2007年8月、佐川急便株式会社を中核とする「SGホールディングス」グループの一員として設立された「SGリアルティ」。
代表取締役社長の橋本譲氏は、セールスドライバー®の経験からキャリアを構築した人物だ。興味深い経緯をひもときつつ、不動産の領域から物流インフラをサポートする企業の実態を聞いた。
SGリアルティについて――不動産部門でグループの事業を支援
ーー貴社の事業内容についてご説明いただけますか。
橋本譲:
当社は、佐川急便をはじめとしたSGホールディングスグループにおいて、物流不動産の開発・管理・運用を営む会社です。具体的には物流拠点や整備工場など、グループが利用する不動産の安定的な維持・管理はもとより、多岐にわたる開発事業を展開しています。
当社グループのデリバリー事業やロジスティクス事業等の用地を有効活用し、それらの事業拡大を不動産面から支援することが当社のミッションです。また、グループ外のお客さまに向けて、倉庫スペースの賃貸事業、新大阪でのビジネスホテル事業、太陽光発電事業などにも注力しています。
2007年の設立後、2013年には子会社としてSGアセットマックス株式会社を設立し、2015年から私募リートであるSGAM投資法人をスタートさせ、事業領域を拡大してきました。私は2023年4月1日付けで代表取締役社長に就任いたしました。
キャリアジャーニー「きっかけは佐川急便でのアルバイト」
ーー佐川急便でのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
橋本譲:
学生の頃から、春夏冬の長期休みに佐川急便で仕分けアルバイトをしていました。そこで、生き生きと楽しそうに働くセールスドライバー®の方たちと接したことで「私もいつか先輩のようになりたい」という強い憧れを抱き、入社を決断しました。
1986年に名古屋店の業務課(現・名古屋営業所のカスタマーサービス課)に配属され、1年間は会社の業務について現場で勉強しました。2年目以降は担当コースを受け持ち、集荷・配達・集金・債権管理・営業といった業務全般を担うセールスドライバー®となりました。
ーーセールスドライバー®時代の印象的なエピソードはありますか。
橋本譲:
セールスドライバー®には、「コース」という集配エリアが一人ひとりに割り当てられます。私が初めて担当したコースは名古屋市熱田区でした。当時の上司からは、エリア内のすべてのお客さまの管理について、責任を持って対処するよう指導を受けました。
そのときに「このエリアでは君が会社の代表だ」という言葉をいただき、今でも強烈な記憶として残っています。「自分がやるしかない」という覚悟を決めるきっかけにもなりました。
欠勤することがあれば周りの先輩、そして何よりもお荷物を待つお客さまにご迷惑をかけてしまうので、健康管理には特に気をつけていました。社会人2年目のこのような経験があったからこそ、「責任」という言葉の重みを若いうちから理解できたのかもしれません。責任感というものが、現在も仕事をする上で私の原動力になっています。
多数のマネジメント部門を経て経営者へ
ーー経営者となるまでの経緯をお聞かせください。
橋本譲:
営業所の店長(現・所長)から中・四国支店の営業部長、京都支店支店長、本社営業部長を務めました。そして2017年、電報便サービスでお付き合いのあった株式会社ヒューモニー(現・佐川ヒューモニー株式会社)を佐川急便がM&Aすることになり、このとき初めて社長を任せていただきました。
当時のヒューモニーはベンチャーから成長した会社であり、企業風土も佐川急便とまったく異なりました。従業員の方の不安な気持ちに寄り添うことと、社員の方が不利益を被ることがないよう、社内制度を変えない形で受け継ぐことを第一に考えました。
「物流✕不動産」を組み合わせた企業の強み
ーー貴社の強みはどのような点でしょうか。
橋本譲:
当社は佐川急便の施設開発部門が独立した会社であり、大型物流倉庫の豊富な開発実績があります。倉庫の一部分には佐川急便の集配拠点が入っていることもあり、そういったケースで上階に入居いただくテナント様には、荷物を発送できる時間がフレキシブルになることや、配達までのリードタイムが短縮できる点でメリットを感じていただいています。
「物流と不動産」をかけ合わせた施設を作り上げるため、エンジニアリングの専門部署を設置し、グループ各社と綿密なコミュニケーションを取って設計を行っていることも特徴です。また、不動産用地の取得やPM(プロパティマネジメント)の領域についても専門性の高いメンバーがそろっています。
管理をお任せいただいた物件については、全国各地の営業所メンバーが日々対応し、長期的な保守・修繕業務を滞りなく実施しています。そういった例からも、当社の強みは高い志と知見をそなえた豊富な「人材」にあると思っています。
日本の物流インフラを支える――企業の展望と責任感
ーー今後の展望についてお教えください。
橋本譲:
SGホールディングスグループの不動産価値を高めることを念頭に進めつつ、多様化するお客さまのニーズにお応えする施設開発も行っていく予定です。
施設の屋上部分を利用した太陽光発電事業では、FIT制度に基づく売電がメインでしたが、今後は当社グループの再生可能エネルギーの利用率向上を見据えて、発電事業の知見を活かした環境貢献や、電力の自家利用を含めた展開も探っていきます。
最近では生活スタイルの変化に伴いEC需要が増大し、物流が担う社会的意義に注目が集まるようになりました。また、夏には台風による水害が各地で見られましたが、大型物流施設は災害時における避難場所としても有用であると考えています。
地域社会との協働の中で、「企業として何ができるのか」と強く問われていると感じます。あらゆる企業様のBCP(事業継続計画)に貢献するという観点からも、日本の物流インフラを支える一端の企業として発展を続けていきたいと思います。
編集後記
SGリアルティの事業について、「社会的にも責任が重い」と語った橋本社長。物流の発展や課題解決は、コロナ禍をきっかけとして多くの企業が取り組んでいる分野だ。
「物流✕不動産」を組み合わせることによる効率性は、一般的にはあまり知られていない。しかし、事業の領域や可能性が大きく、その発展は私たちの生活にも密接にかかわってくるだろう。
橋本譲(はしもと・ゆずる)/1986年に中京佐川急便株式会社に入社。2016年に東京本社営業部部長、同年に株式会社ヒューモニー(現:佐川ヒューモニー株式会社)代表取締役社長に就任。2020年、佐川アドバンス株式会社 代表取締役社長を経て、2023年4月よりSGリアルティ株式会社 代表取締役社長に就任。