※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

屋号「カメラの大林」で、カメラの小売業を営む株式会社大林。1941年に大阪に店舗を構え、自社ECサイトや楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングにも出店し、高い評価を得ている。

そんな株式会社大林の社長は梅林富士夫氏。実は2019年の春まで株式会社ニコンに勤めており、あと数年で定年を迎える予定だった。

今回は、なぜ定年退職する予定だったニコンを辞めて大林の社長に就任したのか、今後の展望、若者へのメッセージなどについてお話をうかがった。

最初は3年で辞めるつもりで社長に就任した

ーー長い間株式会社ニコンに勤務されていましたが、どのような経緯で社長に就任されたのでしょうか。

梅林富士夫:
新卒で日本光学工業株式会社(現ニコン)に入社してから、40年弱勤めてきました。弊社の社長就任の話をいただいたのは、5年前のことです。当時、私は61歳でしたが、ニコンの定年は65歳なので、そこまで勤めたら退職しようと考えていました。

しかし、当時の弊社の社長が、がんで亡くなってしまいました。その上の会長にはお子様がいなかったため、跡継ぎがいなかったのです。

そこで、海外現地法人社長、工場責任者、人材派遣会社社長など、経営の経験があった私に、社長になってほしいと話がきました。

3回ほど断りましたが、わざわざ高齢の会長が大阪から東京まできていただいて「なんとか頼む」とお願いされました。当時、弊社の社員には若手が多く、経営知識を持った人が在籍しておらず、経営を任せられない状況だったのです。そこで「ショートリリーフ(短期間)なら」ということで引き受けました。

もともとは社員の中から経営できる人材を育てて、3年間くらいで辞める予定で2019年4月に社長に就任しました。しかし、1年後にはコロナの影響でお客様が来ない状況になり、経営基盤を立て直さなければならなくなったのです。

そこからいろいろとやりはじめて上手くいくようになりましたが、結果的にロングリリーフになりました。

コロナをきっかけにECに力を入れた

ーーコロナの影響でお客様が来なくなったということですが、どのように立て直したのでしょうか。

梅林富士夫:
ECに力を入れました。コロナ前も行っていましたが、コロナ後に強化した形です。自社のECサイト・楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングなどを徹底的に広げていきました。また、中古品の通信販売もはじめました。店舗の売上は落ちたものの、ECの売上を伸ばせました。

最初に、自社を全国に知ってもらうためホームページを強化しました。その後、YouTubeなど動画サイトの強化にも着手しています。

ーーECは競争がどんどん激しくなっていますが、どのように差別化していますか。

梅林富士夫:
弊社は電話で、カメラパーツの組み合わせなど、細かい要望も受けつけています。現在メーカーのサポートはメールやチャットが多く、電話もなかなかつながりにくい状態です。

そのため「メーカーに問い合わせるよりも、大林に問い合わせた方が早い」といってくれる人もいます。お客様の要望や疑問にすぐにお答えできることで、信頼を得られていると感じています。

また、テレビ電話でお客様と話せる仕組みをつくりました。このオンライン商談は、他社ではあまり行っていません。テレビ電話で商品を見せてもらって、ある程度の下取り価格も提示しております。

そして、カメラは精密機械ですから、弊社は自社倉庫できれいに製品を保護するための梱包をして発送しています。楽天市場店でも「びっくりするほど梱包がきれい」などのレビューをいただいております。

従業員にも1人ひとりに関心を持つ

ーーさまざまな法人で経営を経験されていますが、従業員との接し方で大事にされていることはありますか。

梅林富士夫:
従業員にも1人ひとりに関心を持つようにしています。誕生日を覚えるなど、ささいなことが大切です。独身の従業員には、誕生日にケーキを買ってあげています。家族がいる人は、家で祝ってもらえるので(笑)。

また「ストレスを感じたときは、どんどん言ってください」と伝えています。ストレスを聞いて受け入れてあげるだけでも違います。関心をもってくれてるんだ、理解してくれているんだ、一緒に戦ってくれているんだと、感じるものです。

そして「なにかあったとき、全部報告さえしてくれれば怒ったりしないから、無理になる前にいってよ。なんとかするから」と伝えています。「あとで実はこんなことがあって」と言われるのが一番困ります。

リスクを理解して覚悟を持って引き受けてくれる人に、経営を教育したい

ーーもともとは3年で辞める予定だったとのことですが、今後は後任を育てるのでしょうか。

梅林富士夫:
経営幹部を育てるには時間がかかります。また、中小企業は簡単につぶれてしまいます。苦境になったら、取引先様や社員のために自分の財産を投げ売ってでも存続させなければなりません。

それを理解した上で、覚悟を持って引き受けてくれる人がいれば、しっかり教育していきたいです。部下との接し方、財務諸表の見方などを1〜2年かけてトレーニングしようと考えています。私がわかる範囲のことは教えていきたいです。


ーーそのほか、今後の課題や展望について教えてください。

梅林富士夫:
ECの売上が順調に伸びていますが、このまま伸びていくと、自社倉庫だけでは難しくなってきます。物流倉庫を別に持つとして、自社で運営するか、アウトソーシングするかなど、考えなければなりません。

自社で行う方が梱包の品質が高く、高評価を得られます。しかし、アウトソーシングの方がコストが安いのです。そこが判断に迷う部分です。

チャンスは無限にある。意志あるところに道は開ける

ーー最後に、20代〜30代の若者にメッセージをお願いします。

梅林富士夫:
チャンスは無限にあります。意志があって示していければ、道は開けていくものです。常識の中で考えず、思い込みは捨てましょう。

また、自分の専門性や得意な部分を突き詰めていくことが大切です。弱いところを強化するのは困難です。他人から見ておかしなことだったとしても、自分を信じてください。

弱いところは誰かに助けてもらいましょう。

編集後記

あと数年で定年退職を迎える予定が、退職して別会社の社長に就任するという決断をした梅林富士夫氏。コロナ禍によって、経営を立て直す必要に迫られたが、豊富な経験によって成長につなげた。

今後、後継者の育成や、売上向上に伴う物流倉庫の増設・移転など、どのように課題を解決していくのだろうか。カメラの大林に注目だ。

梅林富士夫(うめばやし・ふじお)/1956年福岡県生まれ 1979年3月早稲田大学商学部卒、同年日本光学工業(現ニコン)入社、国内販売会社常務、韓国現地法人社長、水戸製作所長、ニコンスタッフサービス社長を歴任し2019年4月から株式会社大林社長となる。