化粧品成分のトラブルを元に、1980年に厚生労働省がアレルギーや皮膚炎、発がん性がある成分として「表示指定成分」を定めて以降、これらの成分を含まない化粧品を「無添加化粧品」と呼ぶようになった。
その無添加化粧品のOEM(受託製造)をはじめ、自社ブランドの製造・販売を行っているのが、株式会社ジュポンインターナショナルだ。
同社は1976年の創業から自然派化粧品を追求し、業界初の「水溶性ファンデーション」の開発に成功した。また、長年の研究ノウハウを活かし、化粧品の受託製造や商品企画も請け負っている。
自社ブランド品の製造メーカーからOEM事業を立ち上げ、会社の立て直しを実現した代表取締役社長の上岡淑郎氏の思いを聞いた。
自社ブランドの製造販売からOEMを始めた経緯
ーー貴社は自社製品の製造・開発だけではなく、OEMも行っていますね。
上岡淑郎:
弊社はかつて自社ブランドの製造販売をメインに行っていました。当時は販売会社に言われた通りに作ればいい、それで売れなかったら営業が悪いんだという考えで、成長意欲がなかったのですね。
私が社長に就任したときに、このままでは会社が衰退してしまうと危機感を覚え、化粧品メーカーの商品を自社で製造するOEM事業をやってみようと従業員に提案したんです。
ただし、世の中の多くの人が現状維持を好むように、新事業を始めることに反対する人が多かったですね。その一方で、転職組の中には「この体制のままだとまずいな」と感じていた人もいたようで、徐々に協力者が増えていきました。
ーーそれからどのように事業を広げられたのでしょうか。
上岡淑郎:
反対していた研究員を1人ずつ説得して無添加化粧品の開発に着手し、OEM製品の製造も開始しました。
防腐剤が入っていない無添加の化粧品は使用期限が短いため、2〜3年保管する実店舗で取り扱っているところはほとんどなく、当時は数社しか製造していませんでした。
しかし、通販が普及してお客様に商品をダイレクトに届けられるようになり、使用期限のハードルがなくなったことで、無添加化粧品の人気が一気に伸びたんです。
また、弊社ではこれまでに培った技術やノウハウをすべてOEMに反映し、より良い製品の開発に力を注いできました。
その結果、国内大手化粧品メーカー数社に弊社の開発力や技術力の高さが認められ、今では全体の売り上げの8割ほどはOEMが占めています。
「日本で一番お客様に近い研究所」がモットー
ーーその他にはどのような社内改革を行ってこられたのでしょうか。
上岡淑郎:
それまで研究員は実際に商品を使用している方々の意見を聞くことなく、商品開発を行っている状況でした。
この環境を改善するため「日本で一番お客様に近い研究所」を目指し、研究員が直接取引先を訪問して、営業員やコールセンターのスタッフの方々に自ら新商品の説明をする機会を設けるようにしました。
こうした場をつくることで、直接消費者と接している方々から意見をいただけるようになり、お客様目線で商品開発を行えるようになりましたね。
また、開発者の方が立場が上だと勘違いして傲慢になるのではなく、商品の販売に携わっているスタッフを自分たちのパートナーと考えるよう、社内で教育しています。
さらに、研究室と製造部門をドア1枚で分けたことで、気軽に声をかけられるようになり、コミュニケーションの活性化につながりました。
ーーお客様と交流することによって、自社商品の開発にも影響があったのでしょうか。
上岡淑郎:
自社商品の開発とOEMは担当を分けているので、直接的な影響はないですね。なぜかというと、OEMで請け負っている商品は他社で販売しているものだからです。他社の製造方法をまねてしまうと信用問題に発展してしまうため、そこはきちんと住み分けをしています。
ーー新規営業は行われているのでしょうか。
上岡淑郎:
開発力や品質の高さで信用を得てきたおかげで、お客様からの紹介だけで売り上げの9割を占めていて、一時はインターネットの受付をストップした時期もあります。
これは不思議に思っている部分もあるのですが、原料メーカーや化粧品容器の製造会社、化粧品会社もライバル会社へ弊社を紹介してくださるのですよ。
そのため取引先を確保するために活動をしなくても、ご紹介いただいた企業様の案件だけで経営が成り立っている状況です。
5トン窯を導入し、大量生産が可能に
ーー設備投資についてはいかがですか。
上岡淑郎:
栃木県の宇都宮市にある工場に、化粧品の一番重要な中身であるバルクを製造する5トン窯を導入しました。これでOEM製品を大量生産できる体制が整い、大手メーカーから大量注文をいただいても対応できるようになりました。
ーー競合他社では5トン窯を持っているところはあまりないのでしょうか。
上岡淑郎:
決して多くはないですね。中には10トン窯を設置しているところもありますが、5トン分しか作らない場合は稼働コストが無駄になってしまいます。一度に大量に作り過ぎると品質の低下につながってしまうので、5トン窯がちょうどいい大きさだと思います。
ーー2020年に新設された第二研究所のお写真を拝見しましたが、とてもスタイリッシュな雰囲気ですね。
上岡淑郎:
社員から「本社工場とはまったく別の空間ですね」という声を聞きました。この第二研究所を作ったことでイメージアップになり、京都大学や横浜国立大学、名古屋大学の方々からも応募が来るようになりました。
研究所は20代〜30代の若手社員がほとんどで、管理職もいないのですが、みんなとても仕事熱心で、「そんなに残業したらだめだよ」と私が注意するほどです。
取引先の方々に新商品の説明をする際も、自分が開発に携わった商品の魅力を伝えたいという強い意志があるため、いつも熱心に説明してくれています。
今後の展望・読者の方々へメッセージ
ーー今後の商品開発の展望についてお聞かせいただけますか。
上岡淑郎:
今期から来期にかけての注力テーマは、新技術の開発です。1つ目が、紫外線カット機能に加え、肌にツヤを与えて明るく見せるUV下地クリームの開発です。
2つ目が、アルコール不使用のUVミストの開発です。他社では紫外線吸収剤を溶かすためにアルコールを使用していますが、弊社では肌にやさしいUVミストの開発に挑んでいます。
3つ目が、信州大学と合同で研究している、油と水を乳化させる際に界面活性剤を使わない乳化技術の開発です。この技術を活用し、クリームや乳液などの製造に応用できないか研究を続けています。
ーー最後にこの記事を読まれている10代、20代の方々に向けてメッセージをお願いします。
上岡淑郎:
本気でやりたいことがあるなら、今すぐ行動を起こすことをお勧めします。
私は大学時代に競技ダンス部の部長として、大会に向けてみんなのモチベーションを最高の状態に持っていくことにやりがいを感じ、それがきっかけで経営者になりたいと考えました。
産業能率大学に入り、会計事務所に就職したのも、自分が将来社長になることを考え、まずは実際の社長と直接会って、どのように会社経営をしているのか学ぼうと思ったからです。
本気で挑めばたいていのことは上手くいくので、自分の叶えたい目標に向けて、まずは行動に移してみるといいと思います。
編集後記
会社の経営状況が悪化し、従業員の士気も下がっている中、会社を引き継いだ上岡社長。会社の再建を目指し、OEMに着手したことで業績を一気に改善させた。自然由来の人にやさしい化粧品を作り、快適な生活を提供する株式会社ジュポンインターナショナルは、これからも人々に寄り添う商品を生み出していくことだろう。
上岡淑郎(かみおか・よしお)/1959年栃木県出身、國學院大學経済学部卒業。産業能率大学、税理士事務所、経営コンサルタント会社勤務を経て、現、株式会社ジュポンインターナショナルの代表取締役に就任。以後、株式会社ジュポンコーポレーション、ベストパック株式会社、株式会社九州コーケン、株式会社日本ドライスキン研究所などの代表取締役を兼任する。