持続可能な未来のために、いま世界中が注目している脱炭素社会。CO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしようとする取り組みである。
脱炭素社会を実現するため、エネルギー分野での革命を起こすべく2015年に起業したのが、ENECHANGE株式会社だ。
同社代表取締役CEOである城口洋平氏は、東日本大震災で被災地へボランティアとして赴いた際に、ライフラインであるエネルギーの重要性に気付く。その後エネルギー政策が先進しているイギリスに留学し、ケンブリッジ大学にて電力データの研究に明け暮れた。
ケンブリッジ大学で培った技術力・海外知見・ネットワークを武器に、志を同じくする仲間と立ち上げたENECHANGE株式会社。日本のエネルギー業界の変革を目指す城口社長が語る未来を聞いた。
震災を経てイギリスから学ぶ
ーー社会を変えていくシステムを創業するに至った背景をお聞かせください。
城口洋平:
エネルギー問題の重要性に初めて気付いたのは、2011年の東日本大震災を受けてのことでした。巨大な地震が起き、ライフラインが絶たれた状態を経験した時、「いかにエネルギーが私たちの生活を支えてくれていたのか」という事実を多くの日本人が痛感させられたと思います。
その一方で、エネルギーがどう作られているかというところにも目を向けていかないと、持続可能な社会を実現することは難しいという問題があることも、私は意識するようになりました。
エネルギー問題を解決する手がかりを見つけるべく、私はイギリスに目を付けました。日本とエネルギー問題は似通っており、お互い島国で1人当たりのGDP規模も近い。ただ、あちらは洋上風力など再生可能エネルギーが盛んで、また電力自由化が進んでいるため、最先端の情報を有していると考えたからです。
私はイギリスに行き、ケンブリッジ大学に修士から入って5年で博士を取得し、その後ロンドンに移住し、かれこれ10数年エネルギーデータや政策の研究に勤しんできました。ケンブリッジ大学の修士課程在学中に、ケンブリッジ・エナジーデータ・ラボという研究機関をつくり、そこでの研究結果を元に2015年に設立したのがENECHANGE株式会社です。
電力、ガスの自由化へ
ーー事業内容について教えてください
城口洋平:
弊社の社名であるENECHANGEは、エネルギー(ENERGY)を変革する(CHANGE)という思いを込めて命名しており、「エネルギーの未来をつくる」というミッションに共感する仲間と仕事をしています。
現在、世界は脱炭素社会へ向けて大きな変革期を迎えています。しかし日本はエネルギーの自由化、つまり「消費者が電気やガスなどのエネルギーを自分たちで選ぶ感覚」が世界に比べて5年程遅れているように感じます。そこで私たちは、海外で得た知見をうまく日本市場に当てはめることを通じて、日本のエネルギー業界の変革を促し、脱炭素社会の実現を加速していくことを目的に日々の事業を行っています。
ーーエネルギーの自由化について、今後どのように進んでいくとお考えですか。
城口洋平:
今後AIが進化していくことで、データセンターなどへの電力需要はさらに伸びていきます。
これからの社会を支えていくためには、エネルギー業界に大きな変革が求められてくると考えています。
日本が掲げる「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」という方針を実現するべく、脱炭素化への対応や、電気自動車(EV)・蓄電池の普及などのイノベーションを起こさなければなりません。
電力・ガスの自由化の波がエネルギー業界に競争環境を生み出し、イノベーションを加速させる役割を担っていくのだと思っています。
プラットフォーム的な立場でいられる唯一のベンチャー企業
ーー貴社のサービスである電力・ガス切り替えプラットフォーム「エネチェンジ」や「EV充電エネチェンジ」が、先程おっしゃっていたエネルギー業界の変革に向けた事業かと思います。そのサービスを開発された理由や、それによってどういった社会を実現していきたいかをお聞かせください。
城口洋平:
電力自由化も自動車業界においても、大手の電力会社やガス会社、自動車メーカーやガソリン会社という大きなプレイヤーがいて、彼らが変革しない限りこの業界は変わらない構造になっています。そうした会社に対して弊社がサービスを提供し、変革のお手伝いをすることで、結果として世の中を変えていけると考えています。
私たちは、電力自由化でいうと、電力・ガス切り替えプラットフォーム「エネチェンジ」で、一般家庭向けに電力・ガス会社の比較から切り替えまでを行えるサービスを提供しており、同様の電力会社切り替えサービスを法人需要家に対しても提供しています。
また、この電力・ガス比較プラットフォームの運営で培った電力・ガス消費予測技術を活かして、東京電力さまの自社ホームページでの電力切り替え受付サービスや、東京ガスさまの家庭向けDR(デマンドレスポンス)サービスの開発提供といったデータ事業も行っています。まさに、「ガス会社が電力を売っていく」といった電力自由化を推進するための新しい事業のお手伝いをしており、私たちは電力自由化においてBtoCとBtoBの両方の事業を行なっています。
EV充電事業では、「EV充電エネチェンジ」というサービスを提供しており、EV充電器の導入や、自社アプリを開発してEVドライバーがマップで充電器を探して充電できるサービスを提供しています。また、こちらもEV充電事業で培ったノウハウを活かして、ナビやアプリ会社に弊社のEV充電スポット情報をAPIで提供したり、ENEOSさまのEV充電サービスアプリなども開発を受託し、提供しています。
ドライバーからしたら、車に関するサービスは統一しているほうが使いやすいですし、事業としても各社でバラバラに行っていては非効率です。そこで私たちが一括してEVに関するサービスを提供することで、社会の変革スピードを上げていきたいと思っています。
私たちは、電力・ガス業界と自動車・ガソリンスタンド業界というオールドエコノミーの中心で、電力データを活用することでプラットフォームを構築して、中立的な立場でいることができる唯一のベンチャー企業だと自負しています。
「半径10mでの体感」を意識する
ーー会社創設後、社長が努力を続けてこられた秘訣はありますか?
城口洋平:
世界を肌で感じる、ということが大事だと思います。
私個人として見ると、私はおそらく世界で活躍できる日本経営者の一人に入っているかと思いますが、海外で戦う感覚を磨き続けるために、10年以上ロンドンを拠点として仕事をしています。
人は基本的に、実際に体感できる距離感にある人、という意味での半径10m程度の人間から大きな影響を受けます。直接話すことはもちろん、カンファレンスで話を聞くだけだとしても、実際にその人を見ることで、体感的なインパクトは大きく異なります。
オンラインカンファレンスが増え、普段の仕事はテレワーク中心ですが、やはり、実際に「肌で感じる(体感する)」関係は、インスピレーションを受ける上での中で生きているため、その中で「どのような方々と付き合うか」ということが非常に重要だと思っています。私は現在もヨーロッパやアメリカの同年代も含めた傑出した方々と、日々、勉強会やカンファレンスで会い、常に切磋琢磨するよう意識しています。
ーー事業目標はどのように決めていますか?
城口洋平:
私たちのいる脱炭素という業界は、2030年にはここまで、2050年にはここまでやらないといけないという指標が国によって定められています。その指標から単純に逆算すれば、おのずと目標がクリアになります。
ナンバーワンプレイヤーでいるためには「どれだけユーザー数を増やし、市場シェアを獲得しないといけないか」という数字が算出できるので、目標設定は非常にやりやすい環境にあります。
世界のリーディングプレーヤーとして
ーー今後の展望についてお聞かせください。
城口洋平:
日本では、EV充電器を2030年までに30万口の設置する目標を掲げ、これまで約3万基の整備が進められていますが、目標値の10%にしか達していません。
私たちはこの業界のリーディングプレイヤーとして、EV充電器の普通充電である目的地充電での市場シェア7割を獲得していこうと考えています。目的地充電はEV充電器の約半数を占めるので、2030年には約10万口の充電器の設置を達成し、2040〜2050年にはそのさらに5倍程の投資をして100万〜200万単位で充電器を設置していかなければなりません。
それだけの充電器の台数ともなると、かなり多くの電気を弊社が動かしている立場になり、国全体の電力需要が動く程の規模となってくるため、事業の舵取りをしっかりと行っていく覚悟と責任を意識して日々の事業活動を行っています。
エネルギー業界はチャンスが大きい分野
ーーこれから入社する方に求める人物像はありますか?
城口洋平:
基本的には若年層の方を中心に採用しています。社内も30代の社員が圧倒的多数を占めています。
その理由は2つあり、1つ目は、脱炭素における2030年・2050年という長期的な目標に向けて仕事をしているので長い時間軸でビジョンを見ることができ、そこにパッションを持てる方のほうがお互いに楽しく仕事ができるからです。私たちの会社にとってもこの先10年、20年という単位で働ける人材がいたほうがメリットがあります。
2つ目は、脱炭素というテーマは若年層の方には極めてチャンスが大きい分野だからです。電力自由化にせよEVの普及にせよ、これから拡大していくことは間違いないので、早くからしっかりと業界について吸収している方が将来においてのバリューアップやスキルにつながると思っています。
持続可能な社会に向けたテレワークの責任
ーー入社後の就業体系はどのようなものになりますか?
城口洋平:
弊社は原則テレワークです。基本的に社員は週に1度しか出社しないので、オフィスには100席程度しかデスクがありません。そもそもオフィスから通勤圏以外の人は出社しないという前提があり、その人たちは3ヶ月に1度全社集会に来るという決まりになっています。
今後2030年、2050年と働いていく中で、結婚・出産から親の介護などへライフステージが変わっていきます。毎日会社に出社するということは、住居や自分の時間に制限を設けてしまうことにつながるため、持続可能な働き方ではないでしょう。
私たちは2050年に向けて持続可能な社会をつくるという事業をしているからこそ、働き方にはとてもこだわっています。
編集後記
欧州に長く身を置きエネルギー研究に没頭してきた城口社長。自身のケンブリッジ大学での電力データ研究の成果を元にして起業し、海外のエネルギー政策を日本に取り入れることで、脱炭素の業界で急速な事業拡大を行なっている。
また、海外から見た日本の働き方に疑問を持ち、自らテレワークを通じて新しい働き方を提唱している。「20代、30代の方たちは働き方の枠組みを超えて活躍の場を増やしていってほしい」と語った。
「エネチェンジ」や「EV充電エネチェンジ」といったエネルギー業界に変革を与えるサービスを通し、来るべき世界に向けて持続可能な社会を導き、世界のリーディングプレイヤーとして活躍している城口社長。そして確かな技術を持ち、先見的な目線で改革を進めていくENECHANGE株式会社。彼らが牽引する日本のエネルギー業界の未来が明るく感じられる。
城口洋平(きぐち・ようへい)/東京大学法学部卒、英国ケンブリッジ大学工学部博士課程卒。同大学での研究成果をもとに2015年にENECHANGEを起業し、2020年にエネルギーテック企業として初めての東証マザーズ上場を実現。2021年に時価総額1,000億円を達成。起業家大賞(新経済連盟2022年)受賞。経済産業省委員会、経済同友会、新経済連盟などで、脱炭素戦略の政策提言にも参画。