若年層の車離れや消費者の節約志向に伴い、カー用品業界は緩やかな縮小傾向にある。
そんな中、コロナ禍以降も増収を続けているのが、自動車や家庭用、産業用ケミカル用品の製造販売を行っている株式会社ソフト99コーポレーションだ。
同社は自動車用ワックス「ソフト99(ハンネリ)」をはじめ、洗車後に拭くだけでワックスがけができる「フクピカ」など、多数のヒット商品を生み出している。
「心揺さぶられるアナログ的価値の提供」を経営ビジョンとして掲げる、代表取締役社長の田中秀明氏の思いを聞いた。
ソフト99コーポレーションの看板商品「フクピカ」開発秘話
ーー社長に就任されるまでの経緯について教えていただけますか。
田中秀明:
私は創業者一族なのですが、会社の上場に向けて手伝ってほしいと声がかかり、トイレタリー用品を扱う会社から転職してきました。
入社してから会社の仕組みづくりに携わった後、商品開発を10年ほど行い、経営企画に移って今に至ります。
ーーヒット商品の開発エピソードなどはありますか。
田中秀明:
弊社はワックスメーカーなので、車に塗るケミカル商品が多かったのですが、洗車後に拭くだけでワックスがけができるという手軽さから「フクピカ」がヒットしました。
この商品は、もともと洗車用の拭き布として売り出す予定だったのですが、私はワックスとして売り出した方が、他の商品と価格差が出て注目されるだろうと思ったんですよ。
そこで、ワックスの商品棚に置いてもらえるよう、袋入りではなく箱入りにすることを提案したのですが、当時の経営トップに却下されてしまったんです。
それでもあきらめず販売に向けて準備し続ける私の姿を見て、当時の経営トップから「勝手にしろ」と言われ突き放されましたが、そのまま箱入りの状態で販売することになりました。
その結果、弊社の看板商品となったので、私の中でも大きな成功体験になりましたね。
ーーヒット商品を生み出した一方で、あまり売り上げが伸びなかった商品もあるのでしょうか。
田中秀明:
もちろん上手くいかなかった商品もたくさんありまして、そのひとつがパーカーを着せた車用の芳香剤です。試作品をつくってみたところ、女性社員に「かわいい」と好評だったので商品化したのですが、見事に外れましたね。
これは後から気付いたのですが、地方に住んでいる方を除くと車を所有している女性が少なく、そもそもカー用品を購入する機会がほとんどないのですよ。この商品はターゲット層を見誤ったと反省しましたね。
ーー新商品を開発するにあたって軸となる部分はどこでしょうか。
田中秀明:
カー用品市場は、ここ30年ぐらいずっと右肩下がりで厳しい戦いを強いられています。
週休1日だった頃は、日曜日の午後にお父さんたちが家の前で車を洗う光景をよく目にしました。しかし、週休2日制になって家族みんなで出かけるようになったことで、車を洗う時間がなくなっていったのです。
すると、洗車をするのが3ヶ月に1回とか、あるいは年末だけと徐々に頻度が下がっていって、マーケットサイズが縮小していきました。
そこで、私たちは「洗車=しなくてはいけないもの」というイメージを払拭し、洗車を楽しんでもらうため、エンターテインメントの要素を取り入れる工夫をしています。
たとえば、噴射機構がトルネードのように回りながらコーティング剤をボディに吹き付ける「レインドロップ トルネードヴォルテックス」などもそのひとつです。
このように、お客様に使ってみたいと思わせるエンタメ性を商品にどう付与するかが、私たちのテーマのひとつになっています。
教科書にないものをつくっていくことが仕事
ーー貴社の社風についてお聞かせいただけますか。
田中秀明:
何事も自分がやるべき仕事だととらえて取り組んでくれる社員が多いですね。
たとえば、新型コロナウイルスが蔓延し、消毒用のアルコールが不足していたときには、弊社の調達ルートを生かし、早急にアルコールの消毒液の製品化を実現してくれました。
前例がない中で、とりあえず消毒液を詰められる容器を確保し、急ピッチで準備を進めた結果、緊急事態宣言が出た4月に着手し、6月末にはプレスリリースを出せたのです。
その他にも、社員が「以前に保存試験をクリアしているので、抗菌作用のあるウェットティッシュもすぐに製品化できますよ」と提案してくれ、即座に発売にこぎ着けました。
このように「今やるべきことをしよう」と社員それぞれが自発的に動いてくれたことで、非常時にもかかわらず次々と商品を発売できました。
ーー経営者として大切にされている価値観などはありますか。
田中秀明:
「教科書にないものをつくっていくことが仕事」ということは、社員に日頃から伝えていますね。
テストの点数で評価される時代になり、参考書の問題を解くときも、まず解答ページを見ることが当たり前になってきて、模範解答通りに答える方が増えているように感じています。
しかし、私自身、答えは自らでつくり出すものだと考えているので、私たちはまだ世の中に出ていない「答えをつくっていく会社」でありたいと強く思っています。
心揺さぶられるアナログ的価値の提供
ーー今後の貴社の注力テーマについてお聞かせいただけますか。
田中秀明:
中期計画のビジョンの中で「心揺さぶられるアナログ的価値の提供」を追求することをテーマとしています。これは人間にしかできない創造性を生かし、製品・サービスの付加価値を向上させようという考えがベースです。
ニーズに合った商品をつくるのではなく、興味を持ってもらえそうな商品を社員自らが考え出す「アナログ的価値の創出」をビジョンとし、新たな商品やサービスを生み出していきたいと考えています。
ーー今後の事業展開について教えていただけますか。
田中秀明:
日本国内では車が個人で所有するものから利用するものに変化しつつありますが、消費材の販売で培った技術やノウハウを生かしてカーシェアリングやレンタカー向けに製品やサービスの展開を拡大していきたいと考えています。
一方で、インドやタイ、インドネシアなど、これから発展が期待できる国では、今後も消費材の需要があるので、積極的に売り上げを伸ばしていくつもりです。
ーー最後に、この記事を読まれている10代・20代の方にメッセージをお願いします。
田中秀明:
世の中の変化を肌で感じ、社会に出てこられる方々は、宝だと思っています。
そんなみなさんには、自分の考えを押し殺して周りと上手くやっていこうとするのではなく、持って生まれた感性を大切にしながら、思う存分社会で力を発揮してもらいたいですね。
失敗してもリカバリーすればいいので、どんどんチャレンジして成長を続け、一人前の社会人になれるよう頑張っていただけたらと思います。
編集後記
自家用車に乗る機会が減り、洗車をする頻度が少なくなった現代で、時代に合わせた商品やサービスを提供し続けている田中社長。商品開発においてはマーケティング調査は行わず、お客様の興味を引く商品を「自分たちの頭で考える」やり方を貫いているという。「アナログ的な価値観」を大切にする株式会社ソフト99コーポレーションは、誰も考えつかないような新商品を、今後も生み出していくことだろう。
田中秀明(たなか・ひであき)/大学卒業後、外資系のトイレタリー企業を経て、1996年株式会社ソフト99コーポレーションへ入社。営業サポート部門、商品開発部門を経て、2008年に取締役経営企画室長、2013年に代表取締役となり現在に至る。