株式会社フィル・カンパニーの空中店舗『フィル・パーク』は、コインパーキングの上の空間を活用したユニークな事業だ。2005年の創業以降、数年間は赤字だったものの、徐々に黒字化。その後は増収増益を続け、2016年には東証マザーズに上場。2019年には東証一部(現・東証プライム)に、2023年には東証スタンダード市場に移行した注目の企業だ。
一方で、新型コロナウイルス感染拡大による自粛により、収益は3年間停滞したという。再び成長軌道に乗せるため、2023年に代表取締役社長に就任したのが金子麻理氏。
そんな金子社長に、創業から現在までの歴史、空中店舗フィル・パークの特徴、今後の展望などについてお話をうかがった。
「駐車場の上を活用したい」アイデアベースではじまった株式会社フィル・カンパニー
ーー貴社はどのような想いで創業されたのでしょうか。
金子麻理:
弊社は2005年に創業しました。創業メンバーにはテナント系の事業会社出身もいて、当時から「駐車場の上をもっと活用できれば」というアイデアを持っていたそうです。
当時は「この街に出店したい」と思っていても、テナントが足りない状況でした。一方でコインパーキングはあふれていました。駐車場はそのままで空中をテナントに使わせてもらう、このアイデアを持って創業した会社です。
しかし、最初はアイデアベースで収益化がうまく行かず、赤字続きでした。
そして、後に3代目の社長となる能美が2008年に入社します。ここからアイデアベースだった事業を、収益化できるしっかりとしたビジネスモデルに変えていき、私が入社をする2年前に、上手く収益化できるようになってきたそうです。
長年務めた監査役から、社長に就任した理由
ーー金子さんはどのような経緯で入社され、その後社長に就任されたのでしょうか。
金子麻理:
上手く収益化できるようになったころ、次のステップとして上場を目指す際に、入社のオファーがありました。当時は上場を目指すことに魅力を感じ、入社を決意しました。
入社した翌月から常勤監査役でしたが、社員がまだ10人ほどだったので、全体を見ながら経営にも関わりました。
その後右肩上がりで成長して、2016年に東証マザーズに上場し、2019年12月に東証プライムへの市場替えをするまで、右肩上がりで増収増益でした。
しかし、その2ヶ月後から新型コロナウイルスの影響による自粛がはじまり、右肩上がりだった収益の伸びが、3年間停滞してしまったのです。
ようやく日本でもコロナの自粛があけ、もう一度成長軌道に乗せるには、どの経営体制にすればいいか、検討しました。
当時、弊社の経営陣の一部は、経営も執行も行っていたのですが、執行への専念を目的に、経営と執行を分離させました。
そして、執行をまとめるのに私が適任だと推薦していただき、2023年2月に4代目の代表取締役社長に就任しました。ずっと監査役をやっていた人間が代表に就任するのは珍しいケースですが、入社当初から10年近く経営にも携わっていたことが理由となりました。
三方よしのビジネス、空中店舗フィル・パーク
ーー貴社の根幹事業である空中店舗フィル・パークについて教えてください。
金子麻理:
弊社の空中店舗フィル・パークは、主にコインパーキングの空中を活かして、商業施設を建てる事業です。
現在の日本では、土地の所有者様が自由に建物を建てていますが、そうすると街の中にスキマが生まれます。たとえば銀座でも、裏通りに行くと小さな土地が残っていることがあります。
そういった土地を活かすことで、街の活性化につなげる事業です。
街の雰囲気はそれぞれ違いますよね。秋葉原には秋葉原らしさが、池袋には池袋らしさがあります。そこで生活している人がどういうものを求めているのか、私たちは徹底的に調査します。そして、裏通りにも人が集まるような施設を作っています。
ーーフィル・パークは、街や人にどのようなメリットをもたらしますか。
金子麻理:
弊社の空中店舗フィル・パークは、三方よしの事業です。土地の所有者様は収益化でき、テナント様は希望のエリアで出店でき、結果として地域が活性化します。
裏通りに入ったら、個性がない、安全でない、寂れている、といった場所は多くあると思います。日本の社会の中で、こういった土地の改善事業を行うことは、意味があると考えています。
この観点で小さい土地を活用しようとしている会社は、日本で私たちだけでしょう。
小さな土地や変形地を活かす企画力が強み
ーー他ではあまり聞かない、ユニークな事業だと思います。
金子麻理:
なぜコインパーキング以上の事業が出てこないかというと、小さな土地や変形地の活用は、所有者様にとって難しいからです。
多くの人が固定資産税を払うために、暫定活用としてコインパーキングを行っています。少ない資本ではじめられ、ある程度収益になるためです。しかし、本来はもっと価値のある土地が多くあります。
私たちはそういった土地を活用するべく、ニーズを徹底的に調査して、利回り商品になる企画を行います。この企画力こそが私たちの強みです。このような建物にして、このようなテナントをいれようと、逆算の発想で提案しています。
土地の所有者様に、煩わしい部分は任せません。企画設計して、建物を建ててテナントを呼んで管理する、最初から最後までの工程をワンストップで提供しています。
このように、最初から最後まで責任を持って行う会社は、ほかにないと考えています。投資して建てても、テナントが入らない可能性があることが、土地の所有者様が決断できないポイントです。弊社は企画・設計・建築・テナント誘致・管理まで、責任を持って一緒に行います。
スケールアップのために、役割・機能を分けていく
ーー貴社の課題を教えてください。
金子麻理:
今までのやり方は、属人的な部分が多くありました。土地の所有者様を探し、街をまわって企画して、テナントを見つけてくる。設計と建築以外は1人の営業マンが最初から最後まで行っていました。
そういった熟練営業マンたちの力が上場に大きく貢献したのは事実です。しかし、スケールアップするのに熟練営業マンを大量に育てていくのは困難です。
大事なエッセンスは残さなければいけませんが、役割・機能を分けていく必要があります。そのため、今年から営業改革を行っています。
空中店舗フィル・パークを、広く認知される事業にしたい
ーー今後の事業の展望について教えてください。
金子麻理:
この事業は、上場したことで以前よりは認知されたと思いますが、まだまだ世の中に認知されていません。
たとえば、コインパーキングは広く認知されています。しかし、40年ぐらい前はあまり認知されていなかったはずです。
それと同様に、フィル・パークも当たり前に認知されるようになりたいと考えています。土地の所有者様にも、空中店舗が1つの選択肢として当たり前に入るようにしたいです。そして、社会から「良い会社」だと認識されるような会社にしたいと考えています。
さらに、この事業をスケールアップして、後生にもつなげていきたいです。前任者たちがそうしたように、会社のフェーズによってほかに適任者がいれば、どんどん社長のバトンを渡していきます。社長を長く務めることには、こだわりません。
編集後記
入社後、およそ10年間は監査役を務めていた金子社長。入社当初は上場を目指すことに魅力を感じていたが、今は事業そのものに魅力を感じている。
そんな、金子社長のモチベーションは好奇心とのこと。これまでも、さまざまなことに挑戦しながらここまで来たそう。金子社長のように好奇心を持って飛び込んでみれば、物事の違う魅力が見えてくるかもしれない。
金子麻理(かねこ・まり)/1962年東京都杉並区生まれ。一橋大学大学院商学部経営学科卒、日本IBM株式会社入社。夫の海外転勤に伴い退職し渡米。米国公認会計士の取得、海外での起業を経て、2014年にフィル・カンパニー入社。常勤監査役にて東証マザーズIPOに尽力し、東証プライムへの市場変更に貢献する。(2023年10月より東証スタンダード)2023年2月、代表取締役に就任。フィル・カンパニーのさらなる発展を目指す。