※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

年間を通じておもちゃが1番売れる時期はクリスマスだという。2022年度における国内の玩具市場規模は9,525億円、前年度比106.7%で過去最高を更新した。中でもプラモデルを含むホビー関連市場規模は前年度比108.8%であり、好調に推移している。

そんなホビー業界において、業績を伸ばしているのが株式会社壽屋だ。

今回は代表取締役社長清水一行氏に、節句人形の小売店から玩具メーカーへの転身や、自社IP(知的財産)商品開発への思い、そして今後の展望について話をうかがった。

破天荒だった青年が社長になるまで

ーー社長に就任した経緯を教えてください。

清水一行:
私は大学を中退し、アルバイトでお金を貯め、1年間アメリカ留学しました。現地の方たちは日本文化に興味があるので、茶道や華道、空手のような日本文化について、私に尋ねるのですが、当時の私には十分な知識がなく答えられませんでした。

この経験から、日本文化をもっと勉強しなければならないと思いました。加えて、日本文化を英語で説明できるスキルも必要だと考え、日米会話学院へ入学しました。

そこで妻(現壽屋副社長)と出会い、結婚を機に弊社に入社し、その8年後に2代目社長に就任しました。

もともとフィギュアにもプラモデルにも興味がなく、いやいや継いだ会社でしたが、
店を盛り上げようと夫婦で試行錯誤を重ねました。

カギは美大生!玩具メーカーへの軌跡

ーー節句人形の小売店から玩具メーカーになったきっかけは何でしょう。

清水一行:
弊社は節句人形の販売がメインでしたが、人形の売上は低迷していき、ホビーショップへと業態を転換しました。

もっと店を面白くしたいと思っていたところ、スーパーカーやガンダムが流行し始めます。この流行には子どもより大人のほうが熱狂していました。

弊社のある立川のエリアには、美術系の大学や美術系の予備校がたくさんあります。そこに通う学生からの情報を参考に品ぞろえをしていました。近くには横田基地もあるので海外の情報も手に入り、その情報を基に海外までプラモデルを買付けに行ったこともあります。

そんな折、知り合いの美大生が、「このくらいのレベルなら私は一からつくれる」と、試しにガレージキットをつくりあげました。それが発端で、弊社でもそのようなオリジナルのガレージキットなどをつくってみようということになり、玩具メーカーとして歩むことになったのです。

プラモデルの品質と課題

ーー貴社のプラモデルは、子どもや手先がそれほど器用でない人でもかっこよく仕上がるのはなぜでしょう。

清水一行:
弊社はガレージキットメーカーとしても認知されています。クオリティにこだわった商品を、弊社の手でつくり上げていくことを大切にしています。

仕上がりを常に念頭に置き、キットの作成に取り組んでいます。その技術が商品に反映されているからだと思います。

自社IPの開拓に成功する!

ーー自社IPをつくるきっかけを教えてください。

清水一行:
弊社はガレージキットで培った技術力があります。また他社IPのプラモデル開発を数多く手掛け好評だったことから、弊社が「プラモデルを開発しているメーカーである」という認知度が徐々に上がっていきました。

モデリングや改造をサポートするオリジナルアイテムもつくっていたので、それらのアイテムを活かせ、且つ自社で版権が管理できるオリジナルタイトルを育てようという新たな戦略のもと、弊社初のオリジナルプラモデル「フレームアームズ」が生まれました。

その後「フレームアームズ」の機体を美少女化したスピンオフ企画「フレームアームズ・ガール」も誕生し、この時期あたりから、弊社は美少女プラモデルというジャンル開拓の先駆者と呼ばれるようになりました。

アニメファンとの出会いが視野を広げた

ーーフレームアームズのスピンオフ企画である「フレームアームズ・ガール」はアニメ化されましたが、その後貴社で変化したことはありますか。

清水一行:
「フレームアームズ・ガール」がアニメ化され、その後声優を招いてイベントを開催しましたが、実はそこに来られたお客様の7割から8割はプラモデルをつくっていませんでした。そのようなアニメファンにヒットする商品を展開すればよいのではないか、と気づきました。

それからプラモデルだけでなく、さまざまなメディアとコラボレーションして商品を展開することを意識するようになりました。

グローバル展開に向けて

ーー貴社の商品は海外でも人気がありますが、地域的な特色はありますか。

清水一行:
中国、台湾、韓国、シンガポール、フィリピンなどのアジア地域では、業績が順調に伸びています。

各地域におけるマーケティングを強化しており、市場に合わせた自社IPのローカライズの強化を行うと共に、現地企業とのアライアンスにより、さらなる販売網の拡大に注力し、海外販売を伸ばしていく方針です。

常に新しいことにチャレンジする!

ーー清水社長が経営者として大切にしていることは何ですか。

清水一行:
弊社は、「毎日1mmでもいいから成長しよう」というマインドがあります。

同じものばかりでは、私たち自身もお客様も飽きてしまいますし、会社の成長につながりません。弊社は、どんな会社かと聞かれたら「壽屋」と言えるくらい名が通り、どんなことでもできる企業を目指しています。

ーー貴社は今後、どのような事業展開をお考えですか。

清水一行:
フルオリジナルで、強力な自社IPをつくらなければならないと考えています。自社IPだけで企業活動を継続できることが一番の理想です。

今は、店舗の片隅に弊社の小さなコーナーを置くことしかできません。しかし、今後は、弊社のオリジナルコンテンツだけで店舗を構えられるよう、商品の種類を増やすことに取り組んでいます。

中心となる強力なキャラクターを育て、1つのIPでぬいぐるみや缶バッジのような商品をつくったり、さまざまなメディアとコラボレーションしたりして、弊社の商品の幅やファンを増やすことができればと考えております。

また、廉価で手に入れやすい商品を提供する一方で、5万円から10万円の範囲の高単価な商品の開発も進めています。高単価な商品の販売は難しいのですが、弊社はこれからも挑戦していきます。

編集後記

少子化、核家族化、住宅事情の変化といった社会的な背景により節句人形の売上が減少する中、ガレージキットから始まり、プラモデル、自社および他社IP商品の開拓により業績を伸ばす壽屋。

成長と挑戦を胸に、清水一行社長は理想の実現に向け、これからも走り続ける。

清水一行(しみず・かずゆき)/1954年、東京都立川市に「人形と玩具 壽屋」を営む家の長男として生まれる。法政大学に進学するも2日で中退。さまざまなアルバイトでお金を貯め、1年間アメリカ遊学に出かける。帰国後、日米会話学院に入学。そこで出会った、現副社長である清水浩代氏との結婚を機に78年壽屋に入社。先代の清水一郎氏の後継として、86年6月代表取締役社長に就任。現在、日本プラモデル工業協同組合の代表理事も務める。