日本の基幹産業である製造業は、少子高齢化による人材不足や技術継承など多くの課題を抱えている。
そんな中、図面管理・案件管理・見積書発行ができるオールインワンシステム「匠フォース」を提供し、製造業をサポートしているのが、匠技研工業株式会社だ。
同社はデータを活用して適正価格を割り出せるようにし、これまで製造業の経営者を悩ませてきた値決めに関する問題を解決してきた。
ソフトウェアやテクノロジーを駆使し、日本の製造業の発展を支援する創業者の前田将太氏の思いを聞いた。
起業したきっかけと見積システムを開発した経緯
ーー会社を起業された経緯についてお聞かせください。
前田将太:
私は東京大学の法学部を卒業後、大学院に進み、法学政治学研究科で弁護士を目指すため勉強に励んでいました。
当時は東京大学がベンチャー企業やスタートアップ企業の起業家育成、いわゆるアントレプレナーシップ教育に力を入れ始めたタイミングで、OBの起業家が登壇する講義が行われていました。
たまたまラクロス部の仲間とアントレプレナーシップ教育の講義を受講した際に、初めて社会の課題解決に貢献しているスタートアップ企業やベンチャー企業の存在を知ったのです。
起業家の方々に対する憧れの感情も芽生え、その講義が起業したいと思ったきっかけでしたね。
ーー起業されてからはどのような事業を行っていたのですか。
前田将太:
創業当初はプログラミング教室を開いてみたり、本郷周辺の飲食店のモバイルオーダーサービスを提供したりしたものの、果たしてこれが社会の課題解決になっているのかと疑問に思いました。
そこで一度すべての事業から撤退し、新事業をイチから考え直すことにしたのです。
新事業を立ち上げるにあたって、みなさんがどのような悩みを抱えているのか情報を集めるため、不動産会社や保険会社、運送会社などあらゆる業界の方にヒアリングを行いました。
その最中、製造業では苦肉の策で原価を圧縮しても、原材料費や人件費の高騰により、十分な利益を出せないという大きな課題を抱えていることがわかりました。
会社の利益が少ないので従業員を増やせない、設備投資ができないというデフレスパイラルに陥っており、見積や値決めに頭を悩ませているケースが非常に多かったのです。
そこで私たちが業界の課題解決を支援しようと、適正価格を算出できる製造業に特化した見積システム「匠フォース」の開発を始めました。
製造業の課題を解決するAI見積支援システムの開発
ーーシステムの構想を思い付いてからリリースするまでのエピソードをお聞かせください。
前田将太:
次の事業こそは、皆さんが本当に困っている根深い課題の解決に取り組みたいと思っていたため、システムを開発するにあたり100社以上の製造業にヒアリングをし、実際に現場作業を体験させていただいたこともありました。
とにかく現場に足を運び、目の前にいる一人ひとりのお客様と向き合うということを、今も強く意識していますね。
開発エンジニアにも、ただコードを書くのではなく、自ら現場に出向いて一次情報を取りに行ってもらい、お客様が求めているものをシステムに反映できるようにしています。
こうして現場に足しげく通い、一度完成したシステムを最初から作り直すなど試行錯誤もありながら、サービスの着想から1年半かけてリリースにいたりました。
ーー「匠フォース」をリリースされてから反響はいかがでしょうか。
前田将太:
ありがたいことに町工場から上場企業まで幅広いお客様にご利用いただいています。
説明書やマニュアルを読まなくても直感的に操作でき、追加費用なしで各社に応じたカスタマイズができることが、多くの企業様にお使いいただいている理由だと思います。
また、これまで゙数々の企業にて学ばせていただいた経験を活かし、システムをどのように活用すれば利益が出せるのかといったノウハウも提供しております。
このようにシステムを導入しただけで終わらず、お客様が目指している目標を実現できるよう伴走するサポート体制も整えています。
スピード感を持って行動することと、いつでも気軽に相談できる存在であることが、弊社の強みだと考えています。
ーー今年の1月に「株式会社LeadX」から「匠技研工業株式会社」に社名変更された理由は何でしょうか。
前田将太:
以前の社名は、いかにもITベンチャー企業らしいものでしたが、製造業に特化したソリューションを提供するにあたり、社名を変更することを決めました。
新社名には“匠の技術を研究し、工業の世界に貢献していきたい”という思いを込めています。
匠の技術を後世に残すための研究を惜しまず、ソフトウェアやテクノロジーを活用し、製造業を発展させていきたいと考えています。
「技研工業」という名称は、私が尊敬する本田宗一郎氏が創業した本田技研工業株式会社から拝借したものです。
本田宗一郎氏のように自分が思い描いたビジョンを追求し、困難からも逃げずに向き合っていきたいと思っています。
若手起業家が読者に伝えたいメッセージ
ーーこの記事を読まれている読者の方に向けてメッセージをお願いします。
前田将太:
20代の方々には志を高く持ってほしいと思っています。
私が日本のモノづくり産業を豊かにしようと思っているように、スタートアップ企業に限らず、大企業に勤めている方々も世の中を良くしていこうと日々努力されています。
こうした努力の積み重ねが世の中を前進させていくと思っているので、皆さんにも、自分が成し遂げたい目標に向かって突き進んでいってほしいですね。
編集後記
大学・大学院では法律について学び、弁護士になることを目指していたという前田社長。しかし、起業家育成の講義を受けたことがきっかけで、起業家になることを決意する。
匠フォースのクライアントが製作した看板が光るオフィスにて、社会の課題解決に貢献したいと語る姿からは、日本を良い方向に変えていきたいという強い思いが感じられる。AI見積支援システムを通じ、日本のモノづくりの継承に力を入れる匠技研工業株式会社の今後に注目だ。
前田 将太(まえだ・しょうた)/1996年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。東京大学運動会ラクロス部男子OB。東京大学大学院在学中に、匠技研工業(旧社名:LeadX)を創業。製造業界の経営者から話を聞くうちにモノづくりの奥深さに傾倒し、業界課題の解決に挑戦することを決意する。2022年9月に中小部品メーカー向けAI見積支援システム「匠フォース」をリリース。2023年9月に東京都の「DX ScrumTeamプロジェクト」に採択される。