
協和界面科学株式会社は1947年に文京区本郷で創業された。現在、接触角計をはじめとした理科学機器の製品製造からサービスへシフトする目標をかかげ、界面の受託測定などを手掛けている。世界でオンリーワンのサービス提供を目指す亀井社長に、界面科学の「いろは」からお話をうかがった。
界面科学と会社の成長の関係
ーーまずは、「界面科学」についてご紹介いただけますでしょうか。
亀井真帆:
界面科学とは、2つの物質の「境目」を扱うのですが、弊社はこれを数値化する測定器をつくっています。2つの物質は、液体と固体だったり、液体と液体だったりします。
超撥水素材の表面のつくり方とか、インクをきれいに印刷するなら紙の表面をどのようにつくって浸透させるか、絆創膏が貼りつく力を分析して、最適な粘着力にするにはどのようにすればよいか、などが界面科学の扱う課題です。
弊社は、界面科学に関わるさまざまな理科学機器をつくっています。祖父の時代には、多くの測定器をつくっていて、何をつくっているかが紙に書ききれないくらいでした。製品を一気に絞ってデジタル化し、日本に広めたのが私の父です。
界面科学に詳しくなれば良い測定器をつくることができます。良い測定器ができればさらに界面科学の分析がスムーズになり、より深く界面科学を理解することにつながるでしょう。「この好循環で成長していこう」と目標をたてて日々の仕事をしています。
獣医師からの転身、家業への思いと仕事の哲学
ーー亀井社長のご経歴についておうかがいできますか。
亀井真帆:
私の父はヨットが趣味で、子どもの頃からよく海で遊んでいました。父がヨットで楽しんでいる間、私は弟と一緒に海に入って生き物を見つけて遊んでいました。そうするうちに、海も自然も生き物も大好きになりました。そして、獣医になりたいと思うようになり、大学は獣医学部へ進学。父の影響で私もマリンスポーツをやってみようと、大学生のときからサーフィンを始めました。
大学卒業後は動物病院で勤務していたのですが、忙しすぎて全然サーフィンに行けない。「仕事をしながら、サーフィンできる環境ってないのかな」と探していたら、沖縄県で獣医師の臨時職員を募集しているのを見つけて、それから1年間、沖縄で働き、その後、宮崎県へ転職移住しました。宮崎県では理化学検査の仕事として、ウイルス検査や衛生検査などを担当していました。
ーー家業を継ごうと思ったきっかけはありますか。
亀井真帆:
私がそれまで何不自由なくキャリアを積み上げられたのは、祖父がつくったこの会社があったからこそです。父はもちろん、会社を支えてきた従業員の人たちが頑張って会社を支えてくれていたからこそ、私は大学へ進学できて、就職もできました。「これまで支えてくれた従業員たちに恩返ししたい」と思い、家業を継いで、もっと良い会社へ成長させていくことを決めたのです。
ーー家業に入ってからの出来事もうかがえますか。
亀井真帆:
経営企画を中心に、社内のいろいろな部署を経験しました。営業や製造など、各部署の業務や苦労にふれながら業界の知識を蓄え、いずれ会社を継ぐ上で経営学も基礎から学びました。
ーー大切にしている仕事の哲学も教えてください。
亀井真帆:
私は自分の仕事に対する誇りや思いを「職業観」とし、前職から大事にしてきました。協和界面科学は、物質を分析するだけ、機器をつくるだけの会社ではありません。世界中の研究者を支えたり、暮らしの安全を守ったり、世の中を豊かにしています。会社のみんなにも、そのような誇りを持って、仕事に向き合ってほしいと考えています。
自分の仕事が役立つ領域を知り、これからどう成長して、社会に貢献していくかを考えることは、人生の歩みと直結します。従業員の活躍が会社の成長につながるように、私自身の考えや戦略をしっかりと浸透させて、「自分ごと」として考えてもらうことも大切です。
強みは幅広い視点で界面科学を捉えた受託測定
ーー事業内容や技術について、より詳しくお話しいただけますか。
亀井真帆:
物と物がくっついたり、離れたりする力を測定する機器をつくる上で、実に幅広い分野の基礎研究に携わっています。たとえば、泳ぐのが速くなる水着、絆創膏や付箋などの粘着剥離力、落雪防汚機能のある屋根やソーラーパネル、体内の必要部位で溶解する飲み薬の開発などです。さらに、タッチパネル、食器、衣類などの洗浄効果、汚れの付着を防ぐ研究のサポートなど、さまざまな科学分野に技術を応用し、モノの「付着」に関する課題を解決しています。
また、顧客と対話しながら進める受託測定も請け負っています。お客様から預かるサンプルは、測定方法が難しいものもあり、そこでさまざまな経験と知識を積んでいくことになります。結果的に、測定器の自社開発にフィードバックされるメリットも大きいですね。
界面科学に詳しくなり、顧客と対話しニーズを汲み取ることができればよい測定器をつくることができます。よい測定器があれば界面科学の分析がスムーズになり、より深く界面科学を理解することにつながるでしょう。
ーー貴社の強みを教えてください。
亀井真帆:
測定に関する経験と知識のほか、界面科学を幅広い視点で捉えて、お客様にアドバイスするという付加価値を強みとしています。受託測定を中心にリピーターが増えているので、よりお客様との関係性を深めていき、コンサルティングのような側面を強化したいところです。
「世界で一番界面科学に詳しい会社になる」というビジョンを掲げているからこそ、売れ筋商品だけをつくることはしません。他社がやらない、少量多品種の幅広い測定を手がけることで独自の価値を提供しつつ、需要の高い製品も大切にする。このバランスを見極めています。
「世界でも協和界面科学の1社だけ」を目指す海外戦略
ーー世界を常に意識されていると伺いました。世界市場へ向けての戦略をお聞かせください。
亀井真帆:
戦略としては、製品を絞って性能を上げることよりも、あらゆる分野の界面科学に詳しくなることで、世界をリードする存在になりたいと思っています。業界内の競合他社はドイツの企業ですが、弊社は同じ戦略を取らずにニーズを見極めながら少量多品種戦略に挑戦します。中でも、研究者が世界に与える波及効果がとても大きい、北米の市場に注力していきます。
目標は「これができるのは、世界でも協和界面科学の1社だけ」という、私たちにしかできない仕事をすることによって、世界に貢献していくことです。そのためにも、あらゆる挑戦を続けていきたいと考えています。
将来的には測定にとどまらず、企業の商品開発をサポートするコンサルティングサービスを目指しています。その段階まで行けば、目標を達成できたと言えるでしょう。そこからさらに、世界にあるもっと大きな市場で通用する力を身につけていきたいと思います。
プロフェッショナルの志を共有する人と働きたい

ーー貴社の経営理念について、お聞かせください。
亀井真帆:
「協和の羅針盤」という経営理念を、一昨年くらいに新たにつくりました。経営理念は先代社長のころから掲げていましたが、もう少し“私たちらしい”経営理念に刷新したいと思ったのです。
「界面科学と創造力で人と地球を豊かにする」という理念は、会社のメンバーみんなと一緒につくりました。私は、会社と従業員一人ひとりの人生理念、人生ビジョンを重ね合わせて一緒に成長していくことを目指しているのでみんなでつくることを強く意識しました。
弊社では、経営理念とキャリアビジョンを重ね合わせられるように、毎年従業員一人ひとりがキャリアカウンセラーの先生とそれぞれ1時間ほど話をする機会もつくっています。その際、従業員自身の人生ビジョン、人生理念、ミッション、キャリアビジョンなどを明確にしています。
ーー人材育成の特徴もお話しいただけますか?
亀井真帆:
数年前から経営理念に則った人事評価制度を再構築し、ある程度は形が出来上がりました。まだまだ改善できる部分があるので、現在はPDCAを回しているところです。
教育プログラムについては、オンライン対応の各種研修からハラスメント研修、経営理念について考える勉強会までさまざまです。人材の主体性や得意なことを引き出せるように、マネージャー向けのコーチング研修もスタートしました。部長と課長、私を中心に中長期の経営計画を毎年異なるメンバーでつくるグループ研修も特徴的ですね。
また、私と全従業員による年1回の1on1ミーティングも5年以上行っています。一人ひとりと30分ほど対話し、キャリアや人生のビジョンを一緒に考える取り組みです。
ーー貴社の採用においては、何を重視していらっしゃいますでしょうか。
亀井真帆:
採用では、理念に共感してくれる人を求めています。プロフェッショナルを目指して、高い専門知識・技術、倫理観を持って仕事をしてほしいからです。
どういう人間になりたいとか、どういう人生を歩みたいかということは、20代の頃などは難しいことだと思います。しかし、漠然と毎日仕事をして過ごすより、目標が明確になったほうがいい人生になると思っています。
人生に目標を持って、理想や理念に向かって自分ができることを日々実践していく方が、絶対にいい人生になると思っています。
人材に関しては、新卒と中途の両方を採用していく必要があります。少子化にあたって、特に理系の若手人材は貴重になっているため、大学の先生と関係性を深めるなど、アプローチを工夫しています。また、少数精鋭でも良い仕事ができるように、AIを活用するなどデジタル化した組織づくりも進めています。
ーー社長ご自身「イクボス」ということですが、ワークライフバランスについての貴社の取り組みについてお聞かせください。
亀井真帆:
早くからワークライフバランスに力を入れていて、子育てしている方を応援することにも力を入れてきました。
育児をしていると急に保育園に呼び出されることもあったりして、育児と仕事のバランスをとるのが難しくなるケースが発生します。私自身、子どもを5人育てているイクボスですので、ワークライフバランスには理解があると思っています。育児は「マネジメント能力を磨くための学び」と捉えています。
編集後記
界面科学は、生活に身近な課題を解決する先端科学分野だ。界面科学に対する社長の熱い思いが、測定器と「うちにしかできない」と亀井社長が語るオンリーワンのサービスを支えている。宇宙での生活にまで広がる協和界面科学の将来展望に、心が躍るインタビューだった。

亀井真帆/1976年東京生まれ。酪農学園大学獣医学部卒業。卒業後、獣医師の仕事を8年経験。担当業務は人獣共通感染症の理化学検査。口蹄疫、鳥インフルエンザを経験し、防疫業務に全力で対応した。2012年祖父が創業した理科学機器メーカーに勤務。2017年社長就任。前職で培った理科学機器ユーザーの視点を強みとし「界面科学と創造力で人と地球を豊かにする」理念を以てグローバルニッチトップを目指す。また「イクボス」として1男4女を子育て中。