日本は少子高齢化にともない生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少が予測されており、労働力不足が深刻な問題だ。
そんな中、全国の官公庁・自治体・外郭団体の入札情報を一括検索・管理できる「NJSS」や、会社・事務所にかかってきた電話の一次取次を代行する「fondesk」など、独自のビジネスモデルであるCGS(Crowd Generated Service)事業で 複数のSaaS を展開しているのが、株式会社うるるだ。
同社ではCGS事業の他、DX、電子化、BPR、SaaSの裏側など、人力を活用しソリューションを提供するBPO事業、仕事を依頼したい企業と在宅ワーカーをつなぐプラットフォーム「シュフティ」を運営するクラウドソーシング事業などを展開し、労働力不足の解決を目指している。
社内起業した会社「うるる」を自ら買い取り、在宅ワーカーを活用して日本の労働力不足の解決を目指す創業者の星知也氏の思いについてうかがった。
株式会社うるるを創業したきっかけ
--社内起業なさったきっかけについてお聞かせください。
星知也:
私が勤めていた会社で主婦向けの教材を販売する事業があったのですが、業績が芳しくなく、社長から立て直しを手伝ってくれないかと相談を受けました。
そこで私は購入教材で学んだパソコンスキルが活かせる「在宅ワークの仕事」をお客様に提供する仕組みを作りました。
それからデータ入力の仕事を企業から受注し、主婦の方々に再委託する事業を立ち上げ、2003年に社内起業しました。
しかし、それ以降も教材販売の事業は業績悪化が続き、1年半後に私たちの部署も閉鎖が決定しました。
ただ、データ入力のサービス自体は月に数百万の売上を出せていたので、この事業で会社を起業したいと社長に交渉しました。
すると「全員リストラする予定だったから、数人でも社員が仕事を続けられるのならそれに越したことない」と言っていただき、お互いの利害が一致したことでスムーズに話は進みました。
2006年にはMBOで会社を買い取り、株式会社うるるの創業にいたりました。
買収したときに借りた資金を2年後から3年かけて返済しなければいけなかったわけですが、そのときは自分たちならできると思っていましたし、リスクだとは思っていなかったですね。
--「うるる」という社名にはどういった思いが込められているのですか。
星知也:
私が21歳のときにワーキングホリデーでオーストラリアに行き、車で世界遺産などを巡っていたのですが、その中でもエアーズロックに登頂したときの感動が強く印象に残っていたからです。
エアーズロックはオーストラリアの先住民の言葉で「ウルル」と言い、オーストラリア大陸の真ん中にあることから「大地のへそ」と呼ばれ、彼らはウルルが地球の中心と考えていたそうです。
法人名を考えるときにこのことを思いだし、世界の中心となる企業を目指したい、エアーズロックに登頂したときに仲間と共有した感動を、仕事を通じて体験したいという思いを込めて名付けました。
※ウルル(Uluru)はアボリジナルによる呼び名(ピチャンチャチャラ語)で、イギリスの探検家によって名付けられたエアーズロック(英:Ayers Rock)も広く知られた名称です。
人力ではなくホームページを営業ツールに
--創業なさってからはどのように事業を広げてきたのでしょうか。
星知也:
マンションの一室を事務所にし、私を含め4人でスタートしました。
人員が少なかったので一人何役もこなしていましたが、その中でも市場で生き残っていくには売上を伸ばすための営業が生命線でした。
ただ、いざとなれば自分が営業をすれば何とかなるという自信があったので、私は営業活動もしていましたが、新規事業の創出なども行っていました。
--かつてお勤めになっていた会社では電話機の訪問販売をされていて、19歳という若さで次長になられたそうですね。
星知也:
その会社では社長と総務以外は全員営業だったので、昇給の仕組みもシンプルでした。
1カ月に何件以上売れたら主任、何件以上なら係長といったように営業成績に合わせて役職が上がっていきました。営業成績から結果的に最短で次長になりました。
商品を売れば売るだけ給料も上がっていき、周囲からも褒められましたが、次第に「お客様は私と出会わなかったら余計な出費をしなくて済んだのではないか」という思いに苛まれるようになっていきました。
また、訪問販売は門前払いをされることも多く、商品を売れない社員は会社を去るしかないなど、従業員に優しくないと感じていました。
そこで、うるるで働いている人には同じ思いをさせたくないと思い、自分たちの足を動かさずにサービスが売れる仕組みを作ろうと、ホームページの強化に力を入れました。
ホームページであれば24時間365日稼働できますし、営業マンが朝から晩まで電話をかけてアポイントを取らなくてもお客様の方からお問い合わせをいただけて、そこから受注につなげることができます。
在宅ワーカーを活用し労働力不足の解決へ
--貴社ではさまざまな事業を展開なさっていますが、主力事業は何にあたるのでしょうか。
星知也:
私たちは「労働力不足を解決し、人と企業を豊かに」をビジョンに掲げています。日本は少子高齢化にともない、生産年齢人口も減少傾向にあります。
生産年齢人口がピークを迎えた1995年は8,716万人だったものの、2050年には5,275万人にまで減少すると言われています(※)。
※令和4年版情報通信白書より
今の日本の平均年収は443万円(※)なので、生産年齢人口がピーク時と比べ3,441万人減少すると見込まれる2050年には、およそ152兆円分もの労働力が失われることが予想されます。
※令和3年分民間給与実態統計調査より
日本政府はこの損失を何かしらの形で代替させていくだろうと考えているので、私たちは労働力不足の解決につながるサービスをメイン事業として備えます。主力事業はCGSと呼ばれるうるる独自のビジネスモデルで、在宅ワーカーを活用したSaaS事業です。
祖業である「うるるBPO」の大量の業務ディレクションノウハウと「シュフティ」に登録する45万人以上の在宅ワーカーのチカラをかけ合わせ、生産性向上につながる複数のSaaSを生み出しています。在宅ワーカーの多くが主婦で構成されており、うるるが展開する事業は主婦のチカラが肝となっています。
主婦の中には子供が小さかったり家族の介護が必要だったりして、外に働きに出られない方もいらっしゃいますが、パソコンやスマホを使えば子育てや介護の合間に自宅で仕事ができるわけです。例えば入札情報速報サービス「NJSS」では、全国約8,300機関の入札・落札情報の収集において多くの主婦(在宅ワーカー)が活躍されています。
生み出したサービスで生産性を向上させながら、こうして今まで働きたくても働けなかった方々を活かすことで、労働力不足の解決につなげていこうと考えています。
さらに高齢者や障害をお持ちの方、外国人の方も活躍できる仕組みを作ったり、IT技術やAIなどのテクノロジーも活用したりして、労働力不足の解決に貢献できればと思っています。
世界に期待され応援される企業を目指す
--仕事を通してこれまで感動された出来事などはございますか。
星知也:
シュフティを利用していただいているワーカーさんから「病気を発症してからなかなか定職に就けなかったのですが、シュフティを通して働けるようになり、こんな私でも社会とつながれるんだと思いました」と喜びの声をいただいたことです。
こうしたお声をいただくと、私たちのサービスは世の中に必要とされ、ユーザーの方々にも満足していただいているのだと実感でき、とても嬉しいですね。
私たちは「世界に期待され応援される企業であれ」という理念を掲げていますが、「あの会社が潰れたら困る」「次はどんなサービスリリースするのだろう」と期待される存在になりたいと思っています。
--星社長が会社を経営するうえで大切になさっていることは何でしょうか。
星知也:
創業当時から会社のカルチャーを大切にしています。一緒に働く仲間との関係性や、働く環境です。
会社はホーム、社員はファミリーと捉えていて、全員が納得して働けるように会社経営に透明性を持つことを意識しています。
なぜ今これを頑張らなきゃいけないのか、なぜこの業務をやる必要があるのかを伝え、目指すゴールを示してあげないと努力のポイントを間違ってしまうでしょう。
給料をもらうために仕事をこなすような働き方はしてほしくないという思いがすごく強いので、従業員が直接経営陣に質問できる目安箱も設置して、意見が反映されやすい環境作りを徹底しています。
結局企業は人となりで出来上がるものなので、オープンな職場環境を維持することを徹底していますね。
編集後記
「仲間と共にミッションを成し遂げ、喜びを分かち合える組織を作りたい」という星社長の言葉からは、社員たちと一緒に会社を発展させたいという思いが伝わってくる。自社のサービスを通じ、労働力不足解決を目指す株式会社うるるに今後も注目だ。
星 知也(ほし・ともや)/1976年北海道札生まれ。高校卒業後、訪問販売業などを経て渡豪。帰国後、ブライダル業と教材販売業を手掛ける会社に入社し、2003年に「うるる」を社内創業。2006年MBOにて独立。2017年東証マザーズ新規上場。労働力不足問題に取り組み、生産性の向上と新しい労働力の活用を事業の軸とし、CGS(Crowd Generated Service)事業とBPO事業、クラウドソーシング事業を展開する。