「MAKE A GOOD COMPANY さぁ、もっといい会社に。」を経営理念として掲げる株式会社三鷹倉庫。倉庫業や物流ソリューション業にとどまらず、製品の撮影を倉庫内で行う撮影スタジオ「STUDIO MITAKA LABO」や、BtoC時代のニーズに応える在庫管理システムの提供など、物流にまつわる幅広い事業に積極的に取り組んでいる。同社を率いる代表取締役社長の関武士氏に、事業の展望や経営者としての思いをうかがった。
売り上げの8割以上がなくなるという経営危機の時代に入社
ーー経営者となったきっかけ、経緯をお聞かせください。
関武士:
もともと経営者になろうと考えていたわけではありません。弊社は父が創業メンバーの会社であり、私が入社した当時は創業以来の経営危機に直面していたタイミングでした。
取引先のなかでもメインの会社がとあるブランド事業を撤退するということで、2年後には弊社の仕事がなくなる見込みとなったのです。当時の三鷹倉庫は、売上の8〜9割がそのメインの会社によるものであったため、経営的には大打撃です。弊社も倒産の可能性があるかもしれないということで、「厳しい状況だが一度、会社を見てみないか」と父から声をかけられたのが、会社を手伝うきっかけでした。
当時は、まずクライアント企業の出向社員という形で、現場について学びました。出向させていただいた企業では、三鷹倉庫に新たな商材を入れ、倉庫を安定稼動するための体制づくりを担当しました。クライアント企業さまにとってもメインブランドからの撤退に伴う商品の入れ替わりが激しい時期で、預かっていた倉庫の現場も混乱していたため、私が三鷹倉庫のセンター長として現場に戻り、指揮を執ることになりました。
ーー経営危機のタイミングの入社で、感じたことはありましたか?
関武士:
当時は、クライアントが1社に集中することのリスクを痛感しました。リスク分散のためにも、さまざまなお客さまから仕事をいただくことを考えるようになり、三鷹倉庫に戻ってからは営業回りに奔走しました。
コロナ禍では巣ごもり需要の拡大でEC販売が活発化しましたが、日本のECマーケットは世界的に見ても遅れています。さらに、少子高齢化によって、国内マーケットは今後、縮小していくでしょう。一方、中国や東南アジアのマーケットは今後、ますます大きくなると思うので、国際的な物流は減らないと考えています。
2年プロジェクトで人事制度を刷新。新規事業やブランディングにも注力
ーー社外の方に貴社の取り組みを知らせるために行っていることはありますか?
関武士:
自分たちが強みだと思っていないことでも、お客さまからは「ここがいい」とご支持いただいていることがたくさんあります。たとえば、弊社では人材育成や新規事業プロジェクトに対して、できるだけ多くの投資をしています。今まで手掛けてこなかったブランディングについても、次世代のリーダーたちを中心に考えてもらっています。
直近では、コンサルタントにも入ってもらいながら2年ほどかけて、人事制度を新たな形にブラッシュアップしています。他にも会社の設備などといった、会社の未来につながる先行投資にも取り組むようになりました。
そういう意味では、「この会社はまだ成長していく」とアピールでき、お客さまの安心感につながっていると思います。社内の体制づくりや設備投資、取り組みを知ってもらうための外部に対する広報活動は、弊社の姿勢を知っていただくことができるので、力を入れています。
プロジェクト方式のDXで生産性向上と社会貢献につなげる
ーー現場の生産品質の改善に対してはいかがでしょうか?
関武士:
現場の生産性を上げるということは、企業にとっての永遠のテーマです。弊社では省力化や自動化などのさまざまな取り組みをしていて、昨年からトヨタのかんばん方式(※)を実践する講師をお迎えしたプロジェクトを、1年かけて実施しています。
(※)かんばん方式:「必要なものを必要な時に必要なだけつくる」ことを目的とし、連続している工程間の仕掛在庫を最少にとどめるための仕組み
各物流センターから選抜メンバーを集め、今後は発展した形として、各センターでシステムにワーカーの作業履歴をリアルタイムで入れていきます。これが本格稼働すれば、各フロアのピッキングや検品などの進捗状況もモニターを見れば一目でわかります。
また、現場の状況をタイムリーに把握できれば、作業が遅れているセクションに人員配置をするなどの調整がスムーズになります。現場の業務改善をDXによって進めることで、生産性もかなり向上するはずです。
ーー今後の展望として、考えていることがあれば、お聞かせください。
関武士:
弊社では20代、30代の社員が多く活躍しています。若手の努力を評価するためにも、評価の基準を見える化しています。細やかで、評価される側に対して納得感のある説明ができ、公平なものとなるように評価制度を整えることで、「不公平感」をなくし、社員のやる気につなげています。
まだ構想段階ではありますが、純利益の一定の割合を社会貢献費用として予算化し、活動内容をレポート化することを考えています。これからの時代、企業は社会や地域から必要とされるような会社を目指さなければいけないと思っています。
また、教育にも引き続き、力を入れていくつもりです。現場の最前線で働いてくれている従業員には、経営者の顔色をうかがうのではなく、お客さまを見てほしいと思っています。私の責任はしっかりと経営をして、社員を支援することにあります。その一環が人材教育です。社員の満足度を上げていけば、きっと経営にも社会にも好循環が生まれます。私はこれが一番大切なことだと考えています。
編集後記
さまざまな視点から経営変革に乗り出している関社長。ECビジネスの拡大に伴い、ますます複雑化している物流業界では、DXを進めることが経営の核となるだろう。関社長の設備投資や制度の枠組みと、業務効率化に関する変革を率先して進めている姿を見て、三鷹倉庫は今後の物流業を支える存在であり続けることを確信した。
関武士/1970年、大阪府生まれ。1993年、東海大学を卒業後、株式会社オリンピックスポーツに入社。1997年、三鷹倉庫に入社。2008年、取締役に就任。2019年、代表取締役社長に就任。