※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

製造業の物流現場において、サプライヤーからの部品管理、製造ラインへの供給、製品の在庫管理までをワンストップで提供する株式会社トーコン。大学教授と連携した独自の教育プログラムで人材を育成し、現場スタッフが自らITシステムを開発するなど、物流業界に新たな可能性を示している。

経済産業省「はばたく中小企業300社」にも選出された同社の取り組みについて、2023年に代表取締役社長に就任した櫻井瑞恒氏に話をうかがった。

機械工学からMBAまで 現場重視の経営者への道のり

ーー貴社に入社する前はどのようなご経験をされましたか?

櫻井瑞恒:
もともと車や飛行機といった乗り物が好きで、ものづくりに携わりたいという思いがありました。高校生のときはパイロットになりたいと考えていたのですが、父から「海外で英語をツールとして使いながら、好きなことを学んでみては」というアドバイスをもらい、アメリカの大学へ留学することを決めました。

大学受験の英語は得意ではありませんでしたが、コミュニケーションのツールとして楽しみながら、少しずつ話せるようになっていきました。結果的に大学院も含めて7年ほどアメリカで学び、その後、日系企業の米国支社でエンジニアとして3年半働き、約11年をアメリカで過ごしました。

ーーエンジニアからの転身を決めた理由をお聞かせください。

櫻井瑞恒:
アメリカの会社では、仕事とプライベートがはっきり分かれていて、チームとしての繋がりを感じづらい環境でした。一方で、高校生のときにアルバイトをしていた弊社では、会長が社員を自宅に招いてバーベキューを開くなど、みんなが一体感を持って楽しそうに働いている印象が強く残っていたのです。

そこで、トーコンに入社しようと考えましたが、国際的な視野を更に広げるため、大学院でMBAを取得してから帰国し、トーコンに入社しました。理系出身人材が社内に少ない中、その知識は今の経営にも活きています。また、幹部メンバーを含めて一体感があり、上下の壁が少ないという社風は、社長に就任する前から大切にしている特徴の一つです。

現場を知り尽くした独自の物流マネジメント

ーー貴社の事業内容について教えてください。

櫻井瑞恒:
弊社は顧客企業の工場や倉庫内で物流を運営する事業を展開しています。たとえば、製造業のお客さまであれば、サプライヤーから入ってくる部品の管理から、製造ラインへの供給、できあがった製品の在庫管理まで、一貫して請け負っています。机や椅子のレンタル会社の倉庫運営なども手がけており、管理から現場の実務まで全て行える点が特徴です。

現場に直接入るからこそ、データでは把握できないお客さまが抱えている課題などもより深く理解することができます。そのため、システムや設備の改善提案、プロセスの見直しなども、外部のコンサルタントよりも実践的な解決策を提供できるのです。

ーー他社との違いについてお聞かせください。

櫻井瑞恒:
一番の違いは社員です。仲間のため、お客様のため、社会のための「幸せづくり」に向かって一丸となっている社員の現場力が最大の強みになっています。

お客さまの既存システムと現場のニーズにはギャップがあることが多く、それを埋めるために独自のデジタル化を進めています。特徴的なのは、社内のITチームメンバーがもともと現場で働いていた社員だということです。Excel作業の改善などを提案してくれる社員の中からITの才能がある人材を見出し、育成してきました。

現在では大学教授による指導も受けながら、インダストリアル・エンジニアリングという生産工学の知識も現場の社員に教育しています。こうした取り組みによって、現場のことを最もよく知る社員が、自らより高いレベルで継続的に課題解決できる体制を整えています。

社員の可能性を引き出す、未来志向の組織づくり

ーー組織づくりについては、どのようにお考えですか?

櫻井瑞恒:
「楽ではなくても楽しい会社を目指したい」というのが私の考えです。どんな仕事でも楽なことばかりではありませんが、チームの雰囲気が良く、みんなと一緒に頑張りたいと思える職場であってほしいと考えています。また、社員一人ひとりが自分の成長を実感でき、周りから認められる喜びを感じられることも大切です。チームの中でともに成長していける方に来ていただけたら嬉しいですね。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

櫻井瑞恒:
未来を見据えて、必要とされる人材の育成に力を入れていきたいと考えています。デジタル化や設備のさらなる充実により、社員が働きやすい環境を整えると同時に、お客さまへの提供価値も高めていきたいです。

また、環境面ではフォークリフトの電動化を進めており、地域貢献活動として農業支援にも取り組み始めました。実際に手を動かして行動することで、社員の地域貢献への意識も高まっていくことでしょう。このような活動を通じて、社内の一体感を高めながら、社会貢献も実現していければと考えています。

編集後記

物流業界で60年以上の実績を持ちながら、新たな価値創造に挑戦し続ける同社の姿に感銘を受けた。特筆すべきは「人」を軸とした経営哲学だ。社内で勉強会を開いたり、大学教授を招いたりと、社員の可能性を最大限に引き出す仕組みが、随所に散りばめられている。「楽ではなくても楽しい会社」という言葉に込められた思いは、櫻井社長の生き生きとした表情からも伝わってきた。

櫻井瑞恒/1983年神奈川県生まれ、米国大学・大学院卒。アメリカの大手日系企業でエンジニアとして3年半就業を経て株式会社トーコンに入社。2023年に同社代表取締役社長に就任。デジタル化を含めた新たな価値づくりにも注力している。