オフィスレイアウトの提案や営繕工事、オフィス家具の販売など、建築を中心に人々のニーズに応える事業を展開してきた株式会社ニチネン。
同社が自作自演したスタイリッシュなライブオフィスには、社員の働きやすさを追求する代表取締役社長の服部哲史氏の思いが込められていた。
大手ゼネコン会社で培った経験をもとに会社を率いる服部社長に、離職率を下げるための取り組みや、働きやすさの追求にかける思いを聞いた。
大手ゼネコンを退職して経営者になった経緯
――貴社はお父様が前社長をされていたとのことですが、会社を継ぐ前はどういった仕事をされていたのでしょうか。
服部哲史:
私は当時ゼネコンに勤めていて、赴任先のベトナムでトンネル工事の現場仕事に携わっていました。会社を継ぐかどうかはしばらく迷いましたが、2008年に会社を退職してニチネンへ入社し、それから5年後の2013年に社長に就任しました。
――実際に会社を継がれてみて、最初にどういったことを感じましたか。
服部哲史:
まず感じたのが、風通しの悪さです。前社長の父や常務など年配の人たちが、「一を聞いて十を理解しろ」というスタンスで、つまり社員たちへの言葉が足りていなかったんですね。
ですので、私はまず年配社員と若手社員の間に入って、上の人が言いたいことをかみ砕いて説明し、社内の風通しが良くなるように改善しました。
既存顧客を大切にすることで商売の幅を広げる
――社長としてどのような意識を持って経営を続けてこられたのか、経営の軸や事業展開について詳しくお聞きしたいです。
服部哲史:
入社した2008年当時は、リーマンショックの影響でオフィス家具が全く売れない状況でした。ですので、商売の幅を広げるために、事業の軸をオフィス家具の販売から営繕工事に移していきました。
新規顧客の開拓についても考えましたが、弊社は既存のお客様を大切にすることを重視しています。ですので、新規顧客を増やすほうに舵を切るのではなく、既存のお客様と親交を深めるなかで、そこから商売の幅を広げていくことを意識しました。
ただ、やはり新規顧客もしっかりと獲得していきたいとは思っているため、最近は店舗内装の会社を合併買収し、仕事の幅が広がるような取り組みもしています。
離職率を下げるために行った社内改革
――服部社長は現在、離職率を下げるために社内改革に取り組まれていると伺いました。具体的にどのようなことをしているのか、教えていただけますか。
服部哲史:
1つは、社員が直行直帰しやすいように、外出先からGPS打刻できる仕組みを導入したことです。あとは、社内の連絡ツールにSkypeを取り入れました。Skypeで直行直帰の連絡をすることで、メンバー全員に気軽に出退勤の状況を共有できるようにしたかったからです。
そのほかに取り組んだことは、フレックスタイムの導入です。出社時間の朝9時には全員そろうようにしていますが、16時以降は自由に退社して問題ありません。
この取り組みによってプライベートを大切にしたい社員の気持ちも優先できるようになりましたし、何より社員たちのストレスも減り、コミュニケーションが円滑になりました。
――福利厚生でがん検診を義務付けるなど、服部社長は社員が充実して働ける環境づくりにかなり力を入れているように思います。そこには、どういった思いがあるのでしょうか。
服部哲史:
私1人では会社は成り立ちませんし、会社は社員がいてこそですから。社員が安心して働ける場所をつくる必要がありますし、若手社員が自分より上の社員を見て「自分もこういった姿を目指したい」と思ってもらえるような会社にしたいです。
また、弊社の仕事は長く働いてこそ能力が発揮できるので、地道にコツコツと続けられる人に選んでもらえるような会社を目指しています。
そのためには、居心地の良い会社をつくらなければいけないですし、弊社がライブオフィスを導入したのも、社員の働きやすい環境づくりの一環です。
コツコツと続けられる人に選んでもらえる会社を目指して
――「コツコツと続けられる人に選んでもらえる会社になりたい」とのことですが、今後どのような人材が会社に必要だとお考えですか。
服部哲史:
営業に関していえば、口が上手でたくさん売れる人よりも、地道にお客様のところへ通ってしっかりと価値を与えられる人に来てもらいたいですね。今までは営業力の高い中途をメインに探していましたが、今は新卒から丁寧に育てていくことも前向きに考えています。
――これまでの社内改革を通して、新卒や若手社員が働きやすい環境がすでにできあがっているのではないでしょうか。
服部哲史:
今まで弊社ではそれぞれの社員の仕事が明確に分かれていて、助け合う文化があまりありませんでした。それを改善するために、個人ではなくチーム制にして、全員で協力していくスタンスに変えました。
チーム制にしたことで、たとえばお客様のところに行くまでの車内で、社員同士の会話が深まるようになりました。今までより社員同士がフランクに話せる機会がかなり増えましたし、とても良い循環が生まれていると思います。
編集後記
取材の最後に服部社長は「人と関わりたい方、建設や内装に興味がある方は弊社にぴったりなので、興味がある人はぜひニチネンに飛び込んでほしい」と笑顔で語った。
「会社は社員がいてこそ」という価値観のもと、建築を中心に多彩な事業を展開してきた株式会社ニチネンのさらなる躍進が楽しみだ。
服部哲史(はっとり・てつじ)/1973年大阪府生まれ。大阪市立大学工学部土木工学科卒業。株式会社大林組に入社し、主にシールドトンネル技術者として10年間務め、ベトナムホーチミン市の現場を最後に退職。株式会社ニチネンに入社し、2013年に同社代表取締役に就任。ゼネコンで培った建設業を中心に事業の多角化を図る。