※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

大阪府を本拠地とするランナープロデュース株式会社の江原尚志社長は、2024年問題やガソリン代の高騰など、運送業界が直面する厳しさのなか「日本の物流を支える企業としての責任がある」と突き進んでいる。人材育成や今後の運送業界の展望などについて伺った。

質を高める新人研修制度

ーー貴社は新人ドライバー研修などにこだわりがあると聞きました。詳しく教えてください。

江原 尚志:
具体的には指導する社員が助手席に付く「横乗り添乗」を複数回行い、添乗が終わった後に私が面談をするようにしています。

横乗り添乗で大切なのは指導する側の資質です。どれだけ人材が不足していても、新人ドライバーを中途半端な状態で外に出しては絶対ダメで、本当に大丈夫かを見極めるには指導する側がその能力を持っているかが重要であると考えています。

そのために、うちでは指導マニュアルや合格ラインも明確にしています。そして「本当に現場に出しても大丈夫」という状態で新人を送り出しています。

質の高いトラック運転手の採用

ーー採用についてはどのようにお考えでしょうか。

江原 尚志:
世間から運送会社に求められるハードルが高くなっているため、採用活動はとても重要です。

今は接客の質も求められるし、輸送品質も一定以上を保たなければなりません。積み方がまずかったら走っているうちに荷崩れして破損することもあります。また、お客様は「何時までに届けてほしい」と、納期にも非常にシビアです。

いくら優秀な人材を確保して育てても、ドライバーも人ですから途中で眠気がきて、休憩したもののそのまま寝過ごしたということもあるかもしれない。しかし、寝過ごすということはサービス品質そのものに関わることで絶対に許されません。面接ではお客さまとの約束を守るというモラルや、お客様とのコミュニケーション能力を求めています。

若者に感じる合理性の追求

ーー運送業界では人手不足だと言われていますが、その要因をどのようにお考えでしょうか。

江原 尚志:
ドライバーの仕事は私にとっては魅力的ですが、若い世代には魅力が伝わらないのかもしれません。若い世代の車離れはどんどん加速しているように思います。

なぜ車を持たないのかといえば、合理性の問題もあるのではないでしょうか。私のような昭和世代と、若い世代とのギャップのなかで大きいのが合理性です。昔はかっこいいから車に乗ったけど、今は電車で移動したほうが早いし便利ということになります。

車以外のことでも、最終目的に対して「ここは通らなあかん」という根拠のない遠回りを、私たちは良しとしてきた。お金を稼ぎたいという目標に対して、不本意でも稼げる仕事をがんばれとか根性で乗り切れとか言いながらやってきました。でも今はそういった合理性のないことは求められません。

「自分がやりたいことはこれだけ」で、そのために必要なことはこれだけだと、若い世代は当を得た選択をします。そんな若者に対して汗を流しながら働く運送業界を、どうアピールするかですね。

トラック運送業界の未来

ーーこれからトラック運送業界は大きく様変わりしていくと言われていますが、どのようにお考えでしょうか。

江原 尚志:
確かに、流通というのは大きく変わっていくでしょうね。トラックはそのうち全て電気で走るようになり、やがて自動運転になるでしょう。その先には、トラックで輸送することがなくなるかもしれません。

問題は10年後、20年後にドライバーはどうなっているのかわからないこと。その点を考えたうえで、人材育成をしていくことが、今後の課題になると思います。また、安定した仕事を提供できるよう、時代の流れを敏感に察知して、波にのって変わっていける柔軟性を持ちながら、販路の拡大、営業力の強化も会社がすべきことです。

2024年問題も悩ましいところではあります。当社は長距離運送が多いので、なかなか難しい。

運送業界から撤退するという手もありますが、大きな波が来たからと逃げてしまえば、当社の100台分の犠牲は誰がこうむるのか、誰がそれを負担するのか、という問題が出てきます。

会社というのは社会貢献をしています。運送業に携わり、国民の物資を流通させているわけですが、それを放棄していいのか。ガソリン代の値上げ問題も運送業にとってはとても重い話です。しかし、こんなときこそ、業界のネットワークを構築するなど、運送業界の経営者が懸命に考えなければなりません。逃げることは簡単ではありますが、立ち向かってこそ本当に強い組織が作れると思っています。

組織の中で人と人が向き合う重要性

ーー社長が社内コミュニケーションで大事にされていることを教えてください。

江原 尚志:
自分がしんどいとき、他人のことは二の次になりがちです。たとえば、仕事が忙しくて、部下から「すみません、ちょっと相談があるんです」と言われても、後回しにしてしまいがちじゃないですか。しかし、自分の仕事の手を止めて「わかった。聞こう」と時間を取ろうとするのが、やっぱり人と人のコミュニケーションで大切な、人に対する優しさじゃないでしょうか。

組織のことだから2人で考えたって、いい答えが出ないかもしれない。でも、一緒に考えることで 部下が心を開いてくれる可能性はあります。

後は言葉の大切さ。たとえば家でも、遅くに帰ってきて、妻に悩み事があるから相談したいと言われても、疲れて寝たいときもある。そのときに、「じゃあ、日曜日に出かけてゆっくり話をしよう」と答えるだけで随分違うでしょう。組織でも一言一言が大事で、上司と部下が互いに「ありがとう」「ごめんなさい」と言葉をかけあえたら、それだけで心は伝わっていくと思っています。

次世代とともに考え歩むこと

ーー若い世代へのメッセージをお願いします。

江原 尚志:
今の20代30代の世界は私たち世代にとっては、知らないことが多すぎます。世代を超えて心を分かち合おうと思うならば、上の世代から一方的にメッセージを出すよりも、 一緒に考えていくことが重要だと思っています。

年上から、若い世代に歩み寄る。若い世代にも「おっさんだけどしゃあない」って歩み寄ってもらって、一緒に考えていきたいですね。

編集後記

2024年問題やガソリン代の高騰だけではなく、トラックそのものの在り方まで、現在の運送業界は過渡期にあると言える。そのうえで、江原社長は逃げることなく、社会貢献をする企業としての使命を全うしたいと考えている。

日本の物流インフラを支えているという江原社長の思いを乗せ、ランナープロデュースのさらなる発展に期待したい。

江原 尚志(えはら・たかし)/20年間、佐川急便に在籍した後に独立。2008年にランナープロデュース株式会社を設立し、人材派遣業をスタートした。2013年より運送事業を展開し、5年間で50台を超えるほどに成長させ、2023年現在では、保有台数は110台以上となっている。