
自動運転や先進運転支援システム、水素エンジンなど、次々に新しい技術が登場する自動車業界。トレンドやニーズが目まぐるしく変わる中、株式会社フセラシは自動車部品サプライヤーとして、時代に合わせながら人々のニーズに応えた製品を提供し続けている。同社の代表取締役社長の嶋田守氏は、自身が会社を経営する上で「フレキシブルであること」を重視していると語る。フセラシがなぜこれほど長く支持され続けているのか、同社の強みと経営者としての信念を聞いた。
創業者が名付けた「守」の字と数十年にわたる製造現場での実践経験
ーーまずは社長のご経歴からお聞かせください。
嶋田守:
私はフセラシの4代目の社長にあたります。私の名前である「守(まもる)」は、創業者である祖父がつけてくれたものです。この名前には、「将来はこの会社をしっかりと守っていく存在になってほしい」という創業者の強い願いと期待が込められていました。ですから、物心ついた頃から「自分は、この会社に入社することになるのだろう」という意識は、うっすらと心のどこかに持っていました。
しかし、大学を卒業して入社した後、当たり前ですがすぐに経営に携わったわけではありません。まずは現場を知らなければならないという会社方針から、最初に配属されたのは群馬工場の製造現場でした。そこから数十年にわたり、毎日作業着で自らの手を動かして製造の最前線に立ち続けました。その後、三重工場の立ち上げメンバーにも選ばれ色々な経験をさせてもらいました。この製造現場での基礎経験が、今の私の経営に関するすべての土台となっています。
ーー貴社の事業内容と特徴について教えてください。
嶋田守:
フセラシの主力事業は、自動車用の特殊ナットや精密圧造、鍛造部品の開発・製造です。金属に熱を加えず常温のまま圧力をかけて成形する「冷間鍛造」という高度な技術を駆使し、エンジンまわりから足回りに至るまで、自動車の安全性に関わる重要保安部品を世界中の自動車メーカーに供給しています。
ーー仕事に向き合う上で、基本とされている考え方はありますか。
嶋田守:
たとえば営業の仕事には、100人いれば100通りのやり方があります。同じ営業方法でも、相手が違えば効果があったり、なかったりしますよね。
そのほかの業務にも言えることですが、決められた考え方だけでなく、柔軟な考え方を持つべきだという意味で「フレキシブルであることが大切」だと考えています。
ものづくり実戦経験を武器に挑んだ米国法人の立ち上げ

ーー工場の立ち上げや米国法人の立ち上げなど、ゼロから始めた事業を多く経験されているかと思います。その中で不安だったことはありますか。
嶋田守:
工場や米国法人を立ち上げると進言したものの、実際にやってみて上手くいかなかったらどうしようという不安はありました。当時はまだ33~34歳で、社運をかけた挑戦をするには若かったのもあります。
ただ、若いうちにこういった経験をできたのは良かったと思いますし、ほかの社員たちにもどんどん挑戦してもらいたいです。
失敗したらどうしようと考えて何もしないよりは、実際に動いて失敗したほうが良い。挑戦して失敗したところで会社は潰れませんし、そんなことで潰れるのであれば、それは社員ではなく会社がダメだということです。
ーー米国進出では、ご自身のどのような経験が活きましたか。
嶋田守:
米国という文化も言語も慣習も異なる環境で、ゼロから法人と工場を立ち上げるのは本当に困難の連続でした。しかし、そこで私の最大の武器となったのが、群馬や三重の工場で数十年にわたり培ってきた「ものづくり現場での基本」です。現場の機械の仕組みから、品質管理、生産管理、作業員の動線に至るまで、製造のすべてを一通り経験していたため、現地スタッフにも的確な指示を出すことができ、一緒になってトラブルにも対応できました。この米国でのゼロからの立ち上げ経験は、事業を創り上げるプロセスを通じて「経営そのものを学ぶ」という、私にとって非常に大きな転機になりました。
未曾有の危機を救った「何もしないよりも挑戦」の信念
ーー社長に就任された経緯と、当時の会社の状況について教えてください。
嶋田守:
私が社長に就任して間もなく、リーマン・ショックが起きました。世界的な金融危機により自動車産業全体が未曾有の大打撃を受け、弊社も売上高が急減するという本当に大変な状況での船出でした。社内にも不安が広がっていましたが、そうした危機的状況だからこそ、私は「何もしないよりも挑戦!」というスローガンを強く掲げたのです。守りに入って縮小するのではなく、攻めの姿勢を貫くことを決意しました。
ーーその危機を、どうやって乗り越えてこられたのでしょうか。
嶋田守:
単なる価格競争から脱却し、「付加価値の高いパーツの拡大」へと大きく舵を切りました。他社には真似できない複雑な形状や、より高い強度が求められる特殊な部品など、技術的ハードルの高い製品の開発・製造に全力を注いだのです。製造現場で培った冷間鍛造の技術力があったからこそ実現できた戦略であり、この高付加価値化への挑戦が、リーマン・ショックの危機を乗り越え、その後の成長軌道を描く最大の原動力となりました。
ーー挑戦する気持ちが重要ということですね。
嶋田守:
フロンティア精神というか、やはりチャレンジングな部分は必要だと感じています。ただずっとチャンスを待っているのではなく、道なき道をつくる気持ちや、常に一歩先を行く気持ちを持つことは大切だと思います。
長い歴史の中でも時代に合わせて変われる柔軟性が強み

ーー貴社は長い歴史がありますが、どういった点に強みがあるとお考えですか。
嶋田守:
弊社は歴史がある会社ですが、時代や状況に合わせて判断を変えてきました。「その道一筋」の会社が悪いわけではありませんが、弊社は1つのことだけにのめり込まず、いろいろなことに少しずつ手を出しているのが強みです。
また、お客様からただ図面をもらうのではなく、一緒に図面を引いているのも弊社ならではの強みです。お客様から言われた通りにただ従っているわけではないので、弊社は自社の生産コストを下げられますし、最終的な費用が安く済むのでお客様にも喜んでもらえます。
ーー「一緒に図面を引く」という強みは、品質にも直結するのでしょうか。
嶋田守:
もちろんです。自動車の重要保安部品を扱う以上、品質の高さは非常に重要であり、弊社は世界トップクラスの品質と技術を誇っていると自負しています。ただ図面通りに正確に作るだけではありません。開発の初期段階からお客様である自動車メーカーと密に連携し、一緒に設計していくプロセス(VA/VE:価値分析・価値工学 提案)に力を入れています。これにより、品質を世界トップクラスに保ちながら、コストダウンも両立させているのです。
ーー先ほど「社員にはどんどん挑戦してもらいたい」とおっしゃいましたが、挑戦しやすい環境づくりなどもされているのでしょうか。
嶋田守:
挑戦という面での取り組みでいえば、入社2年目の若手でも海外駐在に行ってもらうなど、海外経験を積んでもらうようにしています。
また、オープンな意見を共有できるような、風通しが良くなる環境づくりも意識しています。風通しが良いので社員同士で自由に意見を出すことができ、結果として判断を下すスピードが速くなっています。
ーー他にも、社員の意欲を向上させる取り組みはありますか。
嶋田守:
会社が持続的に成長するには、社員のエンゲージメント(貢献意欲)向上が不可欠です。風通しの良さに加えて、「こんな新しいことに挑戦したい」「自らのスキルを広げたい」と手を挙げた社員に対しては、会社として全面的にバックアップする制度を整えています。年齢や社歴に関係なく、挑戦する意欲のある人間が正当に評価され、活躍の場を広げられる土壌を作ることで、組織全体の活性化を図っています。
ビジネスマンとして大切なパッション・ミッション・アクション

ーー今後の展望や、新たな取り組みについて教えてください。
嶋田守:
今後は、今まで続けてきた製造方法ではなく、新しい方法を考えていきたいです。理由は、社員が仕事を楽しく行えるようにするためです。もし今まで続けてきた方法で大変だと感じているのであれば、もっと仕事が楽になる方法を考える必要があります。仕事のしんどさが解消されれば、社員たちは今よりも楽しく仕事に取り組んでくれると思うので。
現在、全社を挙げて「FDX2030」という業務改善の推進活動を強力に進めています。これはデジタル技術やAIを駆使して、2030年に向けた次世代のものづくり体制を構築する取り組みです。5年後、10年後にフセラシが目指す姿は、まさに「働きやすい環境整備」が完全に実現された工場です。社員に働きやすいツールや最新設備を与え、肉体的、精神的な負担を大幅に減らして仕事を楽しむ時間に充ててほしいと考えています。
ーー事業を行う上で大切にしている信念と、夢を叶えるために組織として必要なことについて教えてください。
嶋田守:
私が大切にしているのは、パッションとミッションとアクションです。パッションは情熱で、ミッションは使命。この2つがあっても、アクションつまり行動がなければ意味がありません。どれか1つでも欠けていては、結果は出ないという考え方を大切にしています。
そして夢を叶えるためには、組織としてある程度「失敗を許容する」ことが絶対に必要です。パッションとミッションを持ち、果敢にアクションを起こした結果の失敗であれば、それは咎めるべきものではなく、次へ進むための貴重なデータです。失敗を恐れてアクションを起こさないことのほうが、企業にとってははるかに大きなリスクなのです。
また、私は創業者の孫ですが、今後社長は家系に縛られる必要はないとも思っています。弊社は家業ではなく、企業ですから。能力がある人、時代に相応しい人が社長を担っていくのが当然だと考えています。
ーー最後に、読者やこれからフセラシに関わる方々へメッセージをお願いします。
嶋田守:
自動車部品メーカーとして、「品質第一」というのは当たり前の大前提です。人の命を乗せて走る車を支えている以上、品質に一切の妥協は許されません。しかし、これからの時代に我々が生き残り、さらに飛躍していくためには、製品そのものの品質に加えて、一人ひとりの「仕事の質を高めていくこと」が非常に重要だと考えています。課題に対するアプローチの質、コミュニケーションの質、そして日々の業務に向き合う姿勢の質。社員全員がパッションとミッションを持ち、アクションを起こしながら仕事の質を極めていくことで、フセラシはこれからも世界から求められる企業であり続けると確信しています。
編集後記
90年以上の長い歴史を持つフセラシだが、嶋田氏は創業家としての歴史や家訓を重んじつつも「家業から企業への転身」、「変化に柔軟に対応できる会社でありたい」という姿勢を貫いている。製造現場での長年に亘る経験から得たものづくりの確固たる信念と、海外拠点立上げ、リーマン・ショックを「挑戦」で乗り越えてきた言葉には深い説得力があった。若手社員の声を積極的に取り入れ、「FDX2030」など次世代の働き方を推進する同社なら、従来の価値観に縛られることはないだろう。「品質第一」という不動の前提と、個人の「仕事の質」を追求する姿勢により、同社は自動車産業の未来を確かに支えていくに違いない。

嶋田守/1960年、奈良県出身。1984年京都外国語大学卒業後、株式会社フセラシ入社。群馬工場、三重工場の製造部門を経て、米国現地法人立ち上げのため赴任。1997年、米国現地法人社長就任。14年間余り米国に駐在し、常務取締役など経て2007年12月、代表取締役社長に就任。