを逃しているとも思っています。

日常的なコミュニケーションを通じて信頼を構築できれば、そこから自然と新しい仕事につながります。新たな顧客を紹介してくれることもあるでしょう。いくら効率化が重要とはいえ、結局仕事は人と人のつながりから生まれてきます。理解を深めてお互いが笑顔になれるような仕事こそが、本当に求められるものではないでしょうか。

変わりゆく物流業界に必要なのは、感謝と成長を忘れない「仲間」

ーー変化を続ける物流業界で、貴社ではどのような人材を求めていますか。

大野英樹:
挨拶ができて素直な人に来てほしいです。さらに「意欲が高い」人だとありがたいですね。

高い意欲はいわば成長を促進する素質のようなものです。意欲が高ければ自分から成長のチャンスを見つけられるので、業務の中で勝手に育っていきます。弊社の社員は自主性が高い方が多いので、社風ともかみ合うでしょう。

また、「会社と社員」ではなく「一緒に働く仲間」であってほしいと思っています。良いときは共に進み、悪いときは手をとり合って支えていく、そんな仲間がいてくれれば弊社は今後も変わらずあり続けられるはずです。

そして、ゆくゆくは運送・物流業界の価値観を変えるような人材に成長してほしいです。今は「物が届くのは当たり前」でも、いずれ常識が崩れるときが来るでしょう。そんなとき、顧客に感謝されつつ「お互い様」の関係を築けるような、そんな未来を実現してほしいと願っています。

編集後記

DXやAIなど、社会のシステム面が効率化されていくなか、どうしても人の手が欠かせない部分は出てくる。しかし、人と人とのつながりから、コミュニケーションが生まれ、新たな価値が生まれるのも確かだ。この「人の領域」をどう洗練させ、付加価値を与えていくのか。大野社長の「成すべきことを成す」スタイルこそ、これからの時代に尊ばれることではないだろうか。

大野英樹/1964年4月大阪市生まれ尼崎市育ち、パティシエをしながら定時制高校卒業後、佐川急便株式会社入社。1988年、ビジネスジャパンエキスプレスを創業。