
自動車窓枠のゴム部品から始まり、時代の変化を先読みして樹脂事業へ転換、さらに3Dプリンター事業に進出し、特殊フィラメントで業界をリードするホッティーポリマー株式会社。タイ工場の設立や3Dプリンター事業の開拓など、常に次の一手を打ち続ける同社の挑戦について、代表取締役社長の堀田秀敏氏に話を聞いた。
想定外の入社から始まった、生き残りをかけた事業転換
ーー貴社に入社した経緯について教えてください。
堀田秀敏:
私は大学を出て、他の会社に就職し3年ほど働いていました。次男ということもあり、兄が弊社を継ぐものだと思っていたので、私は好きなことをしようと考えていたのです。しかし、父と兄の意見が合わず、兄が退職することになったのです。
そこで父から「家業に入らないか」という話があり、「私の好きにさせてもらえるなら」と返答し、弊社に入社しました。入社当時は書類をすべて手書きでするような状態だったので、基幹システムを整備しながら、営業活動も並行して行っていましたね。
ーー入社後のターニングポイントをお聞かせください。
堀田秀敏:
1995年ごろから、弊社は大きな転換期を迎えることになりました。当時の弊社はゴムの押出成形をメインに行っていたのですが、自動車産業のグローバル化が進み、部品の共通化やゴムから樹脂への転換が進んだことで、仕事が大幅に減少してしまったのです。このままでは私が社長になるころには大変なことになると思い、樹脂事業への転換に取り組むこととなりました。
時代の荒波を乗り越え、2桁成長を実現

ーー事業転換にあたって、どのような取り組みを行ったのでしょうか?
堀田秀敏:
まず、国際標準化の時代が始まることを見越して、ISO認証の取得を決意しました。1996年ごろから取得に向けて動き出しましたが、当時は社内の体制的にも意識的にもハードルが高く、製造部の検査係長には「そんなこと、無理だからやめましょう」と言われたことを覚えています。しかし、コンサルタントも入れて2年間ほど取り組んだところ、1998年ごろに無事取得できたのです。これはゴム業界の中小企業では非常に早い取得でした。
同時に、樹脂事業への転換も進めており、はじめは協力会社に頼りながら受注していました。しかし、それだけではいずれ対応しきれなくなると感じ、社員に樹脂の技術を習得させていったのです。その結果、樹脂事業の内製化に成功しました。2000年代に入ると業績も上向いていき、年商10億円ほどだった会社を20億円を超える規模に成長させることができました。
ーーその後はどのように事業を展開していきましたか?
堀田秀敏:
2000年代に樹脂事業で成功を収めた大きな要因の一つである建材分野へ事業領域を拡大していました。しかし、人口減少社会の到来により、住宅着工件数の減少が予測される中、継続的な成長への危機感が生まれました。そこで、海外展開に目を向けたのです。
その一環として、2010年にタイ工場を設立し、翌年から稼働を始めました。ところが、量産体制が整った矢先の2011年に大洪水が発生してしまい、工場が完全に水没してしまったのです。設備を入れ替えるなど、約半年をかけて必死に復旧に取り組みました。
しかし、復旧後の売上拡大は容易ではなく、円安への変化やタイ経済の停滞、品質管理の問題など、さまざまな課題に直面しました。それでも諦めず、アメリカの展示会出展や韓国、台湾、中国への営業活動を続けた結果、現在ではマレーシアへの直接販売なども実現できています。語学のできる人材も増え、グローバル展開の基盤を築くことができました。
ゴムと樹脂の知見を活かし、新たな市場を開拓していく
ーー現在はどのような分野に注力していますか?
堀田秀敏:
現在は3Dプリンター事業に力を入れています。2020年からこの事業に本格的に参入し、「HPフィラメント(スーパーフレキシブルタイプ)」という、ゴムのような特殊フィラメントの開発だけでなく、シリコンゴムを使用する3Dプリンターである「SILICOM(シリコム)」の開発も進めてきました。
弊社はもともとゴムメーカーである強みを活かし、ゴムのような特性を持つフィラメントを開発し、特許も取得しています。このような独自製品の開発によって、お客様の課題に対して多様な解決策を提案できるようになりました。フィラメント開発、機器開発、受託造形サービスという3本柱で事業を展開し、新たな価値創造に取り組んでいます。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
堀田秀敏:
今後は2つの軸で成長を図っていきます。1つ目は、弊社のコア事業である押出し技術の生産性向上です。ロボット化などに投資しながら、環境に配慮した独自製品の開発を推進したいと考えています。
2つ目は、3Dプリンター事業の拡大です。弊社が開発した「SILICOM」は、立命館大学や産業総合研究所など研究機関への導入実績もあります。医療分野ではCTデータから臓器モデルを造形し、患者様への説明や手術前の練習などに活用いただくこともチャレンジしていてここをさらに広げていくつもりです。
将来的には上場も目指しているので、試作から量産までワンストップで対応できる体制を活かし、常に変化と挑戦を続けることで、次の時代を切り拓いていきたいと考えています。
編集後記
取材を通して伝わってきたのは、堀田社長の「チャレンジ精神」と「ピンチをチャンスに変える力」だ。外部環境の変化を嘆くのではなく、自社の強みを見極めて新たな領域に踏み出す決断力は、多くの企業にとって参考となるものだろう。数々の困難を「変革のきっかけ」に変えてきたホッティーポリマーの歩みは、日本の製造業に希望の光を投げかけているように感じた。

堀田秀敏/1985年成蹊大学経済学部卒業。1988年堀田ゴム工業株式会社に入社。1990年取締役就任、1992年常務取締役就任。2000年ホッティーポリマー株式会社、代表取締役社長就任し、今日に至る。