建設業界において、職人の高齢化は深刻な課題であり、技術の継承が急務である。
しかし、熟練の職人は長年の経験と感覚を元に作業を行っていることが多いため、熟練の技術やノウハウをシステムに落とし込むことは容易ではない。
そんな中、株式会社Arentは職人の頭の中を解き明かし、暗黙知のシステム化に成功。独自のビジネスモデルや強みを活かして、建設業界の課題解決に奮闘している。
同社は3D技術に強みを持つ株式会社CFlatと、開発コンサルを行う株式会社アストロテックソフトウェアデザインスタジオ(以下「アストロテック」)が合併して設立され、課題を見極めるコンサルティングからプロダクト開発、事業化までの全工程を一気通貫で請け負っている。
建設業界のDXを推し進め、業界が抱える悩みを解消しようと奔走する、鴨林広軌社長の想いを聞いた。
ビジネスの知識やエンジニアスキルなどを身に付け自身の会社を起業
ーーまず貴社の事業内容についてご紹介いただけますか。
鴨林広軌:
弊社はクライアント企業様のコンサルティングから製品開発、新規事業の立ち上げまでを一気通貫で行っています。
クライアント企業様が抱える課題は、業界共通の課題である場合もあるため、開発したプロダクトを業界の誰もが使えるように外販する場合もあります。
ーーご自身で会社を立ち上げようと思われたきっかけについてお教えいただけますか。
鴨林広軌:
学生時代は、この世界はどのような法則で成り立っているのかを知り、世の中をシンプルに見たいと思い、数学科を専攻しました。しかし、自分よりも数学が好きな人はたくさんいて、次第に自分がやる必要はないという考えに変わりました。
そんなときにアメリカの投資家であるウォーレン・バフェットの考えに共感し、数学よりも経済や社会の動きについて知りたいと思うようになりました。
彼は著書の中で「投資とビジネスは密接に結びついていて、起業をしてこそ本当の投資家になれる」と語っていたため、私も起業しようと思ったのがそもそものきっかけです。
ーーそれから実際に起業されるまでの経緯についてお教えいただけますか。
鴨林広軌:
大学卒業後はまずプロの投資家になるため、MU投資顧問株式会社に入社し、ファンドマネージャーとして働きました。ゆくゆくは起業することを目標にしていたので、お客様と接しながらどの業界で起業するべきか、どのような経営者が成長しているのかといったリサーチもしていました。
そこでどの業界でもITは必須だと気付き、自分自身もITエンジニアのスキルを身に付けようと、ゲーム事業やメタバース事業、DX事業を手がけているグリー株式会社に入社しました。そしてエンジニアとしてのスキルや、世の中の課題を解決するためのシステム開発の方法とローンチするまでの流れについて一通り学びました。
こうして一定の知見を身に付けたうえで、コンサルから受託開発を一貫して行う、株式会社アストロテックを起業しました。
ジョイントベンチャーの設立に至った経緯について
ーー2015年に株式会社CFlatに取締役として参画されてから、アストロテックと合併を行い、株式会社Arentへ社名変更されていますが、ここまでの経緯についてお聞かせいただけますか。
鴨林広軌:
CFlatは大学の同級生佐海が創業した会社で、以前から私が出資を担うなどの関わりがありました。それから私がアストロテックを起業し、千代田化工建設株式会社(以下、「千代田化工建設社」)との話し合いが進行していくなかで、CADに強いメンバーがそろっているCFlatと力を合わせればより良いサービスが提供できると考え、合併を決め、今に至ります。
Arentに社名変更してリブランディングした後はIPOに向けてみなさまに投資したいと思っていただける会社にするため、透明性やコンプライアンスを意識し、体制作りを強化してきました。
たとえば弊社は何を目指しているのか、どういった強みがあるのか、どういったサービスを提供しているのかなど、社内の情報を見える化し、人事評価や報酬制度も整備して組織体制を構築しました。
今はM&Aについても検討し、さらに事業を発展させられるようさまざまな施策に取り組んでいるところです。
建設業界に特化した株式会社Arentの強み
ーー貴社の強みについてお教えいただけますか。
鴨林広軌:
弊社の強みはコンサルティング力、3次元の技術力、建設業界のドメイン知識です。クライアントの課題を明確にし、作るべきプロダクトの方向性が決まった時点で開発に取り掛かります。建設業界では多くの3次元データを扱いますが、それらをコントロールし、様々な制約がある中で最適解を導き出す「自動化技術」の開発に長けたメンバーが数多く在籍しています。
クライアントから高頻度でフィードバックをもらいながら開発を進めるため、プロダクトは業界の根本課題の解決に繋がる高品質なものになります。
これにより、我々も建設業界の知見を深めることができます。得た知見をフィードバック以降の開発のみならず、他のクライアント様の案件に活かすこともできるので、クライアント様へ信頼感を与えることもできていると思います。
ーーそのほか他社にはない強みはございますか。
鴨林広軌:
弊社は建設業界の知識が豊富で、お客様のニーズを汲み取りながらシステム開発ができるところが強みの一つです。
建築や土木、プラント、さらに設計、施工、維持管理など、さまざまな分野の実績があり、なおかつ低コストで開発することができます。ベテランの職人さんたちの知識をシステム化するには高いスキルと経験が必要なので、この部分は他社の参入障壁になると思います。
取り組んでいる課題と今後の方針について
ーー事業の拡大にあたって採用も強化されているのでしょうか。
鴨林広軌:
昨年は社員数が40名程度だったのですが、今年は60名程度まで増員しました。また、労務代行という形でベトナムにある人材派遣会社に協力いただき、外部スタッフも合わせると120名くらいの方に弊社の事業に携わっていただいています。
ーー社内体制の構築についてはいかがでしょうか。
鴨林広軌:
現在は社内の文化教育に力を注いでいます。弊社は成果主義なので、結果さえ出してくれれば後は好きにしてもらっていいよといった雰囲気なのです。
しかし、あまりに自由な振る舞いをされて私たちの方針から大きくずれてしまっては困るので、一定のルールは守ってもらいたいと思っています。
ただ、それを口頭で伝えてもきちんと浸透していかないので、評価制度やシステムに落とし込み、見える化できるよう取り組んでいます。
ーー新規取引先の開拓についてはどのようにお考えなのでしょうか。
鴨林広軌:
これまでは弊社がコンサルを行うことで既存のお客様のプロジェクトがどんどん大きくなっていったので、新規案件がなくても十分な売り上げを確保できていました。
しかし、今後はさらに業績を拡大することを目指し、新規の取引先も積極的に開拓していく予定です。弊社はBIMと設計の自動化が強みであり、お客様の困りごとでもあるので、そこを中心に営業をしていこうと考えております。
編集後記
大学時代にウォーレン・バフェットに憧れ、社会の構造や経済に興味を持ち、起業家になろうと決めたと話す鴨林社長。それからは事業に必要な知識やスキルを身に付けるため、自ら金融業界とIT業界の企業で経験を積み、着実に起業への道を進んできたという。業務改善システムの開発やコンサルを軸とし、建設業界をサポートする株式会社Arentは、産業を代表するような大企業へと成長することだろう。
鴨林広軌(かもばやし・ひろき)/1982年宮崎県生まれ。京都大学理学部数学科卒業後、株式会社MU投資顧問、グリー株式会社を経て、2015年株式会社Arentの代表取締役社長に就任。2023年3月東京証券取引所グロース市場上場。