日本は戦後、高度経済成長を経て大量生産・大量消費が定着した。
資本経済の発展により、低価格で大量の商品が提供されるようになると、壊れたら捨て、すぐに新しいものを買うという意識が広まった。
そんな20世紀型の経済システムから脱却すべく各種リサイクル法が制定される中、ハウスクリーニングやリペア産業を活性化し、持続可能な循環型社会への実現を目指しているのが、ユアマイスター株式会社だ。
同社は修理やクリーニングを依頼したいユーザーと、職人をマッチングするプラットフォーム「ユアマイスター」を運営している。
モノを大切にする文化を世の中に定着させ、後継問題が深刻化している修理やハウスクリーニング業界の雇用を生み出そうと奮闘する星野貴之氏の思いを聞いた。
政治家を目指し、できるだけ早く成長できる環境へ身を置くため大手ベンチャー企業へ入社
ーー幼少期や学生時代のエピソードについてお聞かせいただけますか。
星野貴之:
学生の頃は学級委員や生徒会役員など、人の上に立ってリーダーシップを発揮する機会が多く、実家の近くに選挙事務所があり身近な存在だったことから、政治家に興味がありました。
それから、大学で体育会のキャプテンとして充実した日々を送っていた21歳のときに大病を患い、自分は何のために生きているのかと死生観について考えるようになりました。
そのときに人の役に立てるのはやはり政治だと思い、治療を終えてから民主党の事務所でインターンを経験したことで、政治家になりたいという願望がさらに強まりました。
ーー政治家を目指されていたわけですが、大学卒業後は当時ITベンチャーとして頭角を現していた楽天株式会社にご入社されていますね。
星野貴之:
政治家を目指すにあたって25歳で秘書になると目標を決め、そのためにまずは社会人経験を積もうと一般企業へ就職しました。
トップの力量が高ければ組織のレベルも高いはずだと思い、有能な経営者がいる企業を選ぶなかで、楽天は“他社の3倍のスピードで成長できる”と聞き、この会社なら短期間で成長できると考えたのです。
ーー実際に入社されてみていかがでしたか。
星野貴之:
入社後はネットショッピングなどのEコマース事業に携わりました。サービスを提案したお客様からは感謝の言葉をいただき、人の役に立てる素晴らしい仕事だと思いました。
それまでは政治で世の中を変えようと思っていたのですが、ビジネスでも世の中を変えられるのだなと実感しました。
しかし、病気をした経験から、限りある時間を有効に使おうとストイックに仕事に向き合うあまり、仕事はチームでするものだという意識が欠け「お前は史上最低の新卒だ」と言われたこともありました。その頃はとにかく自分のことしか考えていなくて、自分は不利な扱いをされていると他責にしていました。
また、ある程度の結果は出していたので、自分はできると勘違いしてしまい、周りの意見を聞かないという、扱いづらい新人だったと思います。
“史上最低の新卒”から全国トップの成績を収めMVPを受賞
ーーそれからどのようにご自身の意識を変えていかれたのでしょうか。
星野貴之:
成果が出ない状況が続き八方塞がりになっていたときに、当時の上司で後に一緒に創業することになる高山に「どうして自分ばかりこんな目に遭うのかわからない。もう限界です」と伝えました。
すると彼は「新卒の中ではできているだけで、全体から見たら中の下だろう。新卒を特別領域だと思うな」と事実をありのままに伝えてくれました。そのときにはじめて自分が間違っていたのだと気付いたのです。
こんな自分にチャンスを与えてくれた方たちの支えもあり、次第に成果が出始め、仕事を任せてもらえるようになりました。
それからは乾いた砂が水を吸い込むかのごとく、あらゆるチャンスを掴もうとしました。最初の1年で地獄を見たからこそ、その反動で大きく飛躍できたのだと思いますね。
ーーそのあと全国トップの成績を収められ、全社の「年間MVP」を受賞。最年少でマネジャーをお務めになりましたが、これだけの成果を出せた要因についてお聞かせいただけますか。
星野貴之:
人の3倍は努力しなければ成果は出せないと思い、余計なことは考えずただ無心で仕事に打ち込むようになったことで、常に3倍のスピードで作業することが習慣化しました。
また、社内外の方々に応援してもらうためには、一緒に仕事をしたいと思わせる人懐こさも大切だと思い、人との接し方も意識するようになりました。
すると、次第に成果がついてくるようになり、その頃には周りを見返したいという反骨心よりも、周囲の期待に応えたいと、自分の可能性にワクワクするようになっていましたね。
前職の経験を活かしESG×Eコマース事業を立ち上げる
ーーそこから起業するに至った経緯をお教えいただけますか。
星野貴之:
チャンスにも恵まれ、ビジネスマンに必要なものをたくさん吸収させてもらったのですが、次第に自分の可能性を深く信じられるようになり、よりその可能性を開花させる勝負をし、社会に貢献したいと考えるようになりました。
転職エージェントの方からは「起業するか、ベンチャーキャピタリストになって起業家を支援する方がいい」と言われました。
また、ベンチャー企業への投資について話を聞いてみようと、投資家の方に会いに行ったときにも「起業してやってみたいことはないのですか」と聞かれたのです。
そこで、これまで携わってきたESG(※)とEコマースを組み合わせた事業なら、将来性があるかもしれないと考えるようになりました。
当時楽天やAmazon、メルカリのユーザー数が伸びてきていて、ネットで物を買ったり売ったりする文化は根付き始めていたのですが、メンテナンスサービスを提供しているEコマースはなかったので、日本でもサステナブルへの意識が高まればサービスの需要が高まるだろうと思い、今の事業を立ち上げました。
ーー創業してからはどのようなご苦労があったのですか。
星野貴之:
創業2年目のときにサービス品質の低下が目立ち始め、試行錯誤していた時期がありました。ウェブサービスについては自分たちで対応できますが、クリーニングや施工、修理の部分に関しては自分たちの手を離れるため苦戦しましたね。
結局は人間の手でする仕事なので、忙しかったり体調が悪かったりすると雑になってしまう部分があり、品質の維持に向けて根気強く対応する必要がありました。
まずは、品質が高いというのはどういう状態なのか定義づけをしました。また、職人さんたちには接客からアフターフォローまでが一つの商品であると説明し、お客様への丁寧な対応を意識してもらうよう働きかけました。
こうした対策は今も継続していて、さらなる品質改善を目指しているところです。
企業としての社会貢献や今後の展望について
ーー今後はどのように事業を伸ばしていこうとお考えですか。
星野貴之:
ECのプラットフォームを使ったマッチング事業や、法人事業、広告事業、メディア事業などの多角化を進めていますが、それぞれの収益を全て伸ばしたいと考えています。
また、これまで労働集約型だったところから、テクノロジーの活用を進め、生産性の向上に努めています。さらに、次の5年先に向けて、「新しい正解」を業界のスタンダードにするような新しい取り組みができればいいなと思っています。
自分たちがクリーニング業界やリペア業界の発展に貢献してきたという自負はあるのですが、これからもさらに新たな視点で事業を見つめ直していきたいですね。
これらの施策を行った上で、会社を成長させるための投資として将来的にはM&Aも行っていきたいと考えています。
編集後記
社内で一匹狼となり“史上最低の新人”というレッテルを貼られ、汚名返上しようと3倍の仕事量をこなしてきたという星野社長。その成果が実り、全社の「年間MVP」を受賞し、最年少でマネジャーとなるなど飛躍的な成長を遂げた。そんな星野社長が率いるユアマイスター株式会社は、自社のサービスを通してモノを大切にする価値観を育て、雇用を生み、新たな経済圏を創出する「ハッピートライアングル」の実現を目指し、今後も進化を続けることだろう。
ユアマイスターサービスサイト
星野貴之(ほしの・たかゆき)/1988年埼玉県生まれ、慶應義塾大学卒。新卒入社した楽天株式会社(現:楽天グループ株式会社)にて営業を担当、全国1位の収益を創出し全社の年間MVPを受賞。九州エリア全域の副責任者を務めた後、26歳で幹部育成プログラム1期生に選抜されIRへ異動し、決算・増資・投資家対応を担当。2016年3月MBAを取得後、同年8月にユアマイスター株式会社を設立。第19回グロービス アルムナイ・アワード「創造部門」受賞。