2008年8月に設立された株式会社アイリッジは、スマホアプリを中心としたインターネットサービスの企画・開発や、コンサルティング事業によって成長してきた企業だ。代表取締役社長の小田健太郎氏に、起業のきっかけや成功の裏側をインタビューした。
「創業経営者になる」という夢を叶えるまで
ーー起業家としての歩みをお聞かせください。
小田健太郎:
起業に至った背景としては、父が創業者として事業を経営していた影響を強く受けました。「いずれは父のように起業したい」という思いがありましたので、大学を卒業するにあたって、起業につながるような成長産業に身を置きたいと考えました。そこで、当時はIT業界が非常に伸び出していたため、株式会社NTTデータへ入社した次第です。
ーーお父様の事業を継ぐことは想定されなかったのでしょうか。
小田健太郎:
父の事業は住宅建築系で、高度経済成長期以降は成熟産業となり、業界としてはピークアウトしていました。また、父の事業の後継者ではなく、あくまでも私は「創業経営者」になりたかったのです。
大企業を経て起業へ――IT業界を学ぶ旅
ーー就職後はどのような経験をされたのでしょうか。
小田健太郎:
NTTデータと他の企業がジョイントベンチャーをつくることになり、私も出向という立場で参加することができました。上司にも起業への思いを伝えていたことから、おそらく配慮していただいたのだと思います。
大企業のジョイントベンチャー立ち上げに関われた経験はとても貴重で、IT業界の仕組みや状況、大企業の意思決定方法なども学べる環境でした。
起業前にもっと他の業界も見ておきたかったため、ボストン・コンサルティング・グループ合同会社へ転職しました。経営戦略コンサルティングは以前からある事業ではあるものの、市民権を得て大きく成長し始めたタイミングだったため、業界を問わず広く経営について学べました。
コンサルティングに関わる中で、iモードを中心にモバイルインターネットが世の中を変えていくことに面白さを感じました。大学生がガラケーでレポートを書いたり、携帯小説を投稿したり、おサイフケータイも登場した時代ですね。
事業の種を探して――スマホ黎明期のスタートアップ
ーー5年後、32歳で貴社を設立されました。苦労されたことはありますか?
小田健太郎:
「起業したい」という動機が先にあったため、事業の種を見つけて軌道に乗せるまでが大変でしたね。モバイルインターネット業界にチャンスを見出し、1人きりでスタートしたのち、約半年後に数人の仲間が加わりました。そして、私がコンサルの下請けで作った資金で事業の種を探していく、ということを繰り返したのです。
そうして見つけた事業の種の1つがOMOであり、スマートフォンを活用した販促・集客アプリを企業様に提案・作成するものです。弊社が創業した2008年8月はスマホが日本に上陸した約1ヶ月後なので、当時はスマホが広く流通することについては予想していませんでした。
ーー上陸から3年間ほどは、スマホは見向きもされなかったように思います。
小田健太郎:
「日本ではあまり流行らないだろう」といわれていましたが、弊社のスタートアップ戦略として、大手企業が参入していない新しい領域へのチャレンジこそ成長のチャンスと考えました。従来のガラケーと異なるスマホの機能として「位置情報」に着目しました。
スマホでは、ユーザーがアプリのダウンロード時に許諾することで企業側が位置情報を取得できます。「消費者がお店に近づいたタイミングで、タイムセールやクーポンの情報を出せたら面白いのでは」という発想からいくつかトライしてみて、賛同してくれる企業様を見つけました。
まさに、今の成長につながる事業のきっかけです。実績が増えたことで、最近ではお問い合わせをいただいてからご提案につなげていくケースが主となっています。
スマホアプリ開発における強みと求める人材像
ーー貴社の強みはどこにあるとお考えでしょうか。
小田健太郎:
スマホ黎明期からアプリを通じたビジネスを行ってきたので、「スマホならではのUI/UX」をつくる経験やノウハウには自信があります。流通、小売、鉄道、金融など、あらゆる業界に対して使いやすいスマホアプリ体験を提供することが可能です。
アプリをつくるだけで終わらず、ユーザー満足度をデータで取得・分析して改善を進めていくグロースハックも弊社の強みです。「ユーザー好みの情報をプッシュ通知する」など、各業界に必須の機能も把握しています。具体的には、「APPBOX(アップボックス)」という基盤技術によって、企業様が求める効果的なアプリ開発や運用に向けたアプローチがしやすくなっています。
独自色を出したい部分があれば弊社が企画し、形にしていくので企業様は効率的にアプリを作れるのです。使い勝手の良さにもこだわっていますので、現在300以上のアプリで月間アクティブユーザーが8000万人を超え、日本中の方に使っていただいています。
ーー組織として求める人材像についてもお聞かせください。
小田健太郎:
弊社のミッションは「Tech Tomorrow〜テクノロジーを活用して、わたしたちがつくった新しいサービスで、昨日よりも便利な生活を創る〜」です。このミッションに共感していただける方と一緒に働きたいと考えています。
各業界の最先端企業をお客様として、テクノロジーで世の中を作っていく魅力は大きいですし、エンジニアなど技術開発に興味がある方にもおすすめです。
編集後記
目標達成や課題解決への思いが先行することの多い起業の世界。もともとビジネスに興味があり、「起業するために事業の種を探した」と語る小田社長の成功談は、同じ抱負をもつ人たちの背中を押すのではないだろうか。スマホ全盛期におけるアイリッジの存在感に今後も注目していきたい。
小田健太郎(おだ・けんたろう)/1975年、東京都出身。慶応義塾大学経済学部卒業後、株式会社NTTデータを経て、ボストン・コンサルティング・グループ合同会社へ入社。モバイル業界を中心に、事業戦略や新規サービス立ち上げコンサルティングを多数実施。2008年、株式会社アイリッジを創業。2015年に東証マザーズ(現:東証グロース)上場。OMO(ネットとリアルを融合した集客販促)業界のリーディングカンパニーとして、デジタルマーケティング領域での事業を展開している。