生活用品の企画開発・製造・販売などを行うトップホールディングス(旧社名トップ産業)。「TOP ACADEMY(トップアカデミー)」という教育システム、ホールディングス化による経営人材の育成、主婦とのモニター会議など、特徴的な取組で業績を伸ばしている。
これらの取組にはどのような意図があり、どのような効果があったのか、代表取締役の松岡康博氏にお話を伺った。
父が社長だったが、継ぐ気も入社する気もなかった
ーーどのような流れでトップ産業に入社しましたか。
松岡康博:
私は横浜国立大学で化学工学を専攻していました。そして大学卒業後、松下電器産業(現・パナソニック株式会社)に技術者として入社しました。しかし、入社前年にバブルが崩壊したこともあり、結果的には法人営業をすることになったのです。
入社後、転機があったのは1997年です。トップ産業でさまざまなトラブルが起こったのですが、それを乗り越えるため、当時役員だった人が私を誘いました。
当時は私の父が社長だったため、長男だった私に話がきたのです。しかし、トップ産業に入るまで、父から会社を継がせる・継がせないという話はまったくありませんでした。私も継ぐ気はなく、入社するつもりもありませんでした。
しばらく固辞していたのですが、説得されて入社することになったのが1998年です。社長である父の長男という事実がある以上、運命だと捉えて気持ちを切り替えることにしました。
ーー将来の社長就任を前提に入社したのでしょうか。
松岡康博:
はい。入社するときに6年後に社長を交代するといわれました。そのため、「このタイミングでこれができるようにならなければいけない」といつも逆算して考えていました。
そして、2004年に社長に就任します。
ーー若くして社長に就任されましたが、やりづらさはありませんでしたか。
松岡康博:
35歳ほどで社長になりましたが、やりづらさはなかったです。父は60歳を超えており、一緒に働いてきた社員も50代が多かったのですが、みんな協力的でいい人ばかりでした。
大企業から中小企業に来て、組織の教育にギャップがあった
ーかの松下電器産業から異業界に来た形ですが、苦労したことはありますか。
松岡康博:
当時の松下電器産業では法人営業を務め、設計段階から加わっていました。一旦話がまとまったら、時期が決まってロットが決まって納品して終わりと、スムーズに話が進みました。
一方で、トップ産業は日用品メーカーであり、主要取引先は日本生活協同組合連合会です。毎週カタログが配布され、毎週注文がきて、毎週納品する。そのサイクルがとても早いのです。
何個注文が来るかもわからないため、在庫の量も毎回考えなければなりません。仕組みが松下電器産業での仕事とは全く違うため、最初は苦労しました。
ーー大企業から中小企業に転職し、新人教育にギャップは感じませんでしたか。
松岡康博:
松下電器産業の1年目は仕事しているのか、勉強しているのかわからないくらい、手厚い教育システムがありました。しかし、トップ産業に来た当初は、教育システム自体がありませんでした。
トップ産業ですぐに教育システムをつくるのは難しかったのですが、外部の研修を探して行ってもらったり勉強会を開いたりといったことはすぐに実践しました。
後に、それを集約したのがTOP ACADEMYです。
TOP ACADEMYでは効率よく仕事を学べる
ーーTOP ACADEMYについて教えてください。
松岡康博:
TOP ACADEMYとは、全員がスピード感を持ってスキルやノウハウを習得できる教育システムです。社員自身が講師となり、ウェブ動画や集合型研修によって成長をサポートしています。
ーーTOP ACADEMYをはじめて、どのような効果がありましたか。
松岡康博:
「動画のコンテンツがすごく役に立つ」という声が多かったです。
自分の仕事だけでなく他部門の動画をみることで、自分の仕事とのつながりがわかり、自分がすべきこともわかります。
また、一から人が教えるにはかなりの労力が必要です。動画なら一度撮れば何度も学べる上に、先輩である講師の想いも乗せて伝えられます。効率よく仕事を学べることが大きな特徴です。
TOP ACADEMYに魅力を感じて応募してくれる求職者も多い
ーー株式会社優生活、株式会社トップラボ、株式会社トップファクトリー今治などのグループ会社がありますが、経営人材はどのように育成されていますか。
松岡康博:
現場のジャッジのスピードを高めることで、商売・仕事のスピードを高めたいと考えています。ホールディングス化することで、事業会社ごとに現場で素早い経営判断を行い、経営の感覚を身につけてもらいます。それによって、経営人材を育てていきます。
また、次の経営人材を作っていくために、採用も重要です。ベースは新卒採用で、その上でキャリアの採用も行っています。
ーー採用活動は順調に進んでいますか。
松岡康博:
2023年6月から中途採用をはじめましたが、思ったよりも応募がきています。応募者にその理由を確認すると、TOP ACADEMYという研修制度の充実が多くあげられてていました。
特に意識が高い方からの応募が多いようです。「後輩を育てていきたい」「教育を仕組み的にやりたい」と思っていても今の会社ではできなかった人が、トップ産業に入りたいといってくれています。
TOP ACADEMYはつくるのも運用にも労力がかかりますが、採用にも効果があることで、立ち上げてよかった、という声があがっています。また、運営に携わった人も、仲間意識が高まっています。
モニターの気持ちにいかに共感できるかが商品開発そのもの
ーー貴社のブランド「愛着良品」を別会社化したそうですが、その理由を教えてください。
松岡康博:
愛着良品は、20年前に立ち上げたブランドです。生活者の声を聞いてオリジナル商品を作ってきた開発活動を、より「進化・深化」させるために、あえて別会社にしました。
ヒット商品の裏には何十倍もの売れていない商品があります。今まではそれらを、ヒット商品の利益と相殺することでなんとかなっていました。しかし、ここをしっかり切り抜いてもっとシビアに、もっと専門性を高めるために愛着良品株式会社を立ち上げました。
トップ産業の商品企画者・開発者の4人を異動させて、開発者としてさらに教育していきます。商品開発に想いがあり、若くて将来性のある人を中心に選びました。
ーー貴社は主婦とのモニター会議を行っていますよね。どのように商品開発に活かしているのでしょうか。
松岡康博:
普段の生活の中で、女性たちは困っていることだらけです。モニター会議をすることで、生活の不満を探しています。
モニターの気持ちにどう共感して寄り添うのかが、商品開発そのものです。共感性の有無が重要で、感性が弱かったら商品開発できません。
「この人のためになんとかしてあげたい」「同じ悩みがある」などと思えてくると、何をすればいいか見えてきます。弊社は、共感性が高い社員が多かったからこそ、ここまでやってこれたのかなと思います。
「やらんより、よったほうがまし」~やってみることで、道が開ける~
ーー最後に、20〜30代の若手にメッセージをお願いします。
松岡康博:
私のモットーは「迷ったらやってみる」です。考えすぎると、結果的に挑戦しないことが多くなります。迷ったら、やらないよりやってほしいです。やってみることで、出会いがあったり感謝されたりなど道が開けます。
また、失敗しても、人生に役立つ大きな経験値になるのです。何かを頼まれたときに、断るのではなくやってみてほしいと思います。
編集後記
「やらんよりやったほうがまし」
このモットーのもと、新たな取組に挑戦して、業績を伸ばしてきた松岡社長。
迷ったらやってみることで道が開ける、というメッセージは、情報過多で行動が鈍くなりがちな現代にこそ重要かもしれない。
松岡 康博(まつおか・やすひろ)/1969年大阪府吹田市生まれ。横浜国立大学では化学工学を専攻し、ものづくりの楽しさを学ぶ。1993年松下電器産業(現・パナソニック)入社。法人営業に配属となりお客様の笑顔を追い求める営業職の素晴らしさに出会う。同時に理念経営の重要性を学ぶ。1998年トップ産業へ入社、2002年取締役副社長、2004年代表取締役社長へ就任。