※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

2013年、FAO(国連食糧農業機関)が昆虫食の有用性の報告書を公表した。国内ではタンパク質やミネラル分も豊富なコオロギに注目が集まった。2022年には、学校給食で初めてコオロギパウダーが使用され、再び世間の注目を浴びることとなった。

食料問題と環境問題を同時に解決する食用コオロギ事業に、金属メッキ事業から異色の参入を試みたのが、ハイジェント株式会社だ。

今回は全く別の事業から新しい事業へと参入を決意した経緯と、今後の企業展望について代表取締役社長である小林剛氏にうかがった。

大企業から異例の転職

ーー社長に就任されるまでの経歴を教えてください。

小林剛:
大学卒業後は、縁があり大手建設会社に入社しました。スケールが大きな会社で働くことに関心はありましたが、人に使われるということが好きではなかったので、いつかは起業したいという思いは当時から持っていました。

15年ほど勤め、会社の全体像がみえるようになり地に足がついてきた頃、父が前オーナーから現会社を購入し、将来的には事業承継を視野に入れたいという打診がありました。

変化を求めた時期でもあり、挑戦したいという思いがあったので、弊社への入社を決意したのです。

ーー入社して苦労したことはありますか。

小林剛:
知名度の高い前職と異なり、中小企業は実績が必要で、取引先との信頼関係を少しずつ築いていかなければなりません。付き合い方も含め、何もない状態から営業活動をしなければならなかったため苦労しました。

また、人事制度や年次計画などが形として存在していなかったことにも驚きました。前職では入社したときから当たり前にあったものだったので、一番衝撃を受けましたね。

社長就任後は、従業員との距離感が広がってしまい、現場からの直接的な意見を聞くことが難しくなったと感じています。この状況を解決するために、今後は会社全体の風通しを良くしたいと思っています。

伝統を守りながらもチャレンジ精神は忘れない

ーー貴社の事業内容や強みをお聞かせください。

小林剛:
メッキ加工・メッキ加工品の販売・ハーメチック(気密・絶縁)製品の開発と、食用のコオロギの開発・生産などを行っています。

従来の事業では、「少量多品種」という伝統が弊社には残っています。発注数が少なくてもお客様のオーダーや予算に合わせて部品を製造できるようなラインが構成されていることが強みです。

小さいロットで発注したいという企業のニーズに応えられるため、大手のみならずさまざまな企業との取引があるという点が競合他社との差別化ポイントだと思います。

ーー食用コオロギ事業を始めたきっかけは何でしょうか。

小林剛:
SDGsが推進され弊社のような中小企業も環境問題に携わっていかなければならない中、エネルギーコスト削減などでは社会にインパクトを与えられないと思いました。そこで、将来不安視されている食料問題を解決するためになにかできないかと考えたときに、ニュースで取り上げられていた食用コオロギに注目したのです。

たまたま弊社山形工場(新庄市)に使用していない建屋があり、設備投資にそこまで予算をかけずに済むことも、新しい事業を始める後押しになりました。

突然のスタートだったので、ほとんどの従業員が驚き、不安視する声も多かったのですが、山形の新聞社に取り上げられたほか、中学や高校など教育機関からの問い合わせも多く、世間では話題になっていると理解されて徐々に受け入れられるようになりました。

ーー新規事業における貴社の強みについて詳しくお聞かせください。

小林剛:
全てを自社工場で行っていることです。食用であるため基準も厳しく、保健所のチェックもクリアした環境で生産しています。寒さに弱いコオロギのために工場に断熱材を入れ、人も飲用できる山形の美味しい水を与えているので、安心安全な環境が整っていると思います。

自社の事業の盲点に気づき、業務の拡大へ

ーー今後の事業展望について教えてください。

小林剛:
金属メッキ事業が扱う商品は、自動車関連部品がメインになってくると思います。将来自動車業界は電気自動車へとスライドしていくでしょう。ですから、弊社が求められているのはどのような部品なのかをいち早く判断して、製造ラインを変更・改造して部品供給をしていかなければならないと思います。

また、ハーメチック製品に関しては中国が突出しているため、量産型では日本に勝ち目はありません。そこで、製品にするには難しいもの、付加価値があるもの、彼らには真似できないものを開発したいと思っています。ただ、生産ラインで生産を終えたとしても、供給責任は継続するため、今ある古いものも守りながら、新しい技術を追いかけていくつもりです。

食用コオロギ事業の1つ目の目標は、コオロギパウダーを一般家庭に普及させること。各家庭にコオロギパウダーが常備され、食事にふりかけて手軽にタンパク質を摂取できる、という状況まで普及させるのが理想です。

2つ目は、ペットフード業界に進出することです。食用コオロギをペットに与えた場合のエビデンスがなく、商品化する難しさはありますが、挑戦していきたいですね。

ーー会社として注力するテーマについてお聞かせください。

小林剛:
弊社は金属メッキ事業とハーメチック事業がそれぞれ独立しているため、一方のクライアントがもう一方の事業を認知していないということもあります。既存のクライアントにもう一方の事業を説明することで、事業の幅が広がる可能性があるため、営業に力を入れていきたいと思っています。

新規の取引先を獲得することも大切ですが、今までお付き合いのある取引先の方に社内の違う部署へとつないでもらうような形が理想です。

自身の経験を振り返って

ーー今後どのような人と一緒に働きたいとお考えでしょうか。

小林剛:
どんなときも前向きに考えられる方です。営業に注力したいので、ニッチな部品を売るということに楽しみを感じられる方が弊社には合うのではないかと思います。

ーー20〜30代の方にメッセージをお願いします。

小林剛:
さまざまなジャンルの本を読んでもらいたいと思います。歴史の本から雑学の本、なんでもいいので情報をたくさんインプットしてください。

学校で学ぶ知識だけではなく、いろいろなジャンルに興味を持ったり、未来への展望につながる話を吸収したりすることが大事です。

編集後記

金属メッキ事業と食用コオロギ事業という、二足のわらじを履くハイジェント株式会社。全く異なる事業の両立には、常に前向きな姿勢を忘れない小林氏の経験が活かされているのだろう。

既存の顧客も大切にしながら市場を広げると同時に環境問題にも同時に取り組む方針は、世間で大いに受け入れられるだろう。今後もハイジェント株式会社の活躍に期待だ。

小林剛(こばやし・つよし)/1971年東京都生まれ。大学卒業後、1995年大成建設株式会社に入社。都市開発・作業所事務・営業部などを渡り歩き、2010年ハイジェント株式会社に入社。2018年に代表取締役社長に就任。専業である表面処理事業、ハーメチックシール事業の他、2021年から食用コオロギ事業を展開している。