CRM関連サービスの提供や、地域活性化や企業のDX推進のための支援を行っているシナジーマーケティング株式会社。かつてはヤフーグループに所属していたが、グループアウト後は独自路線で突き進んでいる。同社が目指す、デジタルマーケティングを通じて実現したい未来について話を聞いた。
セールスフォース・ドットコム、ヤフーとのパートナーシップ
ーー入社されてから 今日に至るまでの流れについて教えてください。
田代正雄:
営業として入社したのが2001年頃で、2017年に創業者であり前社長の谷井(等)が退任したタイミングで私が社長に就任いたしました。
会社自体は、以前はセールスフォース・ドットコムと資本業務提携をし、一緒にプロダクトを作りつつ、メール配信などデジタルマーケティング領域の役割を我々が担っていました。
ただ、2013年に彼らは、我々と似たようなビジネスをしているアメリカの上場会社を巨額で買収したんですね。そうなるとセールスフォースの中での我々の役割はなくなってしまったと判断し、袂を分かつことになったんです。
ーーその後、ヤフーグループに入ることになるんですね。
田代正雄:
弊社としても共に闘う相手はいないかと探していたときに、たまたまヤフーさんから声がかかったんです。
「日本の津々浦々にCRM革命を!」としばらくは一緒にやったわけですけど、ヤフーさん側の事情がどんどん変わってくる中で、我々の目論見自体を達成するのは難しくなったんですね。
当然ですが、自分たちだけではコントロールできない部分が大きく、悩ましくもあり、そんなときに谷井に買い戻しを打診し、結果として2019年にグループアウトすることになったんです。
コロナで不安に思った社員とのつながり
ーー就任後にもっとも苦労したエピソードがあればお聞かせください。
田代正雄:
やっぱりコロナですね。コロナ以前から、戻ってきた谷井のアドバイスもあり、オンラインでなるべく営業できるようにしていこうよと、準備はしてはいたんです。ですから、割と早い時期である2020年3月ぐらいには制度をつくって自宅で仕事ができる体制を整えていました。
ただ、私としては社員同士で顔を合わせなくなり、どんどん気持ちが離れていくのでは、という不安がありました。そこで、何か社員の心に寄り添うような事ができないかと思い、当時マスクがなかったので、何箱か手に入れて社員に配ろうと。
ただ、どこにももうそんなに大量には置いてないので、結局、1人当たり10枚ずつぐらいしか入手できず、袋に入れてメッセージを手書きして、全社員250人ぐらいに配りました。社員とつながっておきたいという思いがあったんですよね。
リモートワークと地域事業で多様な働き方を実現
ーーところで、IT業界は人材不足と言われて久しいですが、コロナ禍以降の状況はいかがでしょうか。
田代正雄:
人材の不足感については、依然、厳しい状況であることは事実ですね。
そのような中で、弊社としては、副社長の奥平が中心となって、入ってきやすい環境と働きやすい体制を整えるようにしています。リモートも含めて働き方を多様化させ、大阪、東京に住まなくても、いろんな場所で働けるようにというのを前提にしています。
re:connect事業(※)のように地域創生を行っているのも、多様な働き方を実現したい、という目的のためでもあります。大都市圏以外の地域では我々のノウハウを活用して生産性を上げていくことができる余地が多くあり、社員には、そのような事業を行っていく中で、住みながらそれぞれの地域に貢献していくことができれば理想だなと思っています。
(※) re:connect事業とは
グループ会社の中で可能性を見つけられる選択肢も作っておきたい
ーー貴社には一度退職されてから戻ってくる方もいらっしゃいますよね。
田代正雄:
谷井は買い戻しの際に「グループとしていろんな会社を作っていきたい、それはひとえに社員のためだ」と。私はそこに強く共感しました。
例えば自分でやりたいことが出てきて、転職を検討している人がいたとします。別にこの会社が嫌でたまらないというわけではないが、今の会社には自分が求めている機会がなさそうだ、ということで現状であれば退職をさせてしまう。
このように何年間かがんばって、次のステージに行きたいと考えたとき、受け皿になるような多様な会社群ができていたら、なるべく自分達のグループの中で、未来に向かって進んでいってもらえる、そのような環境があると最高だよね、とよく話をしています。
また、それぞれの会社を独立させて成長させるためにも、きちんと経営ができる人を育てて輩出していかなければとも考えています。
新しいシステムを顧客と伴走しながら浸透させる
ーー貴社は伴走型のビジネスを続けていらっしゃいますよね。
田代正雄:
そうですね、人からは面倒なことをしていると言われますが(笑)。
弊社はSaaSというサービスを2000年からやってるわけですが、当時はそのようなモデルはよく知られていなかったんですね。そこで弊社がお客様に伴走し、サポートしながら一つひとつ成功事例をショーケースのように作っていったんです。そうやってお客様と一緒に見本を作り、結果を出しながら、今につなげてきたんですね。
最近ではDX BOOSTER(※)という、企業のDXを加速させるサービスにおいてもお客様に伴走してお手伝いをしています。大企業であればシステム担当者に対して専門スキル習得を促進したり、外から専門スタッフを採用したりできますが、中小企業だと「ちょっと詳しい」程度の人がやらざるを得ません。
だからこそ、我々がある一定期間、一緒になって伴走するんです。売って終わりにはしたくないですね。
(※) DX BOOSTERとは
今後のデジタルマーケティングで何が必要とされるのか
ーーこれからのデジタルマーケティングの世界で、貴社が進みたいと考える未来について教えてください。
田代正雄:
我々はビジョンとして「人と企業が、惹かれ合う世の中へ。」というものを掲げているのですが、人と企業が惹かれ合っている状態を、今後、デジタルマーケティングの世界では、すごく意識しないといけない気がするんですね。
企業として人に愛着を持ってもらうには、貢献しないといけないですね。その貢献って何かというと、良い製品・サービスを提供するというのもあるんですけど、それ以外にも企業として人の成長を応援し、未来を応援するスタイルを取り続ける必要があるわけです。
人は企業が自分を応援してくれたという事実があれば、じゃあその企業のお手伝いを自分ができる範囲でしてみようかな、という気持ちになるのではないでしょうか。宣伝とかプロモーションみたいな情報交換だけじゃなくて、そういうものを通じて人と企業が惹かれ合うという状態を、自治体なども巻き込み、企業と協力しながら作れるんじゃないかなと考えています。
ユーザーが本当に欲しい情報だけを手に入れられる世界
ーー今後、システム的な変化もあるとお考えでしょうか。
田代正雄:
ユーザー側が自分で企業からの必要な情報の取捨選択をするようになり、人と企業が対等になる世の中になると考えています。
まだまだ先の未来かもしれませんが、フィルターみたいなものがスマホのアプリについていて、自分の好き嫌いを選択することで、欲しい情報だけが届くようになるようなイメージですね。
今、受信側って進化していなくて、欲しくない情報も企業から届くんです。受信側は似たような情報が大量に届いて、うっとうしいなあって感じていますよ。それが自分で選べるようになっていく。
企業側からすると、受信側からの“イエス“に選ばれるための努力をしないといけない。情報をピタッと合わせるだけじゃなくて、先ほど述べたような、お互いに応援し、共感し合えるような発信が必要です。それがうまくいけば人と企業が惹かれ合うようになるのではないでしょうか。
編集後記
デジタルの力で人と企業が惹かれ合う世界、人と企業が応援し合える未来を切り拓きたいと話す田代社長。企業が人を応援することで、相互の良好な関係が築けるというのは、コロナ禍においても社員を思いメッセージと共にマスクを贈った社長の姿勢にも現れている。田代社長とシナジーマーケティングが創る未来に期待したい。
田代正雄(たしろ・まさお)/1995年関西学院大学卒業後、コスモ石油株式会社に入社。2001年インデックスデジタル株式会社(現シナジーマーケティング)に入社し取締役営業部長やCOOを歴任。米セールスフォースとの資本業務提携などアライアンスを牽引し2017年代表取締役社長就任(現任)。「Create Synergy with FAN」をミッションに掲げ、次の時代に必要とされるデジタルマーケティングを推進する。